第8話「ここにドーガ達が隠れている」

 冒険者ギルドは、少しピリついた空気になっていた。

 新顔である俺達を、冒険者達はじろじろと無遠慮に見て来る。

 

 その中で、見かけた顔があった。

 こちらに気づいたようだが、チラチラとこちらを見て、声をかけるべきか悩んでいる様子だ。


「久しぶりだな。確かドランのパーティだったか」


 なので、こちらから声をかける事にした。

 ずっとチラチラされては、他の冒険者から変な誤解を受けかねないしな。


「はい。お久しぶりです」


 やや戸惑いながら、魔法使い風の男が答えた。


「ドランの事は、サイドから聞いた」


「そう、ですか」


「残念だったな」


「残念……そんなもので、納得できるわけないだろ!」


 男の語気が荒くなる。

 本気で怒っているのだろう。眉をひそめ睨んできた。


「ひぃ!」


 後ろからベルの小さな悲鳴が聞こえた。

 その声で、魔法使い風の男は冷静さを取り戻したのだろう。


「すまない。軽率だった」


「いえ、こちらこそすみません」


 そう言って、お互いに頭を下げた。


「僕らは、ドランを含めて全員幼馴染みだったんですよ。冒険者をやっていれば命を落とす事だってある。覚悟はしているつもりだったのですが……ダメですね」


 男はそう言うと、はははと力なく笑った。

 他のメンバーも、困ったように一緒に笑っている。


 俺が話しかけた時、最初に返事をした魔法使い風の男。俺がパーティのリーダーと知ったうえで最初に反応したという事は、多分彼がドランの代わりに臨時でリーダーをやっているのだろう。

 前より少しだけ、頬が痩せこけて見えた。ドランを亡くしたショックか、パーティのリーダーをやる重圧によるものか。もしくは両方だろう。


「もし困った事があったら言ってくれ。力になる」


「ありがとうございます。そちらも何か困ったことがあれば、気軽に声をかけてくださいね」


「あぁ、その時は是非頼らせてもらう。今日はギルドに顔を出しに来ただけだから、またな」   


 ベル達も軽く挨拶をすまし、すぐにギルドを後にした。

 彼らの様子を、とても見てはいられなかったからだ。

 理不尽に追い出されたとはいえ、俺はドーガとは元は同じパーティだったから……


 本当は何か依頼が無いか見る予定だったのだが、ベル達は何も言わない。

 俺の気持ちを察してくれているのだろう。



 ★ ★ ★



 無言のまま宿に戻ってきた。

 備え付けてあるテーブルに座ると同時に、軽いため息が出た。


 ……?

 これは……

  

「悪い。ちょっと出かけてくる」


「どこに行くのですか?」


 立ち上がった俺に、モルガンが問いかけて来た。


「あー……エッチなお店だ」


「聞いた私がバカだったわ。さっさと行ってきなさい」


 頭を軽くはたかれた。

 顔を真っ赤にしたベルが何か言いたげな顔をしているが、あえてスルーだ。


「じゃあちょっと行って来る。多分遅くなるから先に寝ててくれ」


 俺は部屋を出て、扉を閉めた。



 ★ ★ ★



「ここか」


 到着したのは、街を出て街道に沿って数時間の所にある森だ。

 わざわざこんな所まで来たのは、別にエッチなお店が目的ではない。


 一枚の紙を取り出した。宿のテーブルに置かれていた紙だ。

 紙には大雑把な手書きの地図に、一言だけ添えられていた。


『ここにドーガ達が隠れている』


 何かの罠かと思ったが、捨て置く気にはなれなかった。

 危険を考えると俺一人で行くべきだ。ベル達は置いていこう。そう思いエッチな店に行くと適当な嘘をついて置いてきた。


「隠れてるのはバレバレだぞ」


 というのに、全員付いて来た。

 途中から気づいてはいたが、もしかしたら諦めるかもと思い声をかけなかった。

 結局諦める事無く、ここまで付いてきてしまった。


「へっへっへ、バレちまったか」


 おまけにサイドまでいる始末だ。


「俺の跡を付けて、何の用だ?」


「アンリのエッチが見てみたいので、付いてきちゃいました」


「クーもアンちゃんのえっち見てみたいぞ!」


 モルガンが張り付けた笑顔でそんな事を言う。はぁ、これは相当怒っているな。

 クーはよく分からず適当に答えているのだろう。モルガンに頭をはたかれて「なんで?」って顔をしている。


 ったく、仕方がない。

 俺はテーブルで見つけた紙を見せた。


「これは宿のテーブルに置いてあった。誰が書いたかはわからないが、もし本当にドーガが居るなら、捕まえてドランのパーティに謝らせたい」


「誰が書いたか分からないって、それなら罠かもしれないのに。お前は、お人好しだな」


「一応、ドーガとは元パーティだからな」


 サイドが真剣な表情をした。


「俺も連れてけ」


「嫌だと言ってもどうせ付いてくるつもりだろ? それなら一緒に行った方が良い。精々頼りにさせてもらう」


「おう」


 サイドがいつものニヤニヤ顔に戻った。

 俺よりも、アンタの方がよっぽどお人好しだよ。


「ほら、お前達も付いてくるんだろ? 行くぞ」


「あっ……うん」


 俺達は森へ足を踏み入れた。

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