第23話 娘達の称号
親の前で娘達をナンパするとはこの小僧共はいい度胸をしているな。
「誰があなた達なんかと」
「ボクもお断りだなあ」
「トアは知らない人について行ったらいけないってパパに言われてるし」
娘達は丁重に断るが男達は諦めずこちらに距離を詰めてくる。
「そんな弱そうな男より俺達の方が嬢ちゃん達を護って上げれるぞ」
「弱い⋯⋯パパが?」
ナンパしてきた男が俺のことを貶したせいか今一瞬セレナから殺気が漏れていたぞ。
「見た目も俺達の方がイケてるだろ?」
そういって青年は長い髪をかきあげ、娘達に自分のかっこよさをアピール? している。
「鏡を上げようか? ボクのパ⋯⋯じゃなくて彼の方が100倍カッコいいよ」
「なっ!」
何故だかわからないがミリアの言葉に声を上げたのはセレナだった。
なるほど⋯⋯穏便に済ませるため彼氏がいるとわかればこの小僧共もナンパを諦めるという作戦か。さすがはミリアだな。
「大丈夫。俺達人のものを奪うの得意だから。金ならいくらでもある。だからこれから一緒に最高級の店でランチしない?」
う~ん⋯⋯この小僧共が何かに秀でているようには見えない。おそらく親の脛をかじって得た金だろう。
「トアはパ⋯⋯じゃなかった!? 彼氏さんが作るご飯が1番好きだからあなた達についていきません」
どうやらトアまでミリアの作戦に乗って俺を彼氏と呼ぶようにしたみたいだ。
「そうです! 私のか、か、か、彼は強いから逃げた方がいいですよ!」
セレナも俺のことを彼と呼ぶようになったがミリアやトアと違って何故か焦っているのか稚拙な演技になってしまっている。
だが娘達はハッキリとこの小僧共のことを拒絶した。これで諦めてくれるといいが⋯⋯。
「いいからそんな優男はおいて俺達についてこい!」
しかし俺の予想は外れ金があると言った青年が近づいてきてトアの手を取ろうとする。
ガシッ!
だがその手がトアに届くことはない。俺はその様子を見て咄嗟に青年の腕を掴み行動を阻止する。
「てめえどういうつもりだ?」
「嫌がっているだろ? 俺のむ⋯⋯ではなく大切な人に指一本触れさせるわけにはいかない」
俺もミリアの策にのり、とりあえず娘達と言わないようにする。
「「「パ、パパ♥️」」」
娘達はまるで恋人が自分達を護ってくれたかのように顔を赤らめており、俺はその演技力に脱帽した。
「女の前だからっていきがってるんじゃねえぞ!」
青年達は自分達の思い通りにいかなかったことに腹を立てたのか懐からナイフ、小型のワンド、ナックルを出してきた。
「俺達の称号を聞いて驚くなよ」
「奪うのが得意と言っていたから盗賊、山賊、海賊か」
「ちげえよ!⋯⋯探検家、魔法使い、モンクだ!」
残念ながら予想が外れたようだ。どうやらこいつらは称号と得意分野がマッチしていないらしい。
「謝るなら今のうちだぞ。だが代わりに女達は置いていってもらうけどな。ヒャッハッハ!」
正直な話帝都に着いて早々に騒ぎを起こしたくなかったが、娘達にかかる火の粉は払っておかねばなるまい。
俺は小僧共を懲らしめるために一歩前に出るが⋯⋯。
「ここは私達に任せて下さい」
セレナが右手で俺の行動を遮り、代わりに自分が小僧共と対峙する。
「わかった」
俺は娘達がこの帝都に来てどれくらい成長したのか知りたかったのでこの場は任せることにした。
「おいおい、嬢ちゃんが俺達の相手をするのか」
「ええ⋯⋯貴方達を懲らしめるのに⋯⋯か、彼が出るまでもありませんから」
「いいだろう。だが手元が狂って服を切り裂いちまうかもしれねえなあ」
どこまでも下衆な奴らだな。娘達に一秒だって関わらせたくないからやはり俺が⋯⋯。
しかし俺が動く前にセレナが行動を起こしていた。
「はあっ!」
瞬時に小僧共に近づくとその勢いのまま左の拳でナイフを持った青年の顔面を殴り飛ばす。
「ぶべらっ!」
ナイフを持った青年はセレナの拳を食らったことで、醜い声を出しながら20メートルほど吹き飛ばされ地面を転がっていく。
「少しやりすぎじゃないか」
俺も少しは懲らしめてやろうとは考えたが、せいぜい10メートルほど地面を転がってもらう程度だ。セレナに殴られた青年の右足は折れているのか立ち上がることがでぎず既に虫の息になっている。
「な、なんだ! 何が起きた!?」
「まさかこの嬢ちゃんが!?」
残りの2人は突然ズタボロになった仲間の姿に驚きを隠せない。
「こ、このやろうよくもやりやがったな!」
ナックルを手につけた青年がセレナの胸をめがけて右ストレートを繰り出す。
しかしセレナはその拳をひらりとかわし、右足でナックルをつけた男の腹部を蹴り上げると5メートルほど宙に浮き、そのまま地面に落下した。
「く、くそ! 炎の矢よ! 我に仇なす敵を射て!
