第十話 謎の老人
ロバートと別れた俺は商国を見て回った。
商国は商売の国。様々な物品がこの国に集まり、そして出て行く。
なのでこの国では商人向きの商品はたくさんあるが個人で買うようなのはあまり売っていない。
しかし色々珍しい物は売りに出されており退屈しなかった。
他の大陸から来た食べ物や魔道具、ペット用の魔物なんかもいた。今回の一件が片付いてまとまったお金が入ったらまた見にきたいものだ。
ある程度めぼしい物を見て回った俺は商国の正門近くにあるベンチに腰を下ろし休んでいた。
「ちゅうちゅう、ちゅうちゅう」
そらはワイバーンフルーツという真っ赤な珍しいフルーツで作られたジュースを飲んでいる。なんでも別大陸にしか生えないフルーツらしい。俺も飲んでみたが甘さと酸味が絶妙で美味しかった。
「にしてもすげえな。こんなに人がいるのか」
正門からは途切れることなく人が入ってきて、そして出て行く。
人口こそ王国よりは少ないらしいが、1日に入ってくる人の数はその人口を上回るらしい。
そして入ってくる人と同じ数がまた出て行く。そうやってこの国は成り立っているのだ。
「お前さん、商人志望かい?」
「え?」
ぼーっと人の流れを見ていたら急に誰かに話しかけられる。
声の方を見てみるとそこにはちっこいおじいさんがいた。グレーの帽子を
一体誰だ?
「えーっと……」
「ほほ、申し遅れたな。わしはリンド、しがない商人じゃよ」
そういって商人のリンドはしわしわの手を差し出してくる。
「ああ、俺はキクチだ。残念ながら商人志望じゃなくて冒険者だよ」
そう返しリンドの手を握り返す。
握り返したその手はしわしわで細いにも関わらず、硬くてしっかりとした手だった。
もしかしたら見た目よりも強いのかもしれない。
「そらはね! そらって言うんだよ!」
何故かそらも競うように挨拶し、手を生やしてリンドに出してくる。
おいおい、いきなりそんなことしたらびっくりするだろうが。
「ほほ、こりゃまた可愛い挨拶をどうも。ご褒美に飴ちゃんをやろう。美味しいぞー」
「わーい!」
しかしリンドは急に喋り出したスライムに驚くことなく柔和な態度で接してくる。
すげえ爺さんだ。
「しかし何で俺が商人志望だと思ったんだ?」
「簡単な話じゃ。商人見習いはまずここで商品の流れを見て勉強をする。そこで分かったことを師匠に報告し自らの眼を養うのじゃ」
「へえ、そんな文化があったのか」
周りを見れば確かに若い商人見習いと思わしき人物が何人も人の流れを目を皿にして見つめている。
なるほど。俺みたいなおっさんが商人見習いみたいなことをしていたら目立つわな。声をかけられるのも当然か。
「悪かったな。この国に来たのが初めてで物珍しくて見入ってただけなんだ。怪しいものじゃないよ」
「ほほ、怪しんでなどおらんよ。見かけん顔だったから興味本位で話しかけてみただけじゃ。そうじゃ、良いことを思いついた。お主もやってみたらいい」
「そんなこと言われても何もわからないよ。初めて来たんだし」
「そう言わずにやってみるといい。入ってくる商品と出て行く商品。その二つに注目するんじゃ。そしてその荷物を運ぶ人物も無視するでないぞ。なあにコツは教えてやる」
そこまで言われちゃしょうがない、物は試しだ。やってみるか。
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