17 決闘を見学するにゃ~


 ケンシン王子が勇者ハルトに決闘を挑む緊迫したシーンをカメラに収めようと頑張っていたわしは、武闘王シンゲンに怒鳴られたのですごすご引き下がった。


「いいシーンは、なんとしても押さえるのよ?」

「ラジャーにゃ~」


 するとべティにコソコソと指示を出されたので、わしは敬礼。そんなことをしていたら、サトミとケンシンの言い合いの末、決闘が受理されたのであった。


 場所は打って変わり、魔法のランプで照らされた屋外訓練場に移動した一同は、中央に立つ勇者ハルトとケンシンを注目して見ている。


「シラタマ。特等席で見せてやる。審判をせよ」

「にゃっ! それは有り難いにゃ~」


 わしがパパラッチになっているからか、シンゲンは止めるのを諦めて審判役を回してくれたので、カメラをぶら下げたままハルトとケンシンの間に立った。


「なんで貴様が……」

「王様のご指名にゃんだから仕方ないにゃろ~。それより、どんにゃルールでやるにゃ~?」


 ケンシンはわしが審判をやることに不満があり、ハルトは展開についていけてないのでずっとあわあわしてる。しかしわしがルールを決めようとしたら、元々の決闘のルールがあるらしく、ケンシンが教えてくれた。

 ルールはわりと危険。お互い真剣を使い、負けを告げなければ死んでもお構い無し。ただし、騎士道を重んじて汚い行為は無し。甚振いたぶったり、相手が逆転不可能の場合に殺しては反則負けとなるらしい……


「ふ~ん……思ったよりぬるいルールだにゃ」

「どこがだ! さっさと始めるぞ!!」


 わしとしてはルール改訂したいところであったが、ケンシンが剣を抜いて構えたので、ハルトにも構えるように促して右手を上げる。


「はじめにゃ!」


 こうして、わしの合図でハルトVSケンシンの決闘が始まるのであった。もちろんカメラはパシャパシャしたけど……



 先手はケンシン。鋭い剣で攻撃してハルトを防戦一方に追い込む。その攻防は、この時点で長引きそうに感じたので、わしはべティとアオイの元へ一瞬で移動してお喋りに加わる。


「思ったよりハルト君はてこずってるにゃ~」

「なんかね。あの王子様、けっこうレベル高いらしいの」


 アオイ情報では、ケンシンはレベルが60近くあって剣聖の称号を持っており、要塞都市でナンバー2の実力者。強力なスキルも多く持っているそうだ。

 かたやハルトは、勇者の補正とスキルがあったとしても、成り立てでは低レベルなのではないかとアオイは予想している。そのレベル差と経験の無さで防戦一方になっているのは、わしも納得だ。


「あらら。それじゃあ勇者君、勝つのは厳しいわね」


 べティは早くも諦めモードに入っているが、それは魔法使いとしての感想。わしの見立ては違う。


「それはどうかにゃ? 本来それほどの差があるにゃら、一撃で終わっていてもおかしくないんじゃないかにゃ~??」

「王子様がわざと長引かせてるんじゃない?」

「いんにゃ。アレはマジにゃ。おそらく、ハルト君は……というか、勇者の剣がハルト君に学習させようとしてると思うにゃ」

「あの剣、そんな機能まであるの!?」

「わしの予想だけどにゃ」


 べティと喋っている間も剣劇は続き、押されていたハルトはしだいに引くことが少なくなって来た。


「本当ね……同レベルの攻防になって来た」

「体が追い付いて来たみたいだにゃ」

「い~な~。あの剣があれば、あたしも接近戦を楽にできるのにな~」

「べティは歳の問題にゃ。いまのペースで訓練を続ければ、十年後にはイサベレの背中が見えているはずにゃ」

「マジで?」

「べティには魔法があるからにゃ。それは大きにゃアドバンテージになるにゃろ」

「あたし……頑張る!!」


 わしがべティを褒めるように言うと、べティは闘志を燃やしている。


「さてと……そろそろ決着しそうだにゃ。わしも戻るにゃ~」


 ハルトの剣が鋭さを増してケンシンを押し出したので、わしは消えるように移動して二人の間で試合を見詰めたり写真を撮ったり。

 命に関わる事態になりそうなら割って入ろうと思っていたが、その結果は圧倒的な結果となった。


 ハルトがケンシンの剣を弾き飛ばし、倒れたところに剣を突き付けたのだ。


「はぁはぁ……僕の勝ちですね」

「……」


 ハルトが勝ちを宣言してケンシンが小さく頷くと、ハルトは剣を鞘に戻す。そして背を向け、喜ぶサトミの元へと歩いて行ったその時、ケンシンは懐に手を入れて何かを投げた。


 それはナイフ。ハルトの後頭部に見事に当たりそうになったので、わしは素早くハルトの後ろに移動して柄を掴んで止め、ケンシンに質問する。


「これって、毒が塗られているのかにゃ?」


 わしの問いにケンシンは答えないので近付くと、サトミの非難の声が聞こえて来た。


「お兄様! 負けを認めたにも関わらず、毒のナイフで不意打ちなんて、騎士道をどれだけ汚すのですか!!」


 サトミがわめき散らすと、周りからもポツポツと非難の声が聞こえるが、わしはケンシンの目の前まで歩を進めてもう一度同じ質問をする。


「これって、毒が塗られているのかにゃ? 答えろにゃ~」

「くっ……それがどうした!!」


 ケンシンが諦めたように逆ギレするので、わしは「イエス」と受け取った。


「にゃら、この決闘は王子様の勝利にゃ。おめでとうにゃ~」


 わしが肉球をブニョンブニョンと鳴らして拍手をすると、辺りから音が無くなった。おそらく、わしの裁定が受け入れられないのだろう。


「なっ……どう見ても、勇者様の勝利でしょう! さらにお兄様は反則負けまでしましたわ!!」


 そこにいち早く復活したサトミがわしに詰め寄るので、この裁定の説明をしてあげる。


「わしって、いつ、勝負ありって言ったにゃ?」

「え……」

「ナイフの確認が終わってからにゃろ?」

「それは反則負け……その前にも、お兄様は負けを認めましたわ! 皆様も見ましたよね??」


 サトミが皆に尋ねると、約3分の1が頷いているが、その他は首を傾げている。


「にゃ~? わしも王子様が頷いたか頷いてなかったか判断がつかなかったにゃ。にゃのにハルト君は背を向けて無防備になってたんにゃから、どう考えても王子様の勝ちにゃろ?」

「で、でも……騎士道を汚した勝利なんて認められませんわ!」

「騎士道にゃ? 正々堂々にゃ? 敵はそんにゃこと考えてないにゃ~。どう生き残るかにゃ。んにゃもん守って死んだら、ただの無駄死ににゃ。王女様は、ハルト君に無駄死にして来いと言ってるにゃ??」

「ち、ちがっ……」


 わしの問いにサトミは下を向いてしまった。


「わしは最初に言ったよにゃ? ルールが温すぎるとにゃ。わしの基準は生きるか死ぬかにゃ。それを踏まえたら、汚い手を使ってでも相手を倒そうとした王子様の勝利は揺るぎないにゃ~」


 わしが勝者を告げているのに、勝者のはずのケンシンですら嬉しそうにしない。なのでシンゲンに視線を送ったら、前に出て来てくれた。


「この勝負は引き分けだ。記録にも残さない。皆、パーティーに戻れ」


 シンゲンの裁定はドロー。わしの判定を覆しているが、死に掛けたハルトも騎士道に反したケンシンも反省しているので、わしとしても無難な裁定だと受け取った。


「サトミ、ケンシン、勇者……それとシラタマ。お前達はついて来い」


 そして呼び出しを喰らったので、わしはそうっと逃……


「にゃっ!?」

「一番の当事者がどこに行こうとしている?」

「王様も腕伸ばせるにゃ? それってどうやってるにゃ??」

「いいからついて来い!!」


 逃げ出せず。シンゲンの伸びた腕で首根っこを掴まれて拉致られるわしであった。



 別室に連れ込まれたわしはポイッと投げ捨てられて、シンゲンは立派な椅子に座り、その他は気を付け。わしはどうしたものかとキョロキョロしたらソファーがあったので、そこに飛び乗る。


「はぁ~~~」


 シンゲンはわしをチラッと見てから長いため息を吐いたが、たぶんわしのせいではないと思われる。先程の話に戻ったし……


「まず、ケンシン。お前はシラタマに感謝しろ。シラタマのおかげで名を汚さずに済んだのだからな」

「……」

「もし、つぎ、何か問題を起こしたら……わかっているな?」

「はい……」


 ケンシンはあまり納得していないのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「次に勇者ハルト。お前は圧倒的に経験不足だ。息子より強い魔王を相手にしないといけないのに、死に掛けるなんて持っての他だ。余に告げた誓いは嘘だったのか?」

「い、いえ!」

「では、いっそう努力して、人々が苦しまない世を作ってみせよ」

「はい!!」


 わしは話についていけないのであとで聞いた話だと、ハルトはシンゲンから勇者の使命を全うする覚悟はあるのか問われていたらしい。その時、ハルトは本心から世界を救いたいと言っていたそうだ。

 この時わしはそんなことは知らなかったので、誰かに聞きたくてうずうずしていたらシンゲンに名を呼ばれた。


「シラタマは……息子の名誉を守ってくれて感謝する。それと、勇者の課題を教えてくれたこともな。とてもそんなことを考えているように見えなかったけどな」

「一言多くにゃい?」

「ああ。すまない」

「にゃんてにゃ。わしは本当にそんにゃこと考えてなかったにゃ~。にゃははは」


 わしが笑うと、部屋に漂っていた重たい空気が飛び去った。


「じゃあ、何が目的だったのだ?」

「わしは特等席で見ていただけにゃ。その過程で、たまたまハルト君の弱点があらわになっただけにゃ」

「フッ……たまたまか。そのたまたまに救われる者も多く居よう。これからも、たまたまそういう現場に居合わせてくれ」

「王様は難しいことを言うにゃ~。わしはただの猫にゃ。主人公を差し置いてそんにゃ偶然に出くわすことなんてないにゃ~」

「もう三度目ぐらいだろ? わははは」

「それもたまたまにゃ~。にゃははは」


 わしとシンゲンが打ち解けて笑っていると、ケンシンとサトミの間でこんな会話がなされていた。


「おい……あのシラタマとかいう猫、何者なんだ? あの父があんなに楽しそうに笑っているぞ??」

「いちおう異世界にある猫の国の王と聞いているのですが……」

「王だと!? あんな礼儀知らずが、王……」

「私もそこは引っ掛かりますけど……やることなすことはちゃめちゃですし……」


 サトミとケンシンの話も弾むのであった。


「あの……僕はどうしたら……」


 ハルトは誰の話にも入っていけず、寂しく突っ立っているのであったとさ。

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