第12話 思い出ぽろり1 埼玉
(東京くんと会ったのは、そう……)
中学生の頃に思いを馳せる埼玉、彼女の心に浮かんだそれは、三年生の時の夏コミ。
「えぇえええええ!! 売り切れって……そんなぁ……」
目当ての同人誌が売切れであると知り、肩を落としてブースから離れる埼玉、すると、
「何が欲しかったんだ?」
青年の声に埼玉が振り向くと、女子の中での特に小柄な自分と大して身長の変わらない男の子が立っている。
一瞬小学生かとも思ったが、よく見ると顔立ちからそこまで若くない事が解る。
知らない男子と話すなど普段の埼玉ならばまずありえない事だが今は目当ての同人誌のため、ワラをも掴む気持ちだった。
「えと……オーガスト日和VOL5……」
「じゃあ予備として在庫五冊残してあるからその一冊分けてやるよ」
「えっ、いいの!?」
「さすがにあんな大声で叫ばれたらほっとけないだろ?」
その少年の言葉で埼玉の顔がパッと晴れるが、彼女はある事に気付く。
「あれ? 在庫って……」
「おっと、悪い悪い、俺は東京(あずまきょう)、オーガスト日和の作者、第八東小隊のヒガシックスだ」
「ヒガッ……」
埼玉の喉が驚きのあまり硬直した。
第八東小隊とは構成メンバーがたった一人にも関わらず同人視界屈指の壁サークルで、その一人の名こそ、埼玉が憧れ続けたヒガシックスである。
「も、もしかして前回の冬コミの『ガンダ○学園三学期』も……」
「ああ、家に何冊か置いてるな、もしかしてそれも――」
「今日、東くんの家行ってもいーい!!?」
中学生女子が見知らぬ男子の家に行く、本当に、普段の彼女なら絶対にありえない事であった。
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