来世の君へ ‎~輪廻の中で見つけた平和~

Good sky forever

第1話 君からのオクリモノ

「アラ…ソ、イヲナ……ク…、?

 はあぁ。こんなの、解読できるかっ!」



思いっきり椅子を蹴ろうとしたが、

からぶって倒れてしまった。

ため息をついて、巨大な石板を見上げる。


この石板は先月、インド洋唯一の海溝である

ジャワ海溝の海底付近で発見された物だ。

石板に使われている文字は、世界で類を見ない物だ。

それを解読するのが俺のチームの役目なのだ…が。全16種類しか見つかっていない文字をどうやって解読しろと…。

造られた年代も不明だと言うのに…。



「あんのぉ、勝手に1人で進めないでくれよぉ、マラフ君!我々の楽しみを独り占め

するとは全く…!けしからんぞよ!!」


解読室に入ってくるなり、相変わらず

バグった声の大きさで話しかけてきた。



「ヴィリア隊長…。ノックぐらい…してくださいよ。」




【seekers】の解読チームに所属した始めの頃は、班長の声の大きさに驚いたものだ。

顕微鏡で慎重に観察を行ってる時だって、

疲れてウトウトしてる時だって、いつだってこの【バグり声】で話しかけてくる。

いい迷惑だ。まぁ一応、ポジティブに言っとくと、彼の声は歌手向きだと思う。

職業を、考古学から歌手に転職した方がいいと個人的に思っている。



「オイ!聞こえるかっ!?わしの声が!

 何故じゃ、何度も話しかけとるのに

 なぜ、反応しん!?」


「いやあんた!今始めて おい!って

 話しかけただろう!?」


「お、ホントじゃ。すまんすまん!

 むはっはっはっはっぁぁ!!!!」


誰か…耳栓をくれないか?

死んじまう。


相当、この笑い声がうるさかったのか

リアスが注意しにやってきた。



「ヴィリアさん!いくら祝賀会だからって

 叫び声はやめてもらえません!?

 ただでさえ、あなたの声はうるさいんです

 から!」


「お?そうかね?叫び声じゃなく、笑い声じ

 ゃったがのぉ」


「どっちでもいいですよ!!……はぁ。

 それと、マラフ。   君もせっかくの

 祝賀会ぐらい来なさいよぉ。

 世界考古学研究会でこのチームが最優秀賞 

 を受賞したんだよ? こんな特別な祝賀

 会!もう!ホント!?

 なんで!?こんな日に解読なんて

 やんなくていいって!

 ホント!さぁ!来なさい!」



「あい、いててっ」



リアスは、ヴィリアとオレの腕を強引に掴んで、外に引きずり出した。

ズボンについたゴミを払って立ち上がり、

前を向くと、夜空一面に星々が広がっている。背後にあるヒマラヤ山脈がガンジス川に

映っている。月明かりによって……


とても神秘的だ。




「……夜って…結構、綺麗」


思わず呟いてしまった。


「そうでしょ?……この景色、見せたかった  

 んだ。綺麗でしょ?」


自慢げそうにコチラを見ている。

まぁ確かに…結構綺麗だ。

そういえば、

ヒマラヤ山脈のふもとでは、解読チームの面々がいる。焚き火を中心にして円を描くように動いている。


「なぁ、リアス。あれ、みんな何してるん  

 だ?」

 

「あー、あれね~。どうやらサチコが日本の

 伝統的な踊りを教えてくれてね。

 なんだったっけ。ボ…ボ、ンオド?

 ボンオドリ? だったかな。」



なるほど。日本のその、ボンオドリってのは

ああやって動いてくのか。

みんな、楽しそうだな。祝賀会か…。

そうだな。せっかくだ。せっかくなんだから

今日ぐらい、解読はひとまず置いて、

楽しむとするか。…解読するのも疲れたしぃ


オレとリアスは皆のところに向かった。






次の日の朝。


いつものように朝日が上がり、

地面は日に照らされ、生物が活動し始める。


が、seekersの解読チームだけ違った。

みな、酔い潰れている。

そこに生き残ったのはオレだけだった。

眩しい朝日に照らされながらボーっと

巨大なヒマラヤ山脈を見つめる。

改めてしっかり見ると大きいなぁ。山に見惚れていると、突然、背後の草むらがざわついた。


なんだ?獣か?いや、こんなふもとまでくるはずがない。ん?え?

こ、こっちに近づいてくる!?すかさず、

机に置いてあるキャンプ用ナイフを手に取る。

なんだ?なんなんだ?

ガサッ……ガサガサガサガサ!!

やばい!!くるくるくるくるるるるる!!

やばい!?オレ死ぬのか!ちょっとみんな!起きてくれよ!どうしよう!あ!ぁぁ!!


バサっ


「ねね、マラフ!見てこれ!」


…なんだ、お前か。


「リアス。…か。ビックりしたー…

 どこ行ってたんだ?」


「待って!そんなことよりこれ!

 見て! この石!」


「…ん?」


リアスの手には、クリスタルのような物がのっていた。


「…この石がどうかしたのか?」


「いやほら!この石の形、見て!

 昨日、マラフが解読してた石板あったでし 

 ょ? あの石板の中心になんか、

 いかにも何かハマりそうな穴があったじゃ 

 ん!これ、ハマるかもよ!?

 何か起こるんじゃない?

 石板が光る!とか古代の何かわかるーと 

 か!?」


「お前のSF好き精神は十分理解した!

 じゃあ聞くが、そんなすごい石ころがなん 

 でそこらへんに落ちてんだよ。」


「そこらへんじゃないし!これは由緒正しい

 お寺さんからもらってきたんだから!

 そのお寺のご先祖さまが昔、漁をやってた

 んだって! で、それで、ジャワ海溝の近  

 くでたまたま釣り上げた石がこれなんだと 

 か!! で、その石がここのお寺にだいだ

 い納められてきたってわけ。」



そんな…それだけで何か特別な石とか??

全く、リアスはいつも騙される。


「はぁ。また、騙されたんじゃないのー?」


「いや違う!今回はガチ!!」


「へいへい。そーですかっ」




「…今回は本物なのにぃ!」


リアスは怒って、そっぽを向いてしまった。

……なんか、寂しそうに木の棒で地面に絵を描いている。


「あ、ぁ。わかったわかった!

 それ、本物なんだな!?よし、

 じゃあもらっとく。解読のヒントになるか

 もしれん!!」


「え!?本当?? …じゃああげる!

 ちゃんとそれ、使ってよ!?この

 魔法使えそうな石!」


「へいへーい。」


リアスは少し疑いの目を向けてから、

酔い潰れた皆んなを起こしに行った。


リアスからもらったクリスタルは、

朝日にあたり、綺麗に輝いている。

解読を無理に頑張っていて溜まってしまった

この疲れが、静かに解けていくのを感じた。





「魔法が…使えそうな石か。」










……まぁ、今度、使ってみよ。

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