瑠星戦線=SeVen LumiēRE=
九羽原らむだ
瑠星戦線~SeVen LumiēRE~
すべてのはじまり
「1.9.6.0に月は落ちてくる。」
----同胞に次ぐ。
この記録は帝都にのみとどまらず……最悪の場合、世界全域に害を成す危険性があることを踏まえていただきたい。
惑星・クロヌス。
魔法なる全能の力。魔力たる未知なる力が存在するこの星で我々は恐ろしい経験をした。この身をもって体感したのだ。
その経験とは何なのか----?
環境破壊による星の汚染なのか。
或いは人類を食らう魔物が世界に具現したのか。
----否、断じて否。
繰り返す。続けて繰り返す。
この記録は----
未来に通じて尚、危険を及ぼすかもしれないと考えていただき、、た、、、、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
----魔法界歴1960年。12月24日。
帝都エルーサー魔術研究会帝都本部、記録22時45分。
「いやぁ。まいったね」
帝都中央の時計塔。窓一つない締め切られた空間。広間の一室で一人の学者が苦笑を浮かべている。
「世は聖夜でお祭りだというのに我々はこうして部屋に籠って魔導書の解析とはね」
「なんだ。退屈なのか」
「いやぁ。楽しいよ? 僕は独り身だし、一緒に聖夜を楽しむ愛しい人もいない。こうして暇つぶしに魔導書を読むことに不満はないよ、不満は」
魔導書。それはこの世界においては存在が当たり前のマジックアイテムである。一冊一冊、黒焦げていたり、最早本の面影すらない形のモノであったり。
言うなれば骨董品なのだ。一部のマニアの間ではコレクションとして愛用される事もある。魔法の原初であり、この世界の人類にとってルーツでもある。
学者たちは魔導書を広げては閉じるを繰り返し、それを重ねていく。
「不満がないなら、どうして愚痴を吐いた」
「ずっと無言なのも気分沈む。会話のネタにと漏らしたんじゃないか~。それくらい気を利かせておくれよ……本当のとこ、休暇くらい欲しかったんだ」
「口じゃなく腕を動かせ。そのペースでは今日は帰れないぞ」
「魔術師学園エリート出身は本当に御堅いな」
会話に混じるつもりもなく黙々と魔導書の整理を続ける学者を笑う声。
「君は君でいいのかい? 君は娘さんもいるのに黙々とこんなところで。こういう日くらい家族サービスで無理にでも休暇は取るもんだろう?」
「勉強熱心なんだよ……娘は俺に似て、お祭りには目もくれないよ。今頃部屋に籠って学園入学に向けて独学中じゃないのかい?」
「家族揃って御堅いなぁ~!! 本当にねぇええ~?」
聖夜のお祭りを楽しめずにイラついている面々も少なからずいる。そんなのお構いなしに独り身の学者は世の中の不平等を嘆くように喚き始めていた。
こういう日くらい仕事を休みにしてくれてもいいのではないか。こんな骨董品の確認くらい後日にでも出来るというのに。
「……ん?」
学者は口を止める。
「むむ?」
もう一人の学者も、魔導書をそっとテーブルに置いた。
“揺れ”だ。
大地の揺れを。時計塔が揺れていることに気づく。
テーブルに重ねてあった魔導書が。本棚に収納されていた資料などが次々と崩れ落ちていく。その揺れは小さくなるどころか徐々に大きくなる一方だった。
「……収まったか?」
揺れが収まるのは実に14秒。精神が不安定になるかならないかの瀬戸際。行き場のない焦りを見せる学者たちは揺れが収まっても尚、ざわついている。
「無事か?」
「君は冷静だね?」
顔色一つ変えない学者だっていた。御堅い学者は魔導書片手に立ったままだった。
「当然だ。この職のせいか、ある程度慣れている……だが今の揺れは、」
「失礼する! すまないが手の空いている者はいないか!?」
「「……?」」
突如、解析室に足を踏み入れたのは“帝都の騎士”である。
ああいったお偉いさんがこんな根暗な組織に用があるのなんて早々ない。だが、今の揺れが終わってから直後の事だ。
「やれやれ。折角の聖夜がこんなにも騒がしい!」
「黙々と魔導書を読むのは気が滅入るんじゃなかったのかい?」
「言ってみただけだって言ってるだろうに!」
学者達は一斉に外出の準備を始め、救援を求めた騎士と共に施設の外に出た。
・
・
・
数分後。彼等が移動した先は帝都を出て少し経ってからの平原地帯。
「こ、これは……?」
学者達が連れられた先。そこには帝都に属する騎士達と腕利きの魔法使いが数名。遠くには様子を眺めに来た野次馬がゾロゾロと見受けられる。
大量のエキストラ。彼等の視線の先に存在するのは……“石ころ”だ。
「隕石、か?」
その石ころは手の平で収まるほどの代物ではない。
人間一人なんかと区別など出来やしない。帝都の王城一つ叩き潰す事なんて軽く出来てしまうサイズの巨大な隕石だ。
隕石は巨大な轍を作り、漆黒の焦煙を立てている。
「月だ……」
騎士の一人が呟く。
「「月?」」
「あぁ……月が、」
何やら慌てふためくように。
この騎士は空から降ってきたこの隕石が何なのかを見ていたようだ。
