第42話 宝物庫の中は、金ぴかぴん

 数日後、セプトから手紙が来た。

 珍しいので、開けてみてみると、宝物庫へ入る許可がおりたというものだった。



「夕食のときにでも言ってくれたら、よかったのにね?」



 何気なく言ったつもりだったのだが、ニーアが苦笑いする。

 一緒に食事をとることが、当たり前になっていたからだ。



「殿下は、本日、夕食にはこられませんよ?」

「えっ?そうだったの?」

「えぇ、公爵様との会食があるとかで……どうしても、外せないらしいです」

「そうだったんだ……知らなかったわ!」

「カイン様もそろそろ来られますので、許可がおりたのなら、宝物庫へ行かれますか?」

「そうね!そうするわ!許可証も入れてくれてあるから……」



 私はヒラヒラと許可証を見せると、では、準備をいたしましょう!と、ニーアが衣装を選んだ。夏が近づいているので、薄い水色を基調としたふわふわのドレスに着替え整えてもらう。コンコンっとノックの音がしたということは、カインが来てくれたのだろう。



「もう少しだけ、待って!」

「わかりました!」



 外にいるのは、やはりカインのようで着替え終わるまで待っていてくれた。

 整え終えたので、入室の許可をニーアが出しに行く。私がよそ行きのドレスに着替えているとは知らず、カインは驚いていた。



「どこかへ向かわれるのですか?」

「うん、宝物庫へ行く許可がおりたから、向かおうと思って……ついてきてくれるかしら?」

「もちろんです!そうか、許可証が必要なのですね……」

「もしかして、許可証とか見せたことないの?」

「まぁ、いつも入るときは、セプト様と一緒なので、必要もないですし……宝物庫では、よくかくれんぼなんてしていましたからね……」



 あははと笑うカインに、乾いた笑いを返しておく。宝物庫でかくれんぼって……と、思わなくもない。

 でも、カインの顔を見る限り、きっと楽しかったのだろうことは見て取れた。セプトとカインとミントが宝物庫で遊びまわっている様子を思い浮かべると、クスっと笑ってしまう。



「宝物庫って、「なんの宝」とかわかるように書いてあるの?」

「えぇっと……記憶なのですが、結構乱雑に置いてありますね……たくさんありますから……でも、たしか……」



 ん?っと小首をかしげると、そうそうとカインはいう。



「王家の秘宝と聖女のつけていたと言われる宝石や宝飾品だけは、別にあった気がします」

「それを見に行くの!どこにあるかわかるかしら?」

「おぼろげではありますが、たぶん。聖女の宝飾品というと、聖女のお披露目に使うのですか?」

「えぇ、そのつもりよ!」



 では、早速行きましょうと私の手をとり、カインは歩き始める。ニーアにも来るように言うと後ろをついてきた。



「馬車が必要ですね……距離がありますし……」

「歩くわ!大丈夫よ!ニーアも毎日ここを通ってきてくれているのから!」

「ビアンカ様と私は違います!」

「一緒よ!人間に変わりはないわ!さぁ、行きましょう!」



 そういって、先頭を歩き始めた。城の散策などしたことがないので、カインに説明を聞きながら歩くとあっという間に城へとついた。

 初めて城へ来たときには儀式の緊張もあって気が付かなかったが、カインって目立つ。

 背も高く美形ではあるが……セプトの学友だけあって上位貴族の子息のようだ。みな、カインの顔を見ては、頭を下げていった。



「カインって、有名なところのおぼっちゃん?」

「おぼっちゃんって……間違いではないですけど……国の中の順番からしたら、5つ目か6つ目くらいのところです」

「かなり、上位貴族じゃない!」

「ビアンカ様も上位貴族の令嬢でしょう?」

「どうして、そう思うのかしら?」

「普段から、気品に満ちてますから……下位の貴族ではありえないような……両陛下との晩餐でも、堂々としてらっしゃったし……」

「そう見えたなら、よかったわ!私はただの侯爵令嬢よ!釣り合い的にいうのなら……カインをお婿さんに迎えられるくらい……かしら?」

「侯爵の中では1番上の位だったってことですか?」



 それには答えず、ふふっと笑うだけにとどめた。手に持っている扇子で少しだけ顔を隠す。

 気品に満ちてなんて言われたことがないので、少々気恥ずかしい。



「宝物庫は、こちらになります」



 連れられてきた場所は、手前に警備兵が立っている。



「だ……大隊長っ!」



 カインを見て、大慌てで駆け寄ってくる警備兵にニコリと笑い、宝物庫をあけてくれるように頼んでくれる。

 証明証を見せ、中に入ると金ぴかきんの宝物が、所狭しと……いや、本当に雑多に積まれていた。

 私が想像する以上に詰め込まれていることに、驚いた。



「……言葉に困るのだけど」

「あぁ、言いたいことはわかります。雑に扱いすぎですよね?」



 カインも思っていはいたようで、軽々と言ってのけた。管理する人がいないので、自然とそうなったのだ。



「さて、目当てのものは、こちらです」



 ついて行くと、そこだけは他と違う管理の仕方がしてあった。

 わぁ!と声をあげると、一つ一つ説明をしてくれる。戴冠式でつける王冠であったり、ティアラであったり……とても綺麗であった。



「いつか、セプトの兄弟が、この冠をつけるのね?」

「まぁ、普通はそうなりますけどね……ここだけの話にしてくださいね?」

「ん?」

「俺は、セプトがこの王冠を賜り、このティアラをビアンカ様が賜って、民衆の前で微笑んでいる姿を最近夢見てますよ!」

「その傍らには、カインが近衛の頂点として、私たちを見守る?」

「夢ですからね!ビアンカ様に出会ってから、そんな風になればいいなと白昼堂々と夢を見ています。そうそう、ミントが宰相だなんてどうですか?」

「ミントが?ふふっ、素敵ね!」



 カインに言われ、想像をした。すると、なんとも、微笑ましい夢であって、私も思わず微笑んだ。



「みんなには、秘密ね!」

「はい、そうですね!そんなことが、世間にしれれば……反逆罪で処刑されてしまいます」



 しーね!と人差し指を口にあてがって、笑いあった。



「こちらが、聖女様が身に着けていたと言われる宝飾品です」

「エメラルド?」

「えぇ、そうです。ビアンカ様がつけられるのであれば、きっと素敵でしょうね?」



 セプトからの贈り物が同じくエメラルドだったことを暗に言っているのだろう。そして、私の瞳もエメラルドと同じ色をしているのだから……



「聖女の姿絵とかないのかしらね?」

「あぁ……確か、あったように思います……ちょっと、待ってくださいね?思い出しますから……」



 カインがウロウロと宝物庫を回っている間、私は聖女の宝飾品を見つめる。既視感だろうか?見たことがあるような気がするそれらに手を触れようとしたとき、セプトとお揃いのエメラルドのブレスレットが輝いたのであった。

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