28 勇者のストーキングにゃ~
「わしじゃにゃかったら死んでるんだからにゃ!」
べティの爆裂魔法【エクスプロージョン】に巻き込まれたわしは激オコ。これっぽっちも痛くは無かったのだが、仲間を巻き込む攻撃をしたからには説教は当然。
「いや~。ゴメンゴメン。まさかそんな所に居るなんて知らなかったの。あ、アフロにした? 似合ってるわよ」
「アフロにゃ? ……にゃにこのチリチリパーマ!?」
だが、ベティがニヤケ面でわしの頭を指差すので触ったら、モサッとした感触。手鏡で確認したら、何故か頭の毛がアフロになっているからそれどころではない。
「アオイさん、これってにゃに?」
「あ~。生産職の人が実験で失敗したらなるヤツですね」
「そんにゃ漫画みたいにゃ……てか、直るのかにゃ?」
「それより、暴風獣が起き上がりましたし、先にそちらを処理しましょう!」
「こっちのほうが先決にゃ~」
それどころではないのは巨大グリフォン『暴風獣』のほう。いちおうアオイは謎現象のことは説明してくれたけど、直し方は言わずに走って行った。
「にゃ?
「あたし達も行くわよ!」
「おうだよ~!」
チリチリパーマ先輩のべティに聞いても教えてくれない。ノルンと一緒に暴風獣に向かって行った。
頼りになりそうな人は助けてくれないので、わしは鏡を片手にコリスにも手伝ってもらってアフロを直そうと頑張っていたら、暴風獣との戦闘が再開。
素早いアオイのクナイに滅多斬りにされ、それより素早いノルンに針でチクチク刺され、素早さを必要としない侍攻撃のできるべティにもナイフでザクザク刺されて、暴風獣はチリとなって消えるのであった。
「直らないにゃ~」
べティ達が戻って来たら、涙目で助けを求めるわし。この最悪の事態を引き起こしたべティも悪いと思っているらしく、わしの写真を撮ってから櫛でといでくれたが、それはコリスともやったこと。
コリスのパワーでも、このアフロは1ミリも動かなかったのだから、レベルマックスでも幼女の力では不可能だ。
「ヘアアイロンがあればなんとかなりそうなんだけどね~」
「そういえば、べティにあげたよにゃ?」
「あ~。アレはドレッサーでホコリ被ってるわ」
「べティが作れってうるさかったんにゃろ~」
「だって~。毎日やるの面倒になったんだも~ん」
チリチリパーマ先輩は役に立ちそうにないので現地の人を頼ろうとしたその時、アフロがポロッと落ちた。
「にゃ……にゃああぁぁあああああぁぁぁぁぁ~!!」
さすがに、五歳でハゲはキツイ。それも猫のハゲは想像しただけでキモイ。なのでわしは、とんでもない奇声を発してしまった。
「シラタマ君、落ち着いて。毛はあるから。それよりも、ムンクの叫びみたいになってたわよ? プッ……きゃははははは」
「「きゃはははははは」」
どうやらこのアフロは、時間経過でポロッと落ちるっぽい。その後は数秒したら消えてなくなるっぽい。あと、ムンクも謎現象っぽい。わしが細長い猫になっていたからべティは写真に撮って、皆も大笑いしてるっぽい。
「よかったにゃ……本当によかったにゃ~。にゃ~~~」
しかしわしは、頭の毛が残っていたことに安堵して、しばらく大泣きするのでツッコミを入れられないのであったとさ。
それからドロップアイテムを回収したらしばらく休憩し、べティに「前世はツルツルだったの?」と勘繰られたげど「フッサフサ!」と逆ギレでわしが乗り切ったら、勇者パーティのストーキングに戻る。
道中はキレるわしの大活躍で、魔物なんて居ないに等しい。一瞬にして消えて行く。
「フシャーーー!」
「もうハゲイジリしないから怒らないで~。ね?」
「シャーーー!」
道中も、べティが触れてはならないところに触れるからわしは怒っていたのだ。残り少ない毛を大切にして何が悪いんじゃ!