仲間の2人がやられた様子を見てワンドを持った青年はセレナを目掛けて炎の矢を放つ。
1、2、3、4、5⋯⋯詠唱しても5本程度か。体内の魔力を全然集めきれていない。おそらくセレナなら目を閉じてもかわせるだろう。
しかしセレナは一歩も動かない。
何故ならその炎の矢がセレナに届くことはなかったからだ。
「
ミリアが無詠唱で放った5本の矢が炎の矢を打ち消していき、氷の矢はそのままの勢いでワンドを持った男の服を掠める。
「あ、あぶねえ⋯⋯」
ワンドを持った男は何とか氷の矢をかわしたと安堵していたのも束の間、かすった服の部分が徐々に凍りつき、最終的には顔以外の全ての部分が凍結した。
「こ、こんなことしてただで済むと思うなよ! ケガをさせた分慰謝料を払ってもらうからな!」
自分達から手を出してきたのに慰謝料とは⋯⋯小僧共の言葉に開いた口が塞がらない。
「ケガ? 何を言っているのかボクには理解できないなあ」
ミリアは凍りついた男の問いに可愛らしく首を捻る。
「はあ!? 何言ってるんだ! 現に2人は足の骨と肋骨が折れてるだろうが!」
「だからどこにそんな人いるのさ? 自分の目で確認してみたらどう?」
ミリアが人差し指となかゆびでパチンッと音を鳴らすとワンドを持った青年を凍らせていた氷が一瞬で溶けた。
「お前らの目は節穴か!? 俺達を選ばなかった時点で目は悪いと想っていたが⋯⋯」
氷から抜け出し自由になった小僧が仲間に視線を向ける。
「なっ! バカな! 2人はさっきまで大怪我をしていたじゃないか!」
小僧は仲間達の傷がどこにも見当たらず、信じられないといった表情を浮かべている。
確かにこの小僧の言うとおり、先程までは地面に転がっている仲間達は足の骨と肋骨が折れていた。だがワンドを持った小僧が氷から抜け出した時にトアがケガをした奴らを回復魔法で治療していたのだ。
「どうやら目が節穴だったのはボクじゃなくてあなた達だったみたいだね」
「そ、そんな⋯⋯確かにさっきは⋯⋯おい起きろお前ら!」
ワンドを持った小僧は自分が見たことが正しいのか確かめるためケガをした2人に話かけるが、2人は意識を取り戻していないため確認することができずにいる。
「お、お前らは何者なんだ? まさか特別な称号を!?」
ワンドを持った小僧は震えながら娘達の称号を問いかけてくる。
そしてこの後小僧だけではなく俺も娘達の称号を聞いて度肝を抜かれるのであった。
「私は剣聖です」
「け、剣聖!」
剣の扱いに関しては右に出る者はなく、接近戦にかけてはトップクラスの力を持つ。
「ボクは大魔導師~」
「だ、大魔導師!」
攻撃魔法のエキスパートで魔道具を作ることに長けている。
「トアは聖女だったよ」
「せ、聖女!」
過去に数人しかいないと言われ女神アルテナを信仰する神聖教会で出現が待ち焦がれている称号だ。支援魔法に関しては並び立つ者はいない言われている。
「ま、まさか帝都で噂の三姉妹!?」
ワンドの小僧は娘達の称号を聞いて腰を抜かしている。どうやら娘達は帝都で有名なようだ。
「う~ん⋯⋯たぶんその三姉妹だと思うよ」
「トア達って有名なんだあ」
「それよりこれ以上まだやると言うのなら⋯⋯」
セレナは腰に刺した剣を抜き切っ先を小僧共へと向ける。
「ひ、ひぃ! こいつらもすぐに連れ帰ります! 申し訳ありませんでした!」
そう言うとワンドを持った小僧はケガをしていた仲間2人を引きずりながら一目散にこの場から逃げ出した。
しかし娘達の話を聞いたときには驚いたが、よくよく考えてみるとブルク村にいた時は真面目に鍛練をしていたし、それぞれの得意なことを現している称号だったから当然と言えば当然な気がしてきた。リリーも娘達には才能があると言っていたし。
「さあ余計な邪魔もいなくなりましたし帝都に入りましょう」
「パパも長旅で疲れたでしょ? ボクがマッサージして上げる」
「トアはパパにご飯作るね」
この感じ⋯⋯2年前とほとんど変わらないな。
レアな称号を持っていてもやはり娘達は娘達だ。
俺は娘達に腕を組まれながら帝都への門を潜り抜けて街へと入り、自宅があるという東部地区へと向かった。
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