第6話 誰かの声達


 

 あれから、私はモナの所へ行かなくなった。共に勉強するなら会える許可が降りているままだが、モナの傍に居ても触れる事さえ叶わないなら辛いだけだ。結局、あの日はずっと、教師陣と良く分からない内容の話を真剣に交わすモナを、眺めていただけで終わったしな。全く持って、つまらない。


 ついでに私が居るのに相手にしてくれないなら、これは浮気ではないだろうかとも思い、両親に教師陣がモナを誘惑していると訴えてみた。…ものすごく怒られた。まぁ、権力も財力も人望もあり、若くカッコよい見目のこの私を差し置いて、モナが本気で浮気するとは思っていなかったが。


 モナに会えない日が続く。一人腐っていると、母に呼び出された。


 案内されたのは何故か、よくある王宮内の一室だった。そこにはすでに母がおり、向かいの席に座るよう指示された。何の用事か思って尋ねたが、しばらく黙って座っていなさいと注意された。意味が分からず、とりあえず従う。母は怒らせると怖いからな。


 しばらくして、急に話し声が聞こえた。私でもないし、母でもない。周囲を見渡しても、傍に仕える従者達は部屋の隅に居るが口を閉ざしたままで、尚、誰かの声は続いている。


「この部屋は、隣の部屋の声が届くように作られているのです」


 不安になって母に声をかければ、返って来た言葉に安心した。


 つまり、この誰かの声は、隣の部屋にいる誰かの声、という事か。…幽霊が出たなんて、怖がってないぞ。まだ昼間だし、幽霊なんか出る訳ない。よくよく聞いてみれば、話し声は数人の男の声だった。



 ――…そう言えば、聞きましたか? またあの無能王子が、やらかしたようですよ。


 ――あぁ、あの教師方が王子妃小娘を誘惑しているとか騒いだ件ですかね?


 ――そう、それです。ただ授業をしているだけで誘惑したと言われるとは、常識を知らぬにしても程がありませんか。アレが次代の王となられたら、この国は笑われてしまいますよ。


 ――まぁまぁ、無能は無能なりに役に立ちますとも。王太妃小娘だって身分が低いのでどうとでも出来ますし、無能王子には我々にとって都合の良い傀儡になるよう仕向ければいい。


 ――…国王陛下には忠誠を誓っておりますが、次代があの王子となれば……、致し方ありませんな。



 は?? なんだ、この声達は?? むのうおうじ? 誰の事だ???


 王子とは、国王の息子の事だろう。そしてこの国には今、王子と呼ばれるべき立場の者は、一人しかいない。国王を父に持ち、王妃を母に持つ、そう、この私だけだ。


 つまり、この声の持ち主達は、私を無能呼ばわりしているという事で………なんたる不敬!!! 王太子たるこの私が無能なんて、あり得ないだろう!!!


 私は怒りのままに向かいに座る母に、連中をクビにして王宮から追い出すように訴えた。王太子に対して不敬な奴らだ、一緒に聞いたのだから母もすぐに対処してくれるだろう……そう思っていたが。


「このような話は王宮内の誰もが口にしております。我が国に仕える国中の貴族達をクビにするなんて、今の国王陛下にも不可能ですわね」


 あっさり言われた言葉に、僕はあっけにとられた。

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