第10話「本当にヤバいのはどっちよ」
「とまぁ、俺の昔話はこんな所だ」
追加で頼んだエールをグイっと飲み干す。
「こんな所だって、アンリ貴方……」
「ん? 何か変だったか?」
「変とかじゃなくて……その、大丈夫なの?」
見るとモルガンだけでなく、ベルも悲しそうな顔で俺を見ている。
やれやれ。当の本人は、気にしていないというのに。
「大丈夫だ。そうだな、もし辛くなった時は、パーティの僧侶様に懺悔でもさせてもらうよ」
「はぁ……その時は、お金取りますよ」
「神の御使いとあろうものが、なんと浅ましい」
「そもそも私、神様なんて信じていませんし」
「おいおい」
軽口のつもりが、とんでもない爆弾発言をかまされた。
もし教会の人間が居れば、今の発言は冗談では済まされないというのに。
「じゃあなんで、そんな恰好をしているんだ?」
「私やクーをハブいてる村人が、懺悔室に来ると、立場が逆転したかのように許しを請う姿が滑稽でやってただけですよ」
フンとドヤ顔で返された。
彼女なりの、村人に対する意趣返しのような物か。
「私、性格悪いでしょ?」
小悪魔のような笑みを浮かべるモルガン。
「いいや。良い性格してるよ」
本当に性格が悪い人間なら、俺に対して心配なんてしないさ。
口にすると多分モルガンは照れ隠しに頭をはたいてくるだろうし、あえて言わないでおこう。
飯も食い終わったし、帰りたい所だが、一つ問題が。
「やけに静かにしてると思ったら、こいつ酔いつぶれて寝てるのか」
机に突っ伏したクーが、いびきをかいて寝ていた。
そんなクーの頭をはたくかと思いきや、モルガンは優しく撫でている。
「クーは、今日が楽しかったのでしょうね」
「楽しかったのか?」
普通にメシを食ってただけだが。
「たくさん人が集まって宴会をしてても、私やクーはいつも2人きりだったので」
「そうか」
人の飯を取ったりと、行儀の悪さが目立ったが、クーはこうやって皆で一緒に食事をする事で、テンションが上がっていたからか。
素でやっていただけかもしれないが。
「クーちゃんはボクが背負おうか?」
「そうだな。男の俺がやったら何を言われるか分からないし頼む」
多分俺が背負ったらその瞬間にモルガンに頭をはたかれるだろう。
「代わりに装備は俺が持とう」
ベルから盾を受け取る。
「寝ゲロを吐かれても困るだろうし、クーに『
酒は毒判定らしく、『初級治療魔法』でいくらか酔いが緩和することが出来る。
モルガンでもこの程度の魔法は使えるだろうが、『
なので出来る限り、モルガンの魔力は温存させておきたい。たとえこの後宿に戻るだけだとしてもだ。何があるか分からないしな。
その様子を、モルガンがジーっと見ていた。
「どうした、変な顔をして」
「いえ。貴方色々なスキルが使えますけど、
そういや言って無かったな。
隠してるつもりもなかったし、何となく想像は付いてただろうから。
「俺の職は勇者。色々なスキルが使えるのはユニークスキル『オールラウンダー』のおかげだ」
わかっていたようで、「やっぱりですか」というモルガンだが、まだ腑に落ちないようだ。
「アクティブスキルが使えるのは分かりました。ですが、なぜパッシブスキルまで使えるのですか?」
「だから『オールラウンダー』で、ユニークスキル以外の全てのスキルが使えるようになるから、そのおかげだぞ?」
アクティブスキルは毎回発動させなければならないスキルなので、使うたびにその都度発動させなければならない。
逆にパッシブスキルは一度使うと、自分でオフにしない限り、自動で効果を発動し続ける永続的なスキルだ。
俺は『オールラウンダー』でどちらのタイプのスキルも取得している。取得方法はそのスキルを目で見るか、『鑑定』スキルで見るのどちらかだ。
ユニークスキルやモンスター専用スキルとかは、残念ながら取得が出来ない。
その事を伝えると、モルガンがため息をついた。
「『オールラウンダー』は本来、アクティブスキルしか覚えれないはずですよ」
「そうなのか? でも俺は普通に使えるぞ」
そもそも、ユニークスキルは同じユニークスキルでも人によって微妙に効果が違って来る場合がある。
なので、アクティブスキルしか覚えない(らしい?)『オールラウンダー』でもパッシブも覚えれたのだろう。
「アンリ、前に私達に対して『こいつらヤベェ』と言ったの覚えているかしら?」
「あぁ、覚えているぞ」
揃いも揃ってユニークスキル持ちなのだから、ヤバいとしか言いようがない。
「ったく、本当にヤバいのはどっちよ」
自分としては、他の人間で代わりが効くスキルを覚えれるだけだから、ヤバい自覚はない。
結局スキルを沢山使えても、俺一人で出来る事なんて限度があるし、専門職と比べれば劣ってしまう。
それなら彼女たちのような、他で替えが効かないスキルの方が良いと思うのだが……。
まぁ、その辺は一緒にパーティを組んでいれば色々見えてくるだろうし、円滑なパーティで居られるように、それぞれが補い合えば良いさ。
彼女たちのような事が俺には出来ないなら、彼女たちに出来ない事を俺がやる。それだけの事だ。
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