darkness dream
平安末期、大江山。
姫君たちの若き血が注がれた盃(サカヅキ)、
とある峠の奥深く、謝肉祭(カーニバル)は開かれていた。
ビュッ!!
シュパーン!(※振りかざされた刀の音)
「ッ!ガアーーーッ!(赤鬼=酒呑童子)」
「いまだ、かかれ!(源頼光)」
その武将、頼光の目の前にいた巨大な赤鬼(酒呑童子)は、砦のなか彼らを睨み付け、暴れもがき苦しみながら、屋敷のなかを生命力の限り逃げ回る。
数ヶ月前から都を襲う彼ら鬼を討伐すべく朝廷により選ばれた5人の男たち。(頼光ほか渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武)
名刀、童子切安綱が、悪鬼の首を脊髄の根からこそぎとった。
彼らは騙し討ちとばかりに悪鬼と共に酒を酌み交わし、今まさに酔ったその隙を狙い、ここぞとばかり討ち取らんとしていた。
「・・・・・・やったか!(頼光)」
ピクッ(目を閉じ、口角をあげる酒呑童子の生首)
ビクビクビクッ!
生臭い鮮度、艶めき動く肉塊・・・
ビチビチビチ!
跳ねる首。悪魔は彼らの前に再び立ちふさ塞った。
「マガモノめえっ!!(頼光)」
「ギャー――ハッハッハハハ!(刀に噛みつく酒呑童子の生首)」
刃を嚙み砕かんと迫るその気迫に、圧倒されそうになる。
往古の昔、軍神(スサノヲ)が八岐大蛇を倒した
その奇策(酒に酔わせ首を刈る)をもってしてもいまだ力の差は、大きく開く。
そしてただでさえ童子の従がえる無数の雑鬼は一匹一匹が尋常ならざる剛力をもっていた。
毒矢に勝る魔性のツメ。
「うっがあー!(渡辺綱)」
「残すは頭だ!ここは任せて奴を追え!(坂田)」
次々と現れる配下の土蜘蛛は武将ら人間たちの数を越えていた。
「こんのなまくらがあッ!くそぉー!(碓井)」
※なまくら=鈍り使えない刀
人がマガツカミに打ち勝つことは、近接兵器の中で最高峰と評される日本刀をもってしても、容易なことではなかった。
ピキュガァーン!(射し込む白い閃光)
「な・・・!(頼光)」
狂乱を遮るように空間を包む眩しい白。
光の暖気が砦のなかで鬼どもの四肢を破裂させ、その勢いのまま屋内にて熱気は爆発した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!(炎の渦)
「(誰かが火を放ったのか?!)(頼光)」
「ガッアガァアー!ッーーーンァガー!(発火する酒呑童子)」
「・・・助かったのか。い、いけるぞ、我らに軍神の加護あり!いくぞォ!うぉおおおォーッ!!!(肉を削がれ生傷を負った武将たち)」
「ガアァアーッ!(燃え滾る鬼)」
数時間にわたる、血を削ぐ死闘の果て、攻防が続いた。
ゴゴゴゴ!(燃える酒呑童子の棲み家)
ついに、死線を越えて。
瀕死の生傷を抱えながらも源頼光たちは鬼(酒呑童子)の一味を討伐することに成功した。
「やった・・・!ついに打ち勝った!(坂田)」
