34 英雄誕生にゃ~


「魔王討ち取ったり! 魔王、討ち取ったり~~~!!」


 勇者パーティが要塞都市に入り、数人に事情を説明したら、兵士が魔王討伐を宣伝して走り回る。その内容は波紋のように広がり、歓喜の声がそこかしこからあがった。

 その声を聞きながら勇者パーティは階段を上がり、武闘王シンゲンに出迎えられて握手を交わした。そして、シンゲンに促されるように壇上に登ったハルトは勇者の剣を高々と掲げる。


『皆さん! 魔王はもう居ません! 残りはここの魔物のみです! もうひとふんばりです! 皆で共に魔物を倒し、僕達の勝利にしましょ~~~う!!』

「「「「「うおおおお!!」」」」」


 さすがは勇者の言葉。兵士や冒険者の心はひとつとなり、先程よりも力が漲っているように見える。

 そんな中、わしはカメラマン。勇者ハルトの写真を撮り、勇猛に指揮を取るシンゲンや外壁から攻撃しているモブ達もかっこよく撮ってあげた。


 一通り写真を撮ってべティ達を探していたら、なんかチヤホヤされている人が居たので、ここも撮ろうと兵士や冒険者の間を強引に抜けると、コリスの背に乗るべティ&ノルンが天狗になってた。


「オホホホ。あの程度の魔法、お茶の子さいさいざますわよ。オホホホ~」

「そうなんだよ。ノルンちゃんは亀と龍を出したんだよ。オホホホだよ~」


 しかも、わしの手柄を奪い取ってやがった。


「にゃに嘘ついてるんにゃ……」

「あっ! シラタマ君。魔力ちょうだ~い。もう何もできないのよ~」

「ノルンちゃんもお腹ペコペコなんだよ~」


 その上、二人してわしの魔力を奪う始末。怒りたかったが、よくよく考えたらわしがやらかしたことをこいつらに押し付けられるから許してやった。



 それからべティ&ノルンに何度も魔力を与え、皆が外壁から攻撃を繰り返し、コリスに餌付けし、わしがウトウトして二時間。魔物の数は激減。残り3割ほどとなった頃に動きが変わる。


『これより討って出る!』


 シンゲンは掃討戦に移行。西門に有志を集め、自身も出るみたいだ。いちおうわしも近くで写真を撮らないといけないので、コリス達と一緒に参加者の最前列に陣取っていたら、ハルト達に「こっち来い」と主要メンバー側に並ばされた。

 ここでシンゲンの演説が始まったので、わしだけ場所を変えて写真を撮る。


『残りわずかだ。ここに残る魔物を倒せば、我々の完全勝利だ。俺の勝利ではない。勇者の勝利ではない。ここに集う全ての者の勝利だ! 必ずや全員で勝利し、英雄のほまれを得ようぞ!!』

「「「「「おおおお!!」」」」」

『行くぞ! 勇者パーティとマジカルべティ&ノルンに続け~~~!!』

「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」


 こうして掃討戦は始まり、わしまで先陣を切らされたのであった。


「てか、パーティ名って戻ってたんにゃ」

「マジカルウィッチって、なんか変なんだもん」

「だからって、二人が主人公みたいにゃ名前に戻すにゃよ~」


 シンゲンまで変なパーティ名で呼んでいたので、べティ&ノルンにわしが文句を言いながら掃討戦は続くのであった。



 掃討戦は、休憩を取って体力の戻った勇者パーティの大活躍で、魔物はガンガン減って行く。その行為に励まされた兵士や冒険者も、いつも以上の力を発揮しているようだ。

 乱戦になっているのでべティ&ノルンは魔法を自重しているようだが、ナイフと針で魔物を倒してるよ。ちゃんと写真に撮ったから、前を見ろ。


 わしはと言うと、べティ&ノルンのお守りはコリスに任せ、右手にカメラ、左手に刀を握って、魔物を斬り裂きながら皆の勇姿をパシャリ。

 カメラで撮られた人は一様に「こんな危険な所で何してんだ?」って顔を向けるので、「そのままそのまま」と言いながら周りの魔物は倒してあげた。だって手が止まってたんじゃもん。


 そのせいでよけい呆気に取られていたように見えたが、立ち直るだけの時間は作ったので、わしは次の被写体に向かう。

 そうこう戦っていたら、魔物の数より人間の数が圧倒し、わしも暇になって来たので勇者パーティに付きっ切りのカメラマンとなるのであった。


「ささ、それでラストですにゃ~。かっこよく撮ってあげますにゃ~」

「ムリヤリ連れて来るなら、シラタマさんが倒せばいいのに……」


 鎧を着た骸骨をわしが担いで連れて来たせいで、掃討戦最後の一枚は、勇者ハルトの引きった顔となるのであったとさ。



 掃討戦が終わったら、武闘王シンゲンによる勝鬨かちどき。「えいえいお~!」と大声が響き、勇者パーティが全員胴上げされているのにまざって、べティ&ノルンまで飛んでいた。この目立ちたがり屋どもめ……

