生真面目王女と不真面目勇者の快進撃?

naimed

プロローグ

「おお!異世界の勇者よ、よくぞ参られた!」


 城の中の一室、50メートル四方の広さを持つ鬼功オルグの訓練室にて宰相閣下がこの世界に召喚された勇者に語りかけています。その横では3人の召喚士が息も絶え絶えになっています。


 私はユーティス・ロイヤル=オルファン。この国の王女・・・と言っては聞こえがいいですが実質は王族に過ぎません。私の父は国王ではなくその弟、王弟なのです。


 今回は宰相シカニシ閣下と共に異世界からの勇者召喚に立ち会うよう王命を下されました。しかし国王陛下には王子も王女もいるのに何故姪の私を選んだのでしょう。



 ここオルファン王国は四方を山脈に囲まれている事から他国に比べて領土が小さいのです。しかしながら農業や産業には恵まれていてここ何十年間で餓死者がでないほどです。


 現在わがオルファンの領内には魔王を騙る術者が現れ、モンスターを統制して我が国で反乱活動を行っています。すでに王国の国防軍と騎士団を討伐に向かわせたものの敗戦を繰り返すのみです。


 そんな折他国から古代に失われし文明が作り出した遺物を扱う術者3人が現れ、我が国の宮廷術士に就く事を条件に異世界から魔王を討伐できる勇者を召喚しました。


 肝心の勇者様なのですが・・・妙な服に今一つ冴えない風貌、おまけに辺りをキョロキョロと見渡している・・・ただの庶民ではないですか!思わず召喚士の方に問い質しました。


「こ、この方が勇者なのですか?これでは一般庶民と大差ないではありませんか!」

「はぁはぁ・・・勇者といえば英雄です、英雄とは古来から勇猛果敢・冷静・不屈の精神、さらには好色を兼ね備えたものです・・・彼はこの条件を全て満たしているハズ」


 召喚士の方々は息も絶え絶えに答えます。英雄の資質が勇猛果敢・冷静・不屈の精神は理解できますが・・・好色とは?これは絶対に必要なものではないのではありませんか!


「どう見てもこの方は勇者には見えません!再度やり直しを要求致します!」

「ぃ、いや・・・我ら3人と遺物の力をもってしてもこれ以上の召喚は難しいのです・・・それに次元の門を開くには後数年は待って頂かないと」

「そんな悠長な事を言ってもらっては困ります!早く魔王討伐に行かないと我が国は滅亡してしまいます!早くこの方を元の世界に送り返・・・」


 しかし当の勇者はというと・・・この実験室のあちこちをくまなく調べています?


「ちょっと貴方!何をなさっているのですか!人の城を嗅ぎまわるなど勇者としての振る舞いではありませ」

「何言ってんのか分からん?ついさっきドコの誰かさんに『こんなヤツ勇者じゃない』って言われたからなー、その通りです俺は勇者じゃありませんでしたー!」


 あまりの口の悪さに私の中の何かがキレました。


「ゥキィィィィ!宰相閣下、この度の召喚は失敗です!急ぎ国王陛下に報告を!!」

「ぅげ!それはなりませんユーティス様!召喚士もこれ以上の召喚は出来ぬとの事・・・ここは一つありのままに報告するしかないかと・・・」


 宰相の言葉に唖然としてしまいました・・・しかし彼の仰る言葉もまた事実、召喚の人選ができない以上ここで押し問答しても始まりません。仕方ありませんわね。


「わかりました、ところで貴方おなま・・・・・いい加減にしなさい!何やってるですかさっきから!!」

「えーと、ここは異世界・・・つまりはゲームの中なんだろ?その辺にお金とか何かアイテムあるかも知れないし」


「げ、げーむ?お金なんかあるわけないじゃないですか!もうおやめなさい!それで貴方のお名前は?」

「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが常識じゃね?ったくこれだからBYTEバイト数の少ないレトロゲーは」


「ゥキィィィィ!!宰相、このような礼儀知らずはつまみ出して下さい!こんなのが勇者だと知れたら我が国がどんな辱めを受けるかわかったものではありません!!」

「ぉ、落ち着いて下さいませユーティス様!こ、この方も突然の召喚で心が不安定なのです・・・何せご自分の世界とは全く違う場所に放り込まれたようなものですからな」


 またもや宰相の言葉に納得する私。なるほど、ここは私たちには当たり前の世界でも彼の世界とは全く違うのでした。これは私が浅はかでした。


「失礼・・・さっきの発言は忘れてください、私はオルファン王国の王族ユーティス・ロイヤル=オルファンです・・・貴方の名前を教えてください」

「俺は張戸修三(はりとしゅうぞう)・・・いや、待ってくれ・・・ええと」


 今度は考え始めました。まさかご自分の名前をお忘れになった?

・・・・・

・・・


「よし、俺の名はシュゾだ!うん、某魔〇師みたいでカッコイイか!これに決めた!」

「シュゾ・・・って貴方!ご自分の名前を思い出すのに1時間も掛けないでくださいまし!というかこれに決めたとかって何なんですか!」

「せっかくゲームプレイするんだからまんま本名とか面白くないじゃん、こういうのはノリでいいんだよユーティスちゃん」

「な、いきなり人の名前に『ちゃん』づけなんですか!あ、貴方には礼儀というものがないのですか!」

「っていわれてもなー、俺一般人だし勇者じゃないし・・・ああウゼー、こんなわがまま嬢ちゃんと話し込んでてもしゃあねぇな、俺はお暇させてもらいます」

「ゥキィィィ!貴方なんか知りません!速やかにこの城から出ていきなさい!」


「く・・・もはや、出あぇい!勇者様を取り押さえるんだ!」


 宰相の声に反応して5人の騎士団がドアから入ってきました。瞬く間に彼シュゾを床に押さえつけて取り押さえました。でもこんな人を取り押さえてまでどうするおつもりなのでしょうか?


「さあ勇者様、ここは大人しくして頂きましょうか?」

「く、何なんだよ!ゲームの始まりっつったらファンファーレが鳴るモンだろ?こんな低レベルな俺を取り囲みやがって・・・くそったれが!」


 突然、取り押さえている騎士達を大きな炎が包み込みました。こ、これはもしや火属性の鬼功オルグでは?


「ぐぁあああ!あ、熱い!」

「クソ!鬼功オルグ持ちかよ!!」

「ぎゃあああ!だ、だれか水属性のヤツを!!」


 「鬼功(オルグ)」とは人体の生命エネルギーである「鬼力(きりょく)」を扱う術です。鬼力は光・電・火・風・水・土の6種類の属性に分別され、それを元にした技術-鬼功オルグ-があります。


「ぃ、いきなり鬼功オルグが使える!?やはり伝承通りの・・・」

「宰相、そんな事を言っている場合ではございませんわ!早く彼を何とかしないと騎士達が!」


 そう言っている間に騎士達が火傷を起こしています、早くしないと騎士達が全員死んでしまいます!


「むぅ、ユーティス様・・・それではこれを彼に・・・後は任せましたぞ!」

「ちょ、ちょっと宰相!どこにいくので」


 私にとある道具を渡してあっという間に宰相は逃げ出しました。これは・・・仕方ありませんわね、気は進みませんが私がやるしかないでしょう。


「はぁはぁ・・・お、俺魔法使えてんじゃん!最初っからチートってヤツ?あははは!いいぞ、このまま異世界で無双してやるか!!」


 見たところ自分の周囲にだけ炎を出す範囲攻撃と思われます、という事は接近戦タイプですわね。対処法は見えました!


「お待ちなさい!狼藉もそこまでですわよ!!」


 そういって彼の前に立ちはだかる私、これ以上騎士達を傷つけさせるワケには参りません。私も鬼功オルグを発動致します。


「ずいぶん調子こいて上から目線で命令してくれたモンだぜ・・・よし、まずはお姫様を人質にしてウハウハーレムを・・・あれ?」


 徐々に彼を包む巨大な炎が消えていく・・・私の鬼功オルグにて部屋の空気を調整しました。勇者のいる場所にだけ空気量を極端に減らしています。空気が無ければ火は燃えないという理屈です。


 あ、私は風属性の鬼功オルグを使えます。


「なんで魔法が消え」

「・・・はぁっ!」

「ぶげっ!!」


 勇者が消えていく鬼功オルグに気を取られている隙に、彼の背後に回り込み首筋に当身をしました。力の抜けた勇者は膝からくずれ落ちます。


「気は進みませんが貴方にはこれが必要です・・・大人しくなさい」


 そういって勇者の首に隷属の首輪をはめます。これは前世紀の遺物で首輪の掛けている人を思い通りに動かすアイテムで、首輪と対になる指輪をはめている私の指示には逆らえません。

 主に反逆者達に扱われているものですのであまりいい気持ちはしませんが。


「さぁ、そろそろ国王陛下に謁見いたしますわよ?」


 指輪に鬼力をこめると彼は指示通りに動きます。


 これで私の勇者召喚の立ち合いの王命は完了・・・したハズでした。

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