「しかし、全くの油断はできんぞ・・・滅ぼしたとていずれ・・・。奴らは※鬼なのだ・・・。」
※古来鬼とは、超常的力をもつもの、人ならざる特性を持つ物の怪としての意味合いが強かった。
「滅びたように見せ、変幻自在な術で身内に化けているやも知らん。(渡辺)」
「・・・・・・ああ、肝に命じておこう。(頼光)」
後に鬼どもにおそれられる渡辺綱の忠告、都に帰還して数日が過ぎた日。
いまだ彼(源頼光)はその胸騒ぎから逃れられずにいた。
彼は寝所にて一様に眠れぬ夜を過ごしていた・・・。
「(・・・なんだこの生臭いニオイは)・・・ぅぐう・・・ワァアーッッー!(頼光)」
布団から跳ね起きるとそこは平常の現実(リアル)をこえた延長に続く現実世界であった。
やたらに、やけに色鮮やかな彩度の世界。
この屋敷は・・・・・この、砦は。
この散らばる白い腕・・・血は。
直ちに頼光はその胸騒ぎの意味を知ることとなる。
「こ、ここは先日来た・・・!(頼光)」
気がつけば彼一人だけが誘われていた。
「じょ、冗談ではない・・・!!!」
数日前の地獄(あくむ)の中に。
「先刻は~よくも・・・・やってくれたなあ。(酒呑童子)」
「あっはっはァアア!!!!!(酒呑童子)」
「俺は、なぜこんなところに・・・・・・・!(頼光)」
まるで猛者の魂をポッキリへし折る無間地獄(ループ)のように、武将は地獄に取り残されていた。
道に迷った幼子のように彼は、そんな心境に加速度的に逆行していた。
その時、平安の武将源頼光は
自ら討ち取ったはずの、悪鬼たちの住む巣窟に逆戻りしていたー!
頼光は咄嗟に真っ白な頭の中から、自分を助けるその刀を探し出そうと手をばたつかせた。
「はぁーーーぁあーーーー・・・・・・・!!(頼光)」
「か、刀・・・!(刀は、どこだ?!)(頼光)」
散らばる仲間たちの死体。
全員見るも無残な姿となり、その血肉を食む土蜘蛛により頼光は完全に取り囲まれていた。
眼前には先日討ち取った赤鬼(酒呑童子)の首が、憎らしげに頼光を見つめている。
首を跳ねられようと、いっこうに何の心のぶれも感じさせないクールな目付きはいっそ頼光を爽快な恐怖の世界に引き込んでいた。
「(そうだった・・・こいつ、は鬼だった・・・・・・・)(頼光)」
スウッ・・・・
薄暗い明かりの中から、あらわれるものは見覚えある影の群れであった。
かつて自ら共に闘い散った戦士たちの姿が、無数の鬼となり現れる。
「俺は、ほんとの修羅道に、いや餓鬼、畜生道に堕ちたとでもいうのか・・・・・。(頼光)」
こいつは、そんな滑稽(イージー)なモノじゃなかった・・・。
「宴(うたげ)の続きだ・・・!(酒呑童子)」
「う・・・うわぁああぁあああああああああああ!!!!!(頼光)」
ビシュッッ!
闇を追う一線の太刀-!
「・・・・・・・・(テルヒコ)」
ブシャアッ!(※鬼の脳天に強く差し込まれる剣)
突如放たれた青年の太刀は垂直に酒呑童子の脳髄に串刺しに差し込まれていた。
ギリッギリリッ!
