第12話 絵本の活用方

 ニーアが戻って来る前に、5冊本を持って本棚の前に佇む。



「さて、どんな具合に本を並べようか?」



 ぼんやり本棚を見つめ、本棚に並べるために分類を考えた。

 本を後ろから読み、何が書いてあるのか、大体のあたりをつけていく。



「ビアンカ様、そんな……私がしますので……」



 部屋に入ってきたら、私が本棚の前で考え込んでいたため、慌てて駆け寄ってくるニーア。

 持っていた本を取り上げられてしまう。



「ふふっ、そんな慌てなくても……並べる分類を考えていたの。闇雲に並べてしまうと、探すときに大変だから」

「そういうことでしたら、私が本棚の近くまでお待ちしますから、分類分けを教えてください。言われた通りに並べます!」



「わかったわ!」と了承し、ニーアが取り上げた本を返してもらう。

 まず、ニーアは机の近くにあった本を本棚の前まで持ってくるようで、その間に、私は背表紙と概要を読んで分けていく。



「二人ですると早いわね!」

「本来、これは、私の仕事だと思うのです……」

「ごめんね、私、他にすることがなくて……暇なのよ」



 100冊近くあった本に目を通さないといけないのだが、そんな私を見て、ニーアが羨ましそうにしている。

「どうしたの?」と尋ねると文字が読めるのがやっぱり羨ましいのだと言った。



「そうだ!ニーアは、文字が読み書きできるようになったら、何かしたいことでもあるの?」

「特には……文字の読み書きが出来るだけで、この仕事には得になることもありますので……」

「例えば?」

「……侍女見習いになれます!今はメイドなので、雑多な仕事も多ですが、侍女見習いになれれば、一通りの行儀作法の教育も受けられ、城から出た後も職に困ることはありません。侍女見習いになれると、いいのですが……」

「そう、それなら、私も教えることに力が入りそう!」

「えぇー!ビアンカ様!そんなの申し訳ないです……」

「いいのよ、どうせ何もすることがないのですもの。ここから、逃げ出したいけど、そうしたところで……誰かに迷惑をかけるだけだから。

 私じゃ、衣食住も確保できないしね……令嬢は、蝶よ花よとしてもらえるけど、侍女やメイドがいないと、生きていくのも難しいのよ」



 私は苦笑いをして、「続きをしましょう!」とニーアに言うと、「……はい」と答えてくれた。

 黙々としまうだけでは、面白くもないので、ニーアに背表紙を見せてなんて書いてあるか教えていく。



 ちょうど、休憩を兼ねて、お茶の時間を挟むことにした。

 一人で優雅に飲むのは寂しいので、ニーアに無理を言って付き合ってもらうことにする。



「本棚はどうだ?」



 セプトが、ドアを開けていきなり入ってきた。

 私と対面で座ってお茶をしていたニーアが飛び上がった。



「こ……これは、殿下!」

「メイドとお茶か?」



「も……申し訳ありません」と、ニーアはガクガクと震え謝っている。

 一応、王子の妃となる予定の令嬢と平民のメイドでは、随分と身分差がある。

 ただ、私は、気にしてないし、王子としか話ができなかったここ数週間で、やっとまともに話をしてくれる人ができたことの方が嬉しい。



「えぇ、ニーアは私と話をしてくれる唯一のメイドよ?何か問題でも?」

「いや、退屈してるんだから、よかったじゃないか?」



 興味なさそうにニーアから視線を外し、ニーアが座っていた席にセプトは座る。

 ニーアは青ざめていたが、私は微笑み、同じものを入れてと言うと、準備に取り掛かった。

 その後ろ姿をみているセプト。



「信用できるのか?」

「悪意はないから、大丈夫じゃないかしら?それより、本棚みてみてよ!」

「あぁ、なかなかいいものだな?」

「でしょ?ニーアと二人で並べたのよ!あぁ、そうだ。ちょっと待ってて……」



 本棚の方ではなくベッドサイドにある引き出しから一冊の本を取り出した。

 ため息ひとつ、机に戻る。

 それをセプトにそれを見せたが、見当がついていないようだったので、少し意地悪して見たくなった。



「殿方って、どうして胸の大きな女性を好むのでしょうね……はぁ……見てくださいよ、これ!」



 これ見よがしに本を開くと、セプトは思考を停止したようだ。

 そして、慌てたように起動し始めた。



「……なっ!なんだ!」

「なんだって……セプトが貸してくれた本の中にあったわよ?こう言うのが、好みなの?」



 バツの悪そうにしていることを見て、楽しくて仕方がなかった。いたずららしいいたずらは、この小さな鳥籠の中で出来ないし、外から運ばれてくるものは基本的にセプトが用意してくれるものだ。

 何かしたくても、できないのが現状だったけど、昨夜、この本を見つけたとき、セプトの目の前に置いたときを想像して楽しんだものだ。

 案の定、固まってしまっていたのだが……起動した今さて、どんな言い訳をするのかと、セプトを見つめる。

 徐々に落ち着きを取り戻していき、セプトは小さく息を吐いた。



「……これは、俺のじゃない」

「どうして?セプトが貸してくれた中にあったわよ?隠したのを忘れたわけじゃないの?」

「これは……これは、そ、そうだ!兄上のものに違いない」

「言い訳するにも、もう少し心の内側を見せないようにしておかないと、筒抜けすぎて、王族として貴族に舐められるわよ?動揺しすぎよ!」



 くふふふ……と笑うと、「ちょ、ちょっと待て!本当に俺のではない!」とさらに慌てているセプト。



「別に構いませんよーこういう本を持っていても。お兄様の本棚を漁っていたときを思い出すわ!」



 ぷくくく……あのときも、タイミング悪くたまたま背後に兄がいたので、兄に対して同じようなことをしたのだが、今回は、私が楽しむためだけにひけらかした。

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