「月が降ってきたんだ」
月が降る。
あまりにも常軌を外れた一言。
「……月、あるけど?」
学者の一人が空を見上げてはみるが今日も満月は銀色に輝き、太陽に負けず大地を照らしている。
「月から落ちてきた、ということか?」
もう一人の学者は冷静に騎士の言語の意味を予想する。
隕石は真っ白だった。茶色でも黒でもない。目にも眩しい白。月のあった方向から落ちてきたのではないかと考える。
「白い隕石か。確かに見た目だけは月のカケラみたいなものだ」
「さっきの揺れはこれが落ちたからか」
揺れ程度で収まった事に何人がホッとしたことだろうか。
あと少しズレてでもいたら、聖夜のお祭りで盛り上がっていた帝都エルーサーに降っていた事だろう。
不幸中の幸いと考えるべきだろうか。降ってきた隕石の事が気になって、数名はお祭りどころではないようだが。
「この隕石は一体、」
「……! 待てッ!」
数名が隕石に近づこうとした矢先。学者の一人が声を上げる。
「……誰かいる、ぞ」
学者が指をさす先。白い巨大隕石の上に一同の視線が集中する。
『〓〓〓〓。』
【細身の白い肉体】【やせこけた長身の腕と足】【悪魔を思わせる尻尾】
【目も鼻も口もないのっぺらぼうの顔】【動物のような尖った耳】
人型のそれは白い隕石の上に突如現れた。
それは満月と重なり、より異質な雰囲気。
「なんだ、あれ、は」
それだけじゃない。
『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓〓。』『〓〓〓、……
一体。一体。また一体。
次々と、隕石の上に人型の何かが姿を現していく。
「悪魔……、」
学者の一人がその怪物の群れに気をとられている瞬間の事だ。
『……〓〓〓。』
銀色の一閃。
白い悪魔の指先から放たれる糸のような光線。
「あ、く、ま……?」
その一閃は、瞬く間に独り身の学者の胸を貫いた。
『『『『『〓〓〓〓〓〓〓ッ!!!!』』』』』
咆哮する。発狂する。
悪魔たちは何処から発しているかも分からない不気味な鳴き声を上げる。何もなかったはずの背中から巨大な羽を広げ、隕石に集う帝都住民達へ飛び掛かり始める。
「なんだ! こいつらは!? 撃たれた……撃たれたんだ! あの悪魔に心臓を……撃たれて殺されたッ!! 俺もっ、このままじゃっ、俺達もォッ……!!」
冷静さを失いパニックになった学者は腰を抜かし怯んでしまう。
「……これは興味深いね」
大多数。周りも突然の事態にパニックになりつつあるこの状況の中であろうと……呑気に冷静な奴が一人いる。
「異星からの
その手にあるのは一冊の文献。
ホコリまみれの眼鏡をかけた“一人の魔法使い”は、目の前の現象に興味深く笑みを浮かべるのみ。手入れもされていないモジャモジャの髪を擦りながら。
「なんか知らねぇが、面白ことがおっぱじまりやがった!!」
そんな魔法使いの頭上を人影が飛び越える。
片手には巨大なガンブレード。男と同じく手入れもされていないトゲトゲとした長髪を翼のように靡かせるモノノケのような人影だ。
「んなもん見せられたら、ヤっちまいたくなるだろがよォ~ッ!!」
ガンブレードを手にした人影が白い隕石に迫っていくと、それに続いて他の騎士や魔法使い達も続く。危機を感じた防衛部隊の反撃といったところか。
「騎士団だ!」
「協会の連中もいるぞ!」
「奴らに続けッ!!」
呆気にとられていた他の面々も援護射撃を開始する。異星人がなんだ。こっちには全知なる力である魔法がある。迎撃開始。人類は白い悪魔たちへ宣戦布告する。
「実に、興味深いよ」
たった一夜にして、聖夜のお祭りは悪夢へと成り果てる。
「では我々も行くとしようかな」
この記録は----
クロヌスの歴史の中。唯一無二とも言えるような特異な歴史だったと言えよう。
【落ちてきた月】。
文献にはそのような名前で記録されていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【繰り返す、続けて繰り返す。】
【この記録は、未来に通じて----危機を、、、、】
『落ちてきた月』の文献は特殊な事例として記録に残されている。
帝都エルーサー。惑星クロヌスの中でも二番目に巨大都市であると言われている。この街の協会本部の時計塔にその文献は保存されている。。
「十年、か。もうあの悪夢からそれだけの時間が経ったんだ」
魔法界歴1970/08/20。【落ちてきた月】から実に十年の時を経た。
「また……」
文献を読み終えた何者かが時計塔のバルコニーから帝都の街を見下ろす。
「何かが始まろうとしている」
以前から変わらぬ賑わいを見せる街。
そんな帝都の外。平原地帯。
“何重にも張られた巨大な魔方陣”。
“その魔法陣に取り囲まれた巨大な要塞”。
その要塞の中に……
今も尚、その悪夢は眠っている。
この記録を見る者達へ告げる。
そして問おう。この帝都に訪れるのは、
明日か。或いは終末か。
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