そうこう爆走していたら、探知魔法に勇者パーティらしき反応があったので忍び足。木々に隠れ、双眼鏡でギリギリ見える位置まで近付いて様子を見る。
「ここで野営にするみたいね」
「じゃあ、わし達も準備するにゃ~」
勇者パーティは幻想的な湖の
今日は料理を作るのが面倒だったので、次元倉庫に入っている出来合いの物で済まして、お風呂で疲れを落とす。野営での体の清掃は濡らした布で拭くだけらしいので、アオイはこの点だけはわし達のパーティでよかったとか言っていた。
それからバスの畳みに布団を敷いて寝転べば、眠気がやって来た順に夢の世界に旅立つのであった。
翌日……
シャッター音で目が覚めたわしは、何事かと少し目を開けたら、そこは谷間。王妃のどちらかの胸の間に居ると思って頬擦りしていたら……
「い~けないんだ。いけないんだ。せ~んせいに言ってやろ~♪」
べティが
「べ、べティさん? これは不可効力なんにゃよ~??」
「ううぅぅ……モフモフ~」
「こ、こりゃ! アオイさんも早く起きるにゃ~!!」
そう。アオイが寝惚けてわしを抱き枕にしていたから、べティは浮気の証拠を激写していたのだ。別に女性の胸が好きというわけではないのだが、こうなってはわしの非力な腕では押し返せない。
「嘘つくなクソジジイ……シラタマ君の力なら、簡単に振り払えるでしょ」
「心を読むにゃ~。あと写真も撮るにゃ~」
「なに買ってもらおっかな~??」
「脅迫もやめてにゃ~」
べティには「帰ってからなんでも言うことを聞く」と告げて先送りにし、カメラをそっと次元倉庫に入れた。喜んでいるべティを横目に見つつ、フィルムを簡単に回収できたとほくそ笑むわしであった。
わし達が「にゃ~にゃ~」騒いでいたら、アオイが目覚めてわしを投げ付けた。抱き枕にしていたのはそっちなのに……
あとはコリスを起こしてノルンも再起動したら、朝から大量の朝食。べティとアオイはほどほどの量。ノルンはわしの魔力だ。
出掛ける準備をしたら地下から這い出し、勇者パーティのストーキングを再開。しかし、勇者パーティが野営をしていた場所に向かったら、テントの欠片もなかった……
「ま、まさか……夜中のうちに魔物にやられたんにゃ……」
「もう出発したんでしょ。あたし達が起きるのが遅いの。なんでわからないのよ」
「ですよにゃ~」
時刻は十時過ぎ。昨日は三人ほどはしゃぎすぎたので起きるのが遅くなっていたから、わしだってわかってボケているのにべティのツッコミが冷たい。
どこからか「シーン」と聞こえて来たので恥ずかしいので、さっさと出発。勇者パーティを探すのであった。
勇者パーティは二時間近く前に主発したようで、けっこう先に進んでいたけどわし達に掛かればすぐに発見。望遠カメラで撮影しながら追いかける。
「ちょっと前からも撮って来るにゃ~」
「見付からないようにしなさいよ~」
「いや、勇者様より先に進んじゃダメでしょ?」
撮影が面白くなってしまったので、勇者パーティより先を進もうとするわし。べティはのん気に送り出してくれたが、アオイに止められた。
そりゃ、未開の地に主役より先に入っているのだから、アオイの言い分は正しい。だが、昔のテレビ番組はこんな詐欺的手法でお茶の間を楽しませていたのだから、わしの行動は正義だ。
わしは何度も先行して進み、勇者パーティの勇姿を写真に収めるのであった。
勇者パーティはたまに遭遇する魔物との戦闘を繰り返し、出発から三日目の朝には、魔王城の門に到着した。
「あ……そう言えば、シラタマさん達ってここまで来てましたね……」
勇者パーティがケルベロスと戦っていると、アオイは今頃わし達が勇者パーティより先にここまで来ていたことを思い出した。
「そんにゃこともあったにゃ~……あ、べティが壊した門が直ってるにゃ」
「あの時、魔王城にまで乗り込んでいたら、勇者様は必要なかったのでは?」
「どこの馬の骨かわからにゃいわしが、誰にも気付かれずに魔王を倒してしまってよかったにゃ?」
「そ、それは……ケースバイケース??」
「どんにゃケースにゃ~」
わしが魔王をひっそりと倒していたら、勇者が完全に無駄足になる。たぶんそんなことをしていたら、わしは絶対に喋らないので確実だ。
アオイもどうしていたらよかったかなんて思い付かないみたいなので、わしはパシャパシャ写真を撮って、ケルベロスが倒れるのを待つのであった。
「けっこう余裕で倒して行ったにゃ~」
「そりゃ、全員レベルマックスなんだから当たり前でしょ」
勇者パーティがケルベロスを倒して先に進んだら、わしとべティは軽口を叩きながら歩く。
「あの……またケルベロスが復活したんですけど……私が戦ってもいいですか?」
「やりたい人がやったらいいにゃ~」
残念ながら、わし達が通り過ぎる前にケルベロスは復活。アオイが戦いたそうにわしを見たので譲ったら、べティ&ノルンと一緒に突っ込んで行った。
その結果、勇者パーティより早くに討伐。べティもトラウマを乗り越えられたようだ。
ケルベロスを倒して鼻高々の三人とニコニコしているコリスを連れて歩いていたら、わし達の世界とは異なる風景が現れたので、わしはカメラを構えた。
「わ~お。橋の下はマグマよ? それにあの城、どうやって浮いてるの??」
べティの説明通り、巨大な穴が開いている底はマグマで埋め尽くされ、大きな橋が掛かっている先にはこれまた巨大な黒い城。物理法則を無視して建っているので、わしは何枚も写真を撮ってしまう。
「この世界は不思議だからにゃ~……アオイさんはわかるかにゃ?」
「おそらく浮遊石かと……要塞都市でも数軒、似たような建物があるので同じだと思います。あんなに巨大な物が浮いているのですから、浮遊石も凄く大きいのでしょうね」
「ほお~……それはちょっと欲しいにゃ~。魔王が倒れたあとに、持って帰ろうかにゃ?」
「手に入る物ではないと思うのですが……」
アオイが知る伝承では、魔王が倒れると魔王城もすぐに崩れ落ちるので、そんな巨大な浮遊石は手に入れられないし、持ち帰ったという伝承もないらしい。
「にゃるほどにゃ~。手に入れるには、そのワンチャンを狙うしかないんにゃ」
「聞いてました? 魔王の間から逃げるので精一杯って言いましたよね??」
「怪盗猫又に盗めない物はないにゃ~。にゃ~はっはっはっはっ」
アオイに止められても、わしは諦めずに笑うのであった。
「シラタマさんって王様じゃなかったのですか?」
「あ~。これ、シラタマ君の病気なの。有名な言葉を使いたがるのよ」
「ノルンちゃんのマスターは、すぐに調子に乗るんだよ~」
その笑いを冷めた目で見る、アオイ、べティ、ノルンであったとさ。
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