 わしは興味がないので、十枚ほど写真を撮ったらコリスと一緒に撤退。外壁の上で二人でランチやおやつを食べてお昼寝していたら、誰かにわしゃわしゃされて起こされた。


「ゴロゴロ~? あ、アオイさんにゃ。おはようにゃ~」


 わしが眠気眼を擦って挨拶すると、アオイは呆れた顔をした。


「いまは夕刻ですよ。こんな時に寝てるなんて……」

「やることやったんにゃから、いいんじゃにゃい??」

「えっと……カメラマンのことでしょうか?」

「いい写真がいっぱい撮れたにゃ~」

「はぁ~~~」


 わしの成果を教えてあげているのに、アオイはため息がすんごい。


「シラタマさん程の力があれば、一人で英雄になれたでしょうに……それなのに裏方に徹するなんて、どうかしてますよ」

「そうかにゃ~? 間接的にゃけど、魔王と戦った人はいっぱい居るんにゃから、英雄もいっぱい居たほうがいいと思うんだけどにゃ~」

「ホント、変わっていますね」


 アオイは遠い目をしながら地上を眺める。そこには、ドロップアイテムを集める人、肩を組んで笑う人、ドロップアイテムの引っ張り合いをする人、それぞれだ。

 しかしその全てが笑顔だから、アオイはわしの言い分が「正しいかも?」とか言っていた。


「でしたら、私も魔物を倒したから英雄なんですね」

「そりゃそうにゃ。順位を付けるにゃらば、アオイさんは上位10人ぐらいに入りそうだにゃ~」

「じゃあ、シラタマさんは一位ですね」

「にゃんでそんなに高いんにゃ~」

「だって、勇者様を見付け、強くし、魔王討伐にも付き添い、最後まで勇者様の隣に居たじゃないですか。全てを見続けた私にだけは、シラタマさんが一位だと言わせてください」

「う~。恥ずかしいにゃ~」


 アオイに真っ直ぐ見詰められて褒められたわしは顔が真っ赤。目も見てられないので顔を逸らすしかなかった。


「この世界を救ってくれて、ありがとうございました」


 その隙にアオイに顔を両手で挟まれたので、わしは逃げることもできずに唇を奪われたのであった……



 突然のキスに驚いたわしは変身魔法を解いて猫に戻り、寝ているコリスのモフモフに飛び込んだのだが、アオイに捕まって膝の上に。その上で優しく撫でられていたら眠気がやって来て寝ていたのだが、うるさいヤツがやって来た。


「あ~! シラタマ君が浮気してる~!!」


 べティだ。急にそんなことを言われたからにはわしは飛び起きて、人型に戻ってから反論する。


「そそそ、そんにゃこと、しししてないにゃ~」

「なにそのしどろもどろ……え? マジで??」

「キキキ、キスもしてないにゃにゃにゃ~」

「キスしたの!? シラタマ……アウトー!!」


 べティが変な起こし方をしたものだから、わしは言わなくていいことまで言ってしまい、名探偵べティに浮気認定されてしまった。


「「い~けないんだ、いけないんだ~♪」」

「にゃにが欲しいんにゃ~? にゃんでもやるから黙ってろにゃ~」

「「やったにゃ~!」」


 ノルンまでべティと一緒にニヤニヤしながらわしの周りをぐるぐる回るので、わしの完敗。尾ひれが付いた浮気を言い振らされるよりは、なんでも言うことを聞いたほうが身の為だろう。

 そのべティ&ノルンが喜んでいる近くに勇者パーティが居たので、うるさい奴らからわしは距離を取った。


「お疲れ様にゃ~。にゃんかわしに用かにゃ?」

「王様がお城でパーティーをやると言っているので、一緒に行きましょう」

「にゃ? パーティーにゃ~……パスするにゃ~」

「そんなわけにはいきません! マジカルべティ&ノルンのメンバーなんですから、拒否権はありませんよ!!」

「マジカルべティ&ノルンのメンバーは、べティとノルンしか居ないにゃ~」


 パーティ名だけ見れば、このパーティはべティとノルンの物。わしの言い分は100%正しいのに、ハルト達はわしに絡み付いて来て離してくれない。


「「「「モフモフ~」」」」

「わしの体が目当てにゃのか~~~!」

「くう~ん……」

「フェンリルさんが泣いてるにゃ~~~!!」


 勇者パーティは目的を忘れてわしをモフっていたからツッコンだが、同じモフモフ仲間のフェンリルのレオが悲しそうにしていたので、わしはそちらに押し付けようとするのであった。



 そんな揉め事をしていたら……


 ピカッ! ドッカァァーンッ!! ゴロゴロゴロ……


 と、西の方角に特大の雷が落ちた。


「あ、アレは……」

「なんだあの化け物は……」


 突然のことで皆が驚きながらその方角に視線を移すと、分厚い雲が凄い勢いで押し寄せ、魔王城より巨大な影があった。

 その影は生き物のように見える。三角錐さんかくすいの真っ黒な体に三角形の頭を乗せ、その下には十数本の長い腕のような物が見受けられ、地響きを立てながら進み、恐怖を撒き散らしている。


「嘘だろ……」

「また魔物の群れが……」


 気持ちの悪い生き物の足下には、魔物のおかわり。先ほど倒した量は軽くあり、その物量に皆は絶望の表情を浮かべた。


「シラタマ君、アレって……」

「だにゃ。アマテラスはこの為にわしを連れて来たんだにゃ」


 べティも顔を強張らせてわしを見るので、軽く頭を撫でて落ち着かせる。コリスも珍しく緊張している。


 要塞都市では、町の外に出ていた者は慌てて西門に走り「早く入れろ」と怒号が飛び交い、なんとか全ての者が中に入ってしばらくした頃に、地響きを立てて前進していた魔物の群れは停止した。


『ガガガ……我のガガガ名は邪神ガガガ。この世界を終える者ガガなりガガガガ』


 その機械的でバグっているような邪神の声は、要塞都市のみでなく、その後ろに控える国々全てに届けられたのであった……

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