第3話「なんで爆発するの!?」
オークが住み着いているという廃墟まで来た。
かつてはここに集落があったのだろう。朽ち果ててはいるが家らしきものが何軒か建っているのが見えた。
出来れば道中なんらかのモンスターが出て来てくれれば、オークと戦う前にモルガンとクーの実力を知ることが出来たのだが。
出て来て欲しい時に限って全く出て来ないのだから、上手くいかないものだ。
「オークって、ボク達でも倒せるモンスターなんですか?」
「いや、大分厳しいだろうな」
オーク1匹でDランク冒険者相当の能力がある。
Fランクの駆け出しで下積みし、Eランクからゴブリンといったモンスターと戦い、経験を積んでDランクになる。
それなりに経験を積んだ冒険者でやっと1匹相手に出来るレベル。それが今回は3匹だ。
もし俺が教官として引率してなければ、ニーナは依頼を受けさせなかっただろう。それ位危険な相手だ。
「そんな……」
ベルの顔が青ざめていく。
「お前たちでは厳しいが、俺なら一人で3匹を相手にしても勝てるから安心しろ」
「そうなんですか!? アンリさん凄いです!」
オークはゴブリンの完全上位互換で、ゴブリンは子供サイズなのに対し、オークは成人男性よりも遥かに大きい。
オーク種の上位個体になると3m近いサイズのものもいるとか。
体のデカさに比例して、スピードもパワーもゴブリンとは比べ物にならない。
ゴブリンの上位種ゴブリンウォーリアでやっと、オーク種で一番戦闘力の低いオークと同程度くらいだ。
「それじゃあボク達は、アンリさんのサポートに回れば良いでしょうか?」
「いや、それなんだが」
今まで話を黙って聞いていたモルガンとクーにも目を向ける。
「俺がオーク2匹を引き受ける。その間に3人でオーク1匹と戦ってみてくれ」
「分かった。クーはやる気満々だぞ!」
「回復はお任せください」
やる気の二人に対し、ベルは消極的だ。
「でも、本当にアンリさんは大丈夫なんですか?」
「ベル」
名前を呼ばれ、「はい」と返事をするベルを睨みつける。
「自惚れるな」
ちょっと可哀そうな気がするが、ここは強めに言っておかないといけないな。
コイツは優し過ぎる。それが今回は仇になる可能性がある。
「お前はまだ駆け出しで、今回の相手はお前達にとっては格上の相手だ」
「……ッ」
「俺を心配する。それは自体は悪い事じゃない。だが今はその考えが邪魔だ」
俯き、必死に唇をかみしめるベルの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
う、うーむ。泣かせてしまった。
でもほら。大事な事だから! ね?
分かるよね? ね?
「タンクのお前が一瞬でも目の前の敵から注意を逸らせば、その瞬間にモルガンやクーが死ぬ可能性だってあるんだ」
「はい」
ぐずりながらも、必死に返事をするベルを見て、心が痛む。
でもそうしないと。ここは、優しいだけじゃ生きていけない世界だから。
「ちゃんと倒せるようになって、余裕が出てきたら俺もベルを頼る。だから今は目の前の敵に専念してくれ」
「分かり……ました……」
よわったな、ベルを直視するのが辛い。
少し目を逸らすと、白い目で俺を見てるモルガンとクーの姿が見えた。
これは、俺への印象が最悪になってるな。
心配してくれてる相手を泣かしているのだから、当たり前か。
「あの、教官。一つ宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
まるで俺の心を見透かしたかのように、モルガンはクスリと笑って言った。
「両手をバタバタさせて、オロオロしながら言ってては説得力が無くなりますよ」
「……はい」
女の子を泣かした経験なんてないんだから、仕方がないだろ。
★ ★ ★
オークはすぐに見つかった。
『気配察知』で探すと、一軒の家から3匹の反応があった。
周囲に他の反応はないからほぼ確実だとは思うが、一応目視で確認をした。
ボロボロの小屋から緑色の肌が見えたので、オークだろう。
「俺が物音を立てておびき寄せる。お前たちは物陰に隠れて、最後尾にいるオークを狙ってくれ」
小声で話す俺に、ベル達は返事代わりに頷いて返した。
「その前に、お前たちにいくつか
精霊の加護に、結界、身体能力アップ、もしかしたら弓を持っているかもしれない。投石だって馬鹿にならないし矢避けもかけておこう。
装備が壊れたら困るし、装備にもかけておくか。ベルはカイトシールドに名前を付けて毎日磨いてるくらいだから、傷でもついたら悲しむだろうし。
あれもこれもとかけていたら、途中からモルガンが「コイツマジか」という顔をしてきた。それだけ危険な相手なんだよ。
「それとオークには
「そう。言いたいことはあるけど、突っ込むだけ野暮な気がするわ」
「終わったらいくらでも聞いてやる。始めるぞ」
オーク達が居る家に石を投げつける。
すると扉をぶち破り、オークが3匹ゾロゾロと出てきた。
俺の姿を確認すると、フゴフゴと言いながら走ってきた。
3匹とも武器は斧で、見た目も体格差もない。ただのオークだ。
ベル達が物陰に隠れている場所まで移動する。
3匹とも同じ速度なので、このままでは分断出来ない。
なので、あらかじめ阻害の魔法を設置しておいた魔方陣に魔力を込める。
3匹目が阻害にかかり、走る速度が目に見えて遅くなった。
前の2匹と距離が離れていくが、前を行く2匹は俺に夢中で気づいて居ない。
「これくらい離れていれば問題ないな」
反転し、オークに突っ込む。
オークの目の前に、拳より小さいサイズの火初級魔法(ファイヤーボール)を出現させ、即爆発させた。
大したダメージはない。狙いは攻撃する事じゃないから、問題はない。
俺の狙いは爆発で一瞬だけ怯ませる。いわゆるネコだましだ。
「フゴッ!?」
「バカが!」
先頭のオークが怯んだ一瞬の隙をついて、首を跳ねた。
「フゴゴ」
「なるほど。さっぱりわからん」
もう1匹が何か言っているが、オークの言葉は分からない。
緑色の顔が赤く染まっているのを見ると、多分怒っているのだろう。
『平衡感覚強化』スキルを使う。これは近接職が覚えるスキルで、船上や不安定な足場でもバランスを保ちやすくなるスキルだ。
地面すれすれを這うような姿勢でオークの足を狙いながら、剣を振る。
オークはデカイ図体のおかげで、姿勢が低い俺相手に上手く攻撃が出来ず、バランスを崩した所をもう足を狙って転ばせた。
近接職と比べれば近接戦闘は得意な方ではないので、まともな殴り合いは出来るだけ避けていきたい。
「フゴ! フゴゴ!」
「悪い事をしたな」
心にもない謝罪の言葉をかけ、喉を一突きし、距離を取る。
喉を突かれながらもなお追いすがるオークだが、数歩歩いたところでバタンと倒れた。
ピクピクと痙攣をしてまだ息はあるようだ。念のため首を落としトドメをさす。
さて、ベル達は大丈夫だろうか?
ベル達の方へ目をやると、オークの攻撃をベルが上手くさばいているのが見えた。
オークは斧を持つ手ではなく、何も持たない手で盾を攻撃しているのを見ると、ゴブリンよりは知恵が回るようだ。
木製の盾に斧なんて振ったら、ぶっ刺さって武器が無くなってしまうからな。
初めてにしては連携も悪くはない。
ベルが盾でいなしつつ、隙を見てクーが殴りかかろうとしている。
モルガンは少し歩く程度だ。オークへ注意を向けながらも周りをきょろきょろと見て警戒している。
傍からはさぼってるように見えなくもない。だがあれは周りを警戒しながら、自分にヘイトが向かないようにベルの陰に隠れるように移動し、パーティの”もしも”に備えているのだ。
もしここでモルガンが下手に注意を引いて狙われては、タンクは動きづらくなる。
自分を守るよりも、誰かを守る戦い方というのは思った以上に難しいものだ。
モルガンは初戦闘ながら、パーティそれぞれの役割を理解しているようだな。
「たぁ!」
オークの脇腹に、クーの正拳突きが見事に刺さった。
一瞬顔を歪めたオークが、斧を振ろうとする。それを止めようと、ベルがシールドバッシュをしてヘイトを自分に向けさせた。
一瞬クーからベルに気がそれた隙に、クーがオークから距離を取った。
「これで終わりだ」
オークから離れたクーが、叫びながら右手を真横に払う。
するとオークが爆発四散した。
……え、なんで爆発するの!?
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