「ガッアガ・・・ガ(酒呑童子)」
「ギィイィィィィイ!ギャアアアア!(悪鬼の部下たち)」
騒めく狂気、マガモノの群れ。
ブシュウッ!(※剣を鬼の頭蓋から引き抜く音)
ピンク色の脳が、一面に暴れ出た。
「貴様は・・・(頼光)」
「心を惑わせるな!付け入られるぞ。(テルヒコ)」
引き抜かれた力。
放つ言霊と共に携えた(十束の剣)は霊気を宿し光を帯びていた。
切り裂かれたその直線の太刀筋は鬼となった亡霊共の邪気をうち祓い、邪悪な熱風を溶解させていった。
「(あれは見たことがある、軍神スサノヲの・・・剣だ・・・!)(頼光)」
「諸々の禍事罪穢れを、祓えたまえ・清めたまえ!・・・・・・・うッ・・・。(体力が尽きかけるテルヒコ)」
「オモイダシタゼ!!!(酒呑童子)」
「まさかこんな所(夢幻の中)で出会うとはなア・・・なあ~ケケケ、オレだよ!覚えてるかあ?ボウズ(赤鬼=酒呑童子)」
斬りつけられた首は180度回転し、武将の夢の影より現れた青年にケタケタ笑いながら告げた。
「いいじゃねえかよ、お互い様だぜぇえ~。おめえ(頼光)ら人間も卑怯クセえ罠張りやがるからよ・・・。(酒呑童子)」
「これで終わったと思うなよ・・・グッギャガアアア!(突然現れた青年に踏みつけられる赤鬼=酒呑童子)」
「・・・くっそ・・・クッソオオ!!!!必ず滅ぼす!地獄に下っても・・・。(テルヒコ)」
幾度も頭蓋を踏みつける青年の容貌(かお)に、頼光は鬼の影を見た。
「(否、神ではない。こいつも・・・・・・!)(頼光)」
「キサマさえ・・・貴様さえいなければァア!(テルヒコ)」
散らばった肉、生ぬるい返り血を浴びた青年は、躊躇などなく鬼の首を踏みにじった。
「・・・お前は何奴だ?!(源頼光)」
「フフフ・・・・・・ハッハハハハハハ!!!!(テルヒコ)」
「・・・・・・・この程度でヤツは死なない・・・!(テルヒコ)」
追っていた対象を逃がしたとばかりに、失意呆然となった姿の青年は、振り向き武将に言った。
「・・・・・油断するな。(テルヒコ)」
「やつはまた必ず来る、身内に害が及ばぬよう気をつけろ。・・・(テルヒコ)」
「・・・まさか貴様もここに住み着くモノノ怪か?!・・・これは、夢なのか?(頼光)」
「俺のことはじき忘れる・・・。これはただの悪夢だ。(テルヒコ)」
とってつけたように、青年は立ち止まり彼(頼光)にこう教えた。
「自らを加護する力に感謝することだ・・・。
明日の朝一番、産土の社にいくといい。危ないトコだったな。(テルヒコ)」
※産土神社=自分が産まれた地の神様のこと
武士(もののふ)たちが力を持ち、台頭しはじめたこの時代-。
かつて平安の世において京の都を襲撃し、
源頼光(みなもとのらいこう)ら、名刀童子切安綱(どうじぎりやすつな)を携えた武将に討たれた悪鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)。
赤鬼の姿で描かれることの多い彼は数多くのマガツカミ=鬼の部下や土蜘蛛たちを従え、都に出現しては若い姫君や貴族を誘拐し、隠れ家にてその生き血をすすり肉を生のまま喰らったという。
酒呑童子(かれ)の幼い時期の名が、(伊吹童子/いぶきどうじ)といった・・・。
そう、あのイブキである。
邪馬台国を滅ぼし、のちの時代昭和~令和と幾度も甦り王子テルヒコと因縁の戦いを繰り広げることとなる、九頭竜ことイブキ。
イブキの分身あるいは転生(その息子)といえる存在、酒呑童子は武将たちによって討たれたかに思われた。
(※酒呑童子は、八岐大蛇あるいは九頭竜の子=伊吹童子と言われている。)
はるか時は下り、戦国時代ー。
栄華を求め血で血を洗う欲望、憎しみが国内全土を支配するこの時代、魔軍の将イブキの影が、再び甦ろうとしていたー。
広がる野望の果てに・・・。
英傑たち、兵(つわもの)どもの残した強烈な願望、夢の残り香を嗅ぎ付ける蟲たちの大群、
人がストレートな願望に基づいて生きた衝動の時代、何事もないかのように
(やつらがそのまま眠っているはずもなく)
変わる時代の中、邪神もその力を吸収しては成長し、
(野望滾らせる猛者どもを媒介の土壌として)その勢力を拡大させていったのである・・・・。
騒乱の前夜、九州の関ヶ原ともいわれた、かつての耳川の地にて・・・。
ダッダッダッ!(蹄の音)※ヒヅメ
その当時、各地に出没する邪神たちを休まる暇もなく追い続けていたテルヒコは、愛馬に跨がり遥かにひろがる肥沃な草原を駆けていた。
永劫に続く、修羅の道ー。錆び付いた神獣鏡を抱え、かれは旅した。
「ここもじきに、魔軍の、蟲共の温床になるな・・・・・。奴もかならずや・・・!(テルヒコ)」
意図せぬ郷里への帰郷-。
彼はそのとき、邪神討伐の野武士として全国諸国を行脚していた。
そのため当然マガツカミの間では一種の噂となり、そうとうな恨みも買った。
彼らが倒した鬼や土蜘蛛など魑魅魍魎も、当時を生きた彼を本能的につけ狙った。
数多くの死体が山積みとなった戦地、無傷で倒れていた自分の肉体に彼は戦慄する。
多くの人々との出会い、愛したぬくもりの記憶も邪神共の干渉で、必ずそれらは壊されてしまう。
平穏は決して続くことはなかった。そして、敵となるはずの邪神は人を介して現れた。
邪神は際限のない人々の欲望。人の夢、負の記憶に干渉し現れる。
現れ続ける・・・。生きることそのものが戦い。
どれだけの闇を見せられようと、人の側に立ち続ける、そう思わなければ戦えなかった。
そうでなければ、己こそが最も強い闇となってしまうのだから・・・。
その日信じた者たちの中にも、愛した人の心の中にもその力(ヤミ/マガツカミの種)はある。
次々と現れる闇よりの使者。戦いの相手に事欠くことはなかった。
その肥大化した邪悪な力が具体化し、青年を容赦なく呪殺せんといつでも群れを成す。
彼の眼は、この戦国の世において、完全に修羅のものとなっていた。
戦い続けるたび、肉体が新生(リストレーション)するごとに薄れる記憶。
また、この時代において致命的なことがあった-。
(彼はユタカの記憶を忘れていた)。
「(いつから俺は・・・。)」
人の側に立ち、目の前の"やつら"をこの自分がすべて祓う-。
そうさせる意志が、自らの奥からマグマのようにあふれ出る。
(奴らを一匹残らず倒せ―!)
己を導く光を失ったいま、地獄の中その声だけが自らを導く力になっていた。
彼はすでに、闇と戦うことそのものを目的とする、機械(マシン)と化していた。
鏡から聞こえる過去からの声に苦しみ、男は数百年という戦い日々のなかで、
いつしか自分がなんのために生き、なんのために戦っているのかさえも記憶を欠落してしまっていたのである。
彼を突き動かす声の主。
戦い続ける戦士の裏側で、日は沈み、満ちる月の涙がこぼれ落ちた。
イブキの神、ひいては魔王を奉じる、カラス会祭壇に集められた血。
怨念の歴史。
その、数百年の意志といえる結晶体。
「・・・・・・」
ドサァッ!・・・
グチャッ!
腐臭漂う死者の国で、邪悪な音をたて異様な生物のような巨大な魔の空間から干からび腐敗した女性のミイラが落とされた。
痛ましく刺すような風、彼女(亡骸)にふく風は、容赦なく救いのない現実を突きつける。
真っ暗闇のなか、一度や二度なんてものでは数えられぬほど絶望した。
涙は二度と出ぬほど。
喋ろうにも、もうすでに口内は砂漠のようにかさつき無数の蛆やムカデしか存在せず、自分の意識も狂気を越えて半分現実を拒否していた。
彼は助けには来なかった。
別の自分になって・・・。
その美しい幻想的な夢の世界で自分をいきれば、きっと忘れられる。
彼女(亡骸)の手元には、錆び付いた鏡が握られていた。
神様に。かれがけして闇のなかでも、自分を忘れないように・・・。
それは女王の部屋からこっそりいたずら心で彼女が持ち出したものだった。
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