年末年始の騒動・第4話
台所に行くと、彩夏と夏希、それと騒動のときはちょうど広間に行っていた沙弥香が休んでいた。
「あ、霧斗くん。おかえりなさい」
「早月さんはどう?大丈夫?」
霧斗を見ると彩夏と夏希が立ち上がってた尋ねる。霧斗は苦笑するとうなずいて椅子に座った。
「台所任せてしまってすみませんでした。早月さんはさっき起きて、今は小真さんがついてます」
「よかったあ。心配してたんだあ」
「雪菜さんがそれとなく探りを入れてたわ」
安心したように笑う彩夏と夏希に沙弥香が言う。霧斗はその言葉に首をかしげた。
「探りとは?」
「早月さんのお姑さん、佐々木さんでしょ?息子さんは海外出張だとか言ってたけど、おばさん、早月さんのお姑さんがきてるから、孫はできましたか~?なんて」
「それで?佐々木のおばさん、なんて答えたの?」
沙弥香の言葉に女性ふたりが興味津々で身を乗り出す。霧斗は苦笑しながら話を聞いた。
「それがね、孫はまだなんです。息子は出張が多いのでって言ってたわ」
「うわあ」
「それ、雪菜さんは何も言わなかったの?」
「そうなんですか~って言ってたけど、なんだか怖かったです」
沙弥香の言葉に霧斗はそうだろうなと思った。雪菜は和真が戻ってから事を荒立てるために布石を打ったにすぎないのだろう。
「たぶん、そろそろ広間のほうは宴会どころじゃなくなりますよ」
霧斗がそう言った数秒後、あれだけ賑やかだった広間の音が止んだ。
「始まったみたいですね。和真さんと香澄さん、それに雪菜さんを怒らせると怖いですから」
苦笑しながら言った霧斗はゆっくりと茶を飲んだ。
それからしばらくして広間から数人の親戚たちが出てきた。その中には早月の姑もいて、その人たちはそのまま暗い表情で帰っていった。
「ごめんなさいね、お台所で待たせちゃって」
それから少しして雪菜が台所にやってくる。いつもと変わらずにこやかな雪菜がなぜか少しだけ怖く感じた。
「さ、広間に行ってご飯を食べましょう」
「雪菜さん、俺はそろそろ帰ります」
広間に行けば両親と顔を会わせる。それは避けたいと霧斗が言うと、雪菜は苦笑しながらうなずいた。
「わかったわ。じゃあまた来てね?今度は霧斗が働いてるお店の店長さんも一緒に」
「わかりました」
雪菜の言葉にうなずいて霧斗は小峰家をあとにした。
霧斗がアパートに帰ると晴樹がちょうど夕飯を作っていた。
「ただいま」
「あら、おかえりなさい。この時間だと夕飯はまだよね?」
「うん。まだ」
霧斗の返事にうなずくと晴樹は料理を再開した。
「神社はどうだった?」
「あ~、なんか嫁いびりがすごい人がいて、新年早々宮司と奥さんに締められたみたい」
「あら、それは大変だったわね」
「まあ俺は手伝いにきてた親戚のお嫁さんたちと台所にいたからよくは知らないけど」
霧斗はそう言うとソファにぐったりともたれた。
「ずいぶん疲れたみたいね。明日仕事大丈夫?」
「それは大丈夫。明日からしっかり働きます」
心配そうな晴樹に霧斗は苦笑しながらもしっかりうなずいた。
「じゃあご飯しっかり食べて、今夜はゆっくり休んでちょうだい」
そう言って晴樹がテーブルにお盆を持ってくる。霧斗はソファから体を起こすと茶をいれてくると言って立ち上がった。
「晴樹さんは今日は何をしてたんですか?」
「あたしはゆっくりさせてもらったわ。近所の神社に初詣も行ってきたしね」
「ゆっくりできたならよかったです」
ふたり分のお茶をいれて戻った霧斗は晴樹の向かいに座ると手を合わせて食事を始めた。
翌日、カフェ猫足の仕事始めだが、三が日ということもあって客は少なめだった。いつもよりゆったりとした時間を過ごしながら夕方を向かえた店内でふたりが休憩をしていると、カランと乾いた音と共に扉が開く。「いらっしゃいませ」と声をかけた霧斗は入ってきた女性を見て驚いた。店に入ってきたのは小峰神社の次女、葉月だったのだ。
「葉月さん?どうしたんですか?」
「やっほー、霧斗。急に来てごめんね?」
「あら、きりちゃんのお知り合い?」
霧斗と葉月のやりとりを見て晴樹が不思議そうに声をかける。霧斗は苦笑しながら従妹だと紹介した。
「あら、じゃあ小峰神社の娘さんね。お好きな席にどうぞ。ケーキはお好きかしら?」
「はい、ありがとうございます」
葉月は晴樹に頭を下げると奥のテーブル席に座った。
「葉月さん、神社のほうは大丈夫なんですか?というか、何かありました?」
忙しいこの時期にくるということは自分に用があるのだろうと霧斗がそばに行って尋ねると、葉月は今時間は大丈夫かと聞いてきた。
「今はお客さんがいないから大丈夫ですけど」
「じゃあちょっと座ってくれる?」
葉月に言われて霧斗は向かいに椅子に座った。するとちょうど晴樹がケーキとコーヒーを持ってテーブルにきた。
「お待たせしました。これはあたしからのサービスよ。いつもきりちゃんにはお世話になってるし」
「えっ、そんな…こっちこそ霧斗がお世話になってます」
サービスと言われて葉月が慌てて首を振る。霧斗は苦笑しながら代金は自分が出すからと言った。
「それで、話って?家のほうまだ忙しいでしょう?」
「あ、そうそう。昨日の早月さんのことなんだけど、しばらくうちで預かることになったの。あれから海外出張の旦那さんに連絡して、仕事が終わり次第帰ってきてもらうことにしたわ。で、奥さんが大事ならしっかりしろってお父さんに一喝されてた」
「お姑さんのほうは?」
「あっちはしばらくうちは出禁よ。なんかそそのかした親戚がいたみたいで、その連中と仲良く説教されて追い返されたわ。お父さんの許しがあるまでうちの鳥居はくぐれないでしょうね」
葉月はそう言うとケーキを一口食べて幸せそうな顔をした。
「あとね、霧斗の戸籍上の親。昨日きてたんだけど、あえて会わせなかったわ。いるとは伝えたから文句は言われないでしょ」
「ありがとうございます。面倒をかけました」
「いいのよ。それに、早月さんは霧斗が気づかなきゃ手遅れになってたかもしれないし」
そう言ってにこりと笑う葉月に霧斗は微笑んでうなうずいた。
「和真さんに、また落ち着いた頃に伺いますとお伝えください」
「わかった。急にきてごめんね?」
「いえ、こっちこそ忙しいのにわざわざ教えにきてくれてありがとうございました」
霧斗が首を振って礼を言うと、葉月は少しだけばつの悪そうな顔をした。
「実はずっとここ気になってたのよ。だから霧斗に会う口実で来ちゃった」
「そうなんですか?じゃあ、今度はゆっくりコーヒーを飲みに来てください」
霧斗がそう言って笑うと葉月は弾けるような笑顔でうなずいた。
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