意識の連鎖

(※ナレーション=メタ・第三者の視点)


「へ~、あんたが赤なのね。よろしく!」


いきなり差し出された握手に、テルヒコは戸惑った。

戦いの後、青い閃光と共に見ず知らずの青年が自分の前に立っていたからである。

普通に生活して接点のなさそうな雰囲気を漂わせるどこか飄々とした青年だった。


「いったい何者だ!俺のことを知っている・・・。」


十字に光るピアスを揺らせ、いたずら好きの少年のような笑顔で青年は笑った。


「ま、これからいろいろと知っていくことになるだろうけど!あんたの大活躍を期待してるぜ!

俺にヒーローの座をもってかれないようにガンバんな!(笑)」


一体冗談とも本気ともつかないカラリとした笑顔と共にテルヒコの背中をパ-ンと叩き、青いデニムの上着を羽織ったその謎の男は一人歩いてゆく。


「なんだあいつ・・・。」


ジャンパーを羽織り立ち上がるテルヒコ。


日没間近。町を出るとすぐそばに広がる廃工場で、これからも続くであろう終わらない戦いを想起し


一人複雑な思いが青年の胸の中を走り抜ける。


「最初の出会いが肝心てなーっ!」


その男、水騎竜(ミズキリョウ)は兄より継承したリューグレイザ―(水神召喚刀)の反応をもとに単身行動を始めていた。


「リョウ~!はやくこい!」


真っ黒くてんころぼしのように日焼けしたパーカー姿の小さな女の子が自販機の前にいたリョウの内膝に蹴りを入れた。


「ぉおハナ!わりぃわりぃ。お前もなんか飲む?」


「なんか飲む?じゃないでしょ。あんたが今日の講師なんでしょ?ほら早く!」


「あーはいはい!ちょっと最近面白いことがあってさ。それで遅れちゃって。」


「面白いっていったいどんなことよ?」


「まーそれは・・・。(一時の無言)・・・フフッ、面白いヤツと・・・あったっていうか。」


「全然わからん。」


「ま、今日の先生はいつになく上機嫌だからそれでよしってことで!な!いくぞー!」


リョウはハナと共にいつもどおり彼らの通うダンススクールへ入っていった。


「しかし、最近のクロウ怪神は以前よりどこかパワーアップしてきている。これは、スクラップじゃないか。」


廃棄物、廃工場の工業製品を取り込み実体化した機械的な容貌を持つ新たなメカ怪神。


「これは・・・現代版の付喪神(粗末にされた道具に命が宿り人々に危害を加えるようになった妖怪)だな。」


テルヒコが創聖した日神オージの破壊したメカ怪神たちのボディパーツから、溢れるドス黒いオイルにまみれ


禍々しい(蟲)だとか(鬼)などの奇妙な文字体で描かれた呪符が掻き出された。


「やはりこの機械もそうだ。ヨダキング(妖怪・件/くだん)の時も・・・・。この霊符みたいなやつが、バケモノたちに生命力を与えていたのか。」


「もしかするとこれが怪神の弱点・・・・!

こいつを研究してみよう。似た札の写真が研究室のファイルに載っているかもしれない!」


日が暮れる市街地の騒めきの中を真っ赤なバイクが走る。


何度もドアの前で気分が悪くなってしまっていた教授の研究室に今夜もやってきた。


あけ放たれ無人となっていた室内。カーテンの隙間から吹く冷たい風が頬にあたる。


残された友人たちの写真。友人の一人だった一宮がふざけておどけた写真。


割れた姿見を見て、テルヒコはつぶやいた。


「じいちゃん・・・・・・。これでよかったのか?じいちゃんはこれを望んでた・・・?」


アマテライザー(鏡)がなければ、自分はどうなっていたんだろう。取り留めない考えがよぎる。


「みんな今頃・・・。」


「あのとき、一体何が起こったんだろう。みんな、今も生きているんだろうか・・・。」


すべてはあの日の夜。一夜にしてすべては打ち砕