第10話 わがままの代償?

 タナス砦の裏口にて。


「グーテスの砦の警護は任されました!」

「同じくアスティの砦も死守してみせます!」

「我ら3つのギルド、命に従います!ユーティス様の御武運を!」


 三人のギルドマスターが私達に敬礼します。その心遣いには感謝しかありません。


 魔王の本拠地を囲む砦タナス砦・グーテス砦・アスティ砦を麓の町のギルドに警備をお願いしています。これで背後を狙われる心配はありません。さぁ、魔王討伐に参りましょう!


◇◇◇


 山の上にそびえ立つ魔王の城、わがオルファン王国建国より以前にあった小国の城らしく廃城となっていたものを現在は魔王の軍勢が使用しているとの事です。


 私の横に背の高い軽装の女性が降り立ちました。


「・・・・・・城の見取り図、と」

「ありがとう、エルバ」


 シュゾの拷問?以来エルバは私達に仕えてくれるようになりました。諜報部隊の地位もおいしい食事には換え難かったようです。


 闇部のローブを失った今は胸当てと薄手のグローブにブーツのみの防具を装着し、口元はマスクをしているので素顔は見えません。


 今までの私達にはなかった斥候・調査という側面を補ってくれます。


「ふむ、全長100メートルの規模で城というよりは塔と言った感じですね?これを攻略するには・・・」

「へっ、ここでまたまた俺様の出番だ!こんな事もあろうかとホーデュラのギルドにアイテムを特注しておいたんだ、アレイ」

「ぅみゅーようやくこのかさ張るお荷物から解放されるのですー!よいしょっ、と」


 アレイの背負っていた袋の中には30センチメートルほどの紙で包んだ玉のようなものがごろごろ入っていました。これを一体どうやって使うのでしょうか?


「今から作戦をせつ

『すまない、ここは自分の作戦で行かせてくれないか?』」


 シュゾの言葉を遮ったのはミュリでした?


「おいおいどうしたんだよミュリちゃん?まさかこの期に及んで計略戦が卑怯とか言いだすんじゃねぇよな?」

「貴殿の作戦が効果的なのは分かっている・・・だがしかし過去に王国騎士団が敗戦した事実があるのだ、ここは正攻法を試してみたい!」


 一方的な意見を押し通そうとするミュリ、ここは私が止めなくては!


「な、何を言っているのです!これは王国を守るための戦いであって御前試合などではありません!手段に拘らず必ず勝たなければならないものです!」

「ユト様、どうかわがままをお許し下さい!魔王の城を目の前にして今現在の自分の力がどこまで通用するか知りたいのです!それによって初めて騎士団敗戦の傷をぬぐう事ができるのです!!」


 まさかこのような土壇場においてミュリが正攻法を主張するとは思いませんでした。いえ、彼女が騎士団の一員だという事を忘れていた私の失態です。


「いいぜ?ただし多数決にて決めさせてもらうぞ・・・各員、ミュリちゃんの戦法について意見を述べて下さい・・・俺は却下」

「反対です」

「アチシもまだ死にたくないですー」

「・・・・・・蛮勇、と」


「ぅぐっ、わかりました!自分一人ででも敵を倒してごらんに入れます!手助け無用!」

「あ、待ちなさいミュリ!単騎突入などゆるしませ」

「ほっとけよユトさん、ああなったら止められねぇぜ?まさしく『わがままウッキーズ』だなぁ」

「・・・皆さんには申し訳ありません、このような時に騎士一人止められないとは・・・」


「まぁこの状況を利用させてもらおうか・・・エルバ、ミュリちゃんの戦闘を偵察してくれ・・・ヤバくなったら連絡を」

「・・・・・・・御意、と」


「アレイは救出作戦後に使う鬼功オルグの確認だ、作戦図を描いたから見ておけ」

「ぅみゅーやるのですー!」


「ユトさんは俺と一緒に待機だ・・・何、すぐにヤバくなるから助けてやろう」

「本当に面目ありません、シュゾには力を貸してもらってばかりですね」

「気にすんな、ちゃんと後でお仕置きしてやるんだからな・・・くぷぷぷ」


 あの笑い方、どうやらミュリを助けるのは彼女のためではないようですね?




 1時間後、大量のモンスターの前に力尽きたミュリを私達が助け出しました。


 いかに実力を上げても単騎突入の上に圧倒的物量の前では無意味です。撤退時にアレイのバリケィドがなければ私達まで危なかったでしょう。


「ぁぐ・・・びなざん、ぼんどうにぼうじばげないいいいいいいいい!」

 (訳・皆さん、本当に申し訳ないいいいいいいいい!)


 号泣しながら謝罪するミュリ、幸いにも軽傷で済みました。彼女を偵察していたエルバが知らせてくれなければこんなものでは済まなかったでしょう。


「単独行動がいかに危険かつ許されないものか、騎士団を務める身であるのなら分かっていたハズです!反省なさい!!」

「ぅぐぐ・・・ずびばぜん・・・」


「己を過信する心こそ我が敵とすべし・・・王国騎士団の教訓を思い出しもう一度見習い騎士からやり直すべきです!一足先に王都に戻りなさい!!」

「そ、それはダメです!自分が抜けては戦力が!!」

「貴方の様な勝手な者に背中を預けられません!早く出立なさ」

「まぁまぁ、その辺で許してあげよーよユトさん?」


 何と私達を仲裁したのは・・・ミュリに自分の作戦を拒まれたシュゾではありませんか。


「止めないで下さいシュゾ、ここで軽く許してしまえば示しがつきません!」

「わかってるって、しかしこれ以上ユトさん一人に負担をかけるワケにゃいかねぇ・・・俺直々に一晩中説教してやるぅ、覚悟しなミュリちゃん!」

「ぅぐうぅぅ、シュゾ殿に従いますぅ」


「つーわけだ、アレイ特製のプレハブハウスも出来た事だし・・・みんな今日はもう寝るぜ!」


 アレイに頼んでいたミュリ救出作戦後に使う鬼功オルグとはバリケィドバリケィドによる土の壁で出来た簡易小屋の制作だったようです。

 これならテントよりも壊れにくく頑丈なのでシュラフでもゆっくり身体を休ませられますし、男女別々で2つ作ってますので安心です。


 もっとも今日は私とアレイにエルバの3人と、シュゾと説教を受けるミュリとの2組に分かれましたが。



「ぅみゅーお休みなのですー」

「・・・・・・1ヵ月ぶりの睡眠、と」

「ミュリに説教すると言ってましたが・・・私も立場上参加すべきではないでしょうか?」

「ぅみゅー止めておくのですー、主様はミュリさんとお楽し・・・じゃなくてお仕置きするのですー」

「??よく分かりませんが、そういうことなら私も休みます・・・」


 やはり屋内での睡眠はいいものです。テントとは違い安心して眠れます。

 時折ミュリの泣いているような声が聞こえてきましたが説教を続けているのでしょう。心苦しいところですがシュゾに任せます。



 そして翌朝。


「おはようございます」

「ぅみゅー気持ちのいい朝ですー」

「・・・・・・快適、と」


 離れたもう一つの小屋からシュゾとミュリがやってきます。


「ぉはよー、みんな眠れたようでひと安心、だなミュリ?」

「あぅ・・・ぉ、おはようござい・・ますぅ」


 シュゾはいつも通りですがミュリの様子が変です?勇ましかった歩き方も妙に女の子らしくなっているし、顔じゅうが真っ赤になって目が潤んでいるような??


「ミュリ、顔が赤いようですが熱でもあるのですか?ひと晩中シュゾから説教を受けていたみたいですけど・・・」

「ひゃい!な、何のこれしき・・・いつでも戦えます!!」


 声が裏返ってますが体調には問題なさそうです。


「はっはっは!つーワケだ、ミュリは外せない戦力だから残ってもらう事にしました!はい拍手ぅ、どんどんどんぱふぱふ~!」

「・・・言葉の意味はよく分かりませんが承知しました、ミュリ・・・もう勝手な行動はとらないで下さいね?」

「はっ!二度とあのような失態は犯しません!どのようなご命令でも従います!!」


 あれほどシュゾの計略に嫌悪感を抱いていたミュリが彼に対して従順そのものです。一体何があったのでしょうか?


「ぅみゅーこれは激しくイタされたのですー」

「・・・・・・未知の世界、と」


 何故かアレイとエルバが頷きあってます。どうも私だけ蚊帳の外に置かれている気分です。この討伐戦が終わったら2人に詳細を教えてもらいましょうか。

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