第2章

第1話「実はまた新しい新人が来ましたので」

 討伐依頼を終えて、ギルドに戻ってきた。

 ここ数日でベルも大分慣れてきたようで、順調……というわけでもない。


「アンリさぁん。ごめんなさい」


 目を赤く腫らしながら、ベルが俺に謝る。


「あれはしょうがない。気にするな」


 今回の依頼は猿型のモンスター、コングが討伐依頼だった。

 ベルのユニークスキルに注意をしながら『プロヴォーク』をさせた。

 結果、地中から人間の大人よりも大きなミミズ。ミドルワームが大量に出てきたのだ。

 

 俺の『気配察知』スキルは、水中や地中に居るモンスターには効果が薄い。

 地面に『聞き耳』スキルを使って警戒しておくべきだったので、俺にも責任がある。


 何とかミドルワームに追いかけまわされるベルを助けたは良いが、2人ともミドルワームの体液まみれだ。

 体中がねばねばべとべとしていて気持ち悪い。さっさと依頼完了の報告をして、体を洗いたい。


「あっ、アンリさん。実はまた新しい新人が来ましたので、教官をお願いしたいのですが」


 俺とベルの姿を見かけたニーナが、カウンター越しに声をかける。


「明日からお願いしていいですか?」


 が、ネバネバした体液を垂らして歩く俺達を見て、察してくれたようだ。


「あぁ、分かった」


 カウンターにコングの討伐証明部位を置く。

 討伐証明部位にもネバネバが付いてて、ニーナが相当嫌そうな顔をしていて申し訳ない気分になる。


 指先で摘まみ、奥の部屋まで持って行き、報酬の入った革袋を持って出てきた。

 俺は金額を確認して、討伐依頼の報酬を受け取った。


「床が汚れますので、用がないならさっさと帰ってくださいね」


 俺達はギルドから追い出されるように出て行った。

 普段は俺達をからかおうとする連中も、今回ばかりは何も言って来なかった。

 もし何か絡んできたら、ネバネバを擦り付けてやろうとしたのに、残念だ。

 

「うぅ、早くお風呂入りたいです」


「そうだな」


 宿に戻り、湯あみを終えて、なんとかネバネバが取れた。

 飯を食うために宿から出ようとすると、ネバネバになった床を必死に洗う宿屋の主と目が合った。

 

「チッ!」


 思い切り舌打ちをされた。

 後で追加のチップを支払っておくか。

 今後とも付き合う予定の宿なのだから、出来るだけ良い関係を築いておきたい。



 ★ ★ ★



「あっ、アンリさん」


 朝。ギルドに入るとニーナが声をかけてきた。

 俺とベルの足元から頭を見て、ネバネバが付いてないのを確認出来たからか、笑顔になった。


「早速ですが、新人さんの紹介宜しいでしょうか?」


「あぁ。頼む」


「それでは呼んできますので、少々お待ちを」


 ニーナは小走りで奥へ行った。


「ベルもこれで先輩になるな」


「ボクが、先輩……先輩かぁ」


「あぁ、先輩だ。頑張って後輩に先輩らしいところを見せないとな」


 そっと頭に手を置いて、撫でる。


「うん。頑張る!」


「あぁ、頑張れ」


 ベルは少し引っ込み思案な所がある。

 なので少しでも自信を持ってもらうために、後輩が出来るのは良いタイミングかもしれない。

 たった数日とはいえ、何も知らない素人と比べれば全然違う。なので素人とやる事で、自分の成長を実感してもらいたい。

 

「お待たせしました」


 ニコニコと笑顔のニーナに対し、俺はかぶりを振った。

 ニーナに連れられてきた新人は2人。どちらも女の子だ。


 片方は修道女のような衣装を着た胸の大きいエルフ。多分僧侶系の職だろう。

 こちらは問題ない。

 問題はもう一人の少女だ。明らかにベルより幼い子供だ。


「貴方が教官のアンリさんですね。モルガンと申します。宜しくお願いします」


「教官。クーはクー・フリンだ。宜しくね!」

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