第5話「突入するぞ!」
ゴブリンを無事殲滅したので、部屋の中を軽く見回ってみる。
多分ここは見張り部屋なのだろう。粗悪な武具がそこら辺に転がっている。
どれもゴブリンが使うにはやや大きいサイズだ。先にここへ来た冒険者達から奪い取った物だろう。
「あっ、そうだ。討伐証明部位」
ベルがハッと思い出したかのように言うと、ナイフを取り出した。
「いや、それは後で良い」
まだ先へ進まないといけない。だから遺留品探しや、素材剥ぎはまだ必要ない。
気付かれる前に、出来るだけ進んでおきたい。
軽く見渡して部屋を出る。
さて、問題はもう一つの部屋だな。
「もう一つの部屋へ向かう人間サイズの足跡がありますね」
「ほう」
子供のような足跡の中に、人間サイズの足跡がある。つい最近付いたものだろう。
足跡の形からして靴を履いているのだろう。ということはゴブリンの上位種でなく、人間の足跡で間違いない。
モルガンと確認すると、部屋の少し前には数組の足跡があるが、部屋へ向かい、戻ってきてるのは一組だけだ。
多分、ドーガ達のものだな。
昔ドーガ達とゴブリンの洞窟を依頼で探索したことがある。
だからここが”どんな部屋”かある程度予想がついていたのだろう。
宝が隠されている可能性も考えて、盗賊に一人で入らせたのだろう。
往復の足跡が1組しかないという事は、多分俺の予想通りの部屋だと思う。
「お前たちはここで待ってろ。俺が良いと言ったら入ってこい」
「何があるんですか?」
「……全てが終わったら話す」
剣先に『
部屋に入ると、今までとは比べ物にならない臭いが充満していた。
ブンブンと小バエの羽音が辺りに響き渡っている。
そして、部屋には動物の死体がいくつも転がっている。その中に、人間らしき物の死体もあった。
俺は『灯火』の明かりを弱める。そうしないと見れない程に破損が激しかったからだ。
死体は顔どころか性別すら確認出来ない程だが、多分全員男だろう。
女なら殺さずに、ゴブリンの苗床にされ続けるから。
死体は4つ。最初に
多分この4つの死体が、そのDランク冒険者パーティのものだろう。
ここには死体が4つあった。とりあえず調べるのはそれ位で良いだろう。
死体の判別するのは後回しだ。死体が4つという事は、攫われた村娘と、囮にされたミーシャはまだ生存している可能性がある。
生存者がいる可能性があるなら、急いだほうが良いだろう。
俺は軽く手を合わせ、部屋から出た。
「どうでしたか?」
「あぁ。攫われた村娘と、囮にされたミーシャがまだ生存している可能性があるのがわかった」
死体の事にはあえて触れない。
「そうですか」
「生存者がいるなら出来るだけ助けたい。少し急ごう」
「助けたいというのは……ミーシャさんと言う方もですか?」
「そうだ。何かあるか?」
「いえ、何でもありません」
ドーガ達が俺にした仕打ちを知っているから、モルガンは腑に落ちないのだろう。
ベルやクーもミーシャの名前が出て「なんでそんな人を助けるんですか」と言わんばかりの顔をしている。
自分を殺そうとして、有り金と装備を奪った相手を助けるなんて。そんな風に思っているに違いない。
もう済んだ事だ、と流せるような事ではない。確かに恨む気持ちもある。
だが、俺としてはミーシャという盗賊に同情もしている。彼女も俺と同じように、ドーガ達の被害者だ。
それに……生存者の救出も仕事だからな。
★ ★ ★
慎重に進んでいく。
道中同じように小部屋があり、そのたびにゴブリンを仕留めていく。
小部屋以外にも、見張りの交代で来たゴブリンと遭遇したが、どれも俺の『気配感知』で先に存在をキャッチし、気づかれる前に奇襲をかける事ができた。
ゴブリンだけでなく、ブラウンウルフも居たが、この洞窟の臭いでは奴らの自慢の鼻も利かないようで、気づかれる事無く始末が出来た。
まだ侵入に気づかれていないのは、本当に運が良かった。もしブラウンウルフに吠えられでもしていたら、一発でバレていただろう。
だが、ここから先はそうもいかないようだ。
「イヤァアアアアアアアアアアア!!!」
二股の分かれ道、その片方からつんざくような女性の悲鳴が聞こえてくる。
『
もはやどんな部屋なのか、ベル達にも予想がついているようだ。
涙目のベルが、悲鳴がするたびに耳を押さえようとするのを、腕をつかんで止めた。
ここで耳を塞げば、何かあった時に一手遅れてしまう。それが致命傷にだってなりかねないからだ。
少し青い顔をしているがモルガンは冷静なようだから置いといて、問題はクーだ。
今にも飛び出そうとしている。
「クー。助けたいか?」
「(コクコク)」
「なら俺の指示に従え、良いな?」
頷くクーだが、体がうずうずしているのが分かる。
これだといつ飛び出すか分からないので、左手で抱きかかえるようにして、俺の胸元に手繰り寄せた。
物陰からこっそり覗くと、ゴブリンウォーリアが部屋に入って行く様子が見えた。
『気配感知』では中に6匹の反応があった。『聞き耳』スキルで地面に耳を付けてみると、部屋の前から微かに呼吸音が聞こえる。姿が見えない上に俺の『気配感知』にも反応をしていない所をみるに、居るのは地中だろう。
数は1、2、3匹か。もしそのまま助けるために部屋に入っていたら、こいつらが出て来て挟み撃ちにされるところだった。
地中にいるゴブリンの上を、他のゴブリンが歩いても出て来ない所を見ると、軽い足音なら大丈夫そうだ。
しかし、地中のゴブリンをどうやって始末しようか。
大きな音を出せば確実に出てくるだろうが、部屋の中に居るゴブリン達にも気づかれる危険性がある。
下手に掘り出そうとすれば、いつ飛び出すか分からないから、無茶な体制で襲われるだろう。1匹が出てこれば、他2匹も同じように出て来るはずだ。
「さて、どうしようか」
「アンちゃんまだか? クー早くやっつけたい!」
「待て待て、もう少し落ちつ……あっ!」
クーを見て、作戦が思いついた。
「クー。今からゴブリンをやっつけるから、俺の言う通りに手伝え」
「分かった。何をすればいい?」
「あぁ、それはだな」
ゴブリンが隠れている地面の上を、クーが軽く触る。
そして『魔力伝導』で穴の中へ『炸裂魔法』を送り付け、3つ同時に爆発させた。
普通は壁を挟むと魔力が反発して魔法を発動させたりは出来ないが、『魔力伝導』なら反発させず壁の向こう側へも魔法を送れる。
穴の中で爆発させたおかげで、少しの揺れとボンッという音と共に地面が少し盛り上がった程度で済んだ。
地中の様子は分からないが、出て来ないから全部始末できたと見て間違いないな。
他から増援が来る様子はないが、残念な事に中に居るゴブリン達には完全に気付かれたようだ。
『気配感知』に反応している部屋の中のゴブリンが、こちらに向かって来ている。
「突入するぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます