第3話 ゆりゆり
世界を滅ぼさんとする大魔王、オルガディオスが勇者レイドに打ち倒され一〇年、一時は平和を取り戻したかに見えた世界もそう長くは続かなかった。
勇者が帰還してから半年後、魔王との戦いで受けた呪いで勇者が死ぬと、まるでそれを待っていたかのように邪神が現れた。
そして今、邪神を倒すべく、勇者レイドの故郷アルべルドは壮大な作戦を決行した。
騎士の国アルベルド、その領内にそびえる霊山、グレモア山脈を一万人の兵士が行進中である。
他にも勇者パーティーが三〇組、合計一一二名も一緒に山の奥へ進む。
目指すは霊脈の中心、グレモア盆地だ。
「よし、ここでキャンプをする。各自準備を」
指揮官の命令で兵士と勇者達は荷を下ろし、テントを張り始める。
手の空いている者は警備に回ったり、周囲のようすを調べに行く。
魔王オルガディオスを打ち倒した初代勇者、レイドの名を冠する世界でもっとも権威ある勇者養成学校、レイド学園の勇者学科を首席で卒業したエリスも荷物を降ろし、偵察の準備をする。
いくら首席卒業といっても、今年の春に学校を卒業した少女が参加できるほど今回の作戦は軽くない。
それでも参加許可が下りたのはそれほどエリスの実力が歴代主席卒業生の中でも群を抜いていたからだ。
少しでも身軽にするため、エリスが鋼の胸当てをはずすと、
「ちゃーんす!」
わきの下から伸びてきた二本の手がエリスの胸をもみしだき、エリスはヒジ打ちで背後のバカを撃退した。
「グ、グボェエエエ、ちょ、術師系は戦士系みたく体強くないんだから」
腹を抱えて倒れる白い法衣を着た少女を見下ろし、エリスはため息をついた。
「君は卒業しても変わらないなぁ、アルア」
少女がうめきながらも何かを訴える。
「きょ、去年の春より……三センチアップ」
「卒御してむしろ酷くなったか?」
アルアを踏みつけるエリス、その姿は勇者というより女帝である。
「だって胸当てをはずすって事は揉んでって事でしょ!?」
がばりと起き上がり詰め寄るアルア。
肩にもかからない黒いショートヘアーに均整の取れたプロポーション。
ややボーイッシュながら十代の少女としての魅力を多分に含んだルックスなのだが、彼女もまた、エリス同様その手に素敵な彼氏の手を握った事が無い。
彼女が触れるのは少女のやわ肌。
握るのはバストとヒップ。
アルアが待つのは白馬に乗った王子様ではなくエロハプニングである。
「どうして君が卒業できたのか私は本当に不思議だよ」
「どうしてってあたし賢者だよ! 黒魔術と白魔術両方使えるんだよ! 聖書と魔導書の中身一字一句全部暗記してんだよ全女子生徒のスリーサイズと一緒にね!」
エリスのボディブロウが深めに抉りこむ。
「この痴女め、なぜ君はそうやっていつも胸ばかり揉むんだ」
「え? じゃあお尻はいいって事?」
「却下だ」
「冷たいなあ、それにエリス、あたしが胸揉む理由なんて一つしかないじゃん」
冷たく切り捨てるエリスに、だがアルアは二本の足で立ち、そして右手を天に掲げる。
「そこにおっぱいがあるからさ!」
エリスの右フックがアルアの横っ面を叩く、それでもアルアは倒れながらエリスの揺れる爆乳から決して視線を外さなかった。
「もお、エリスちゃんてば素直じゃないなー、卒業前のパーティー決めであたしを指名してくれたのは遠まわしな愛の告白でしょ?
さあさあ遠慮しないでこのままあたしと百合ワールドへ!」
「君を指名したのは他の女子に手を出さないよう監視する為だ」
挫けそうになったがアルアはヒザに手をついて持ち直す。
「でもでも、だったらなんで他の子は指名しなかったの?
普通勇者パーティーって四人なのにうちのパーティーあたしとエリスの二人だけじゃん、それってつまりあたしと二人っきりの愛の巣を作りたいって――」
「男子でも女子でも他の生徒を入れるとその生徒に迷惑がかかるだろう、心配しなくても君は私が強制的に厚生させ趣味は社会奉仕、尊敬する人物は勇者レイドという理想的な人間にしてあげよう」
「いやー、そんな人間になりたくないー! あたしは死ぬまで美少女の痴態にニヤけ美女の裸体にボ○キするんだー!」
目に涙を溜めながら地面でバタつくアルア、今年十九歳になるとは思えない姿だ。
「ボッ……その、女ができるわけないだろう、男に生まれ直ってから言え」
「へっ? 女もクリトリブロォオオオオ!!!」
振り下ろされた剣がアルアの腹を潰す。
鞘が無かったら脚と胴体がさようならだ。
「勇者パーティー三〇番、準備はできたかー」
「はい、今行きます」
バカを放置し、エリスは部隊長の元へと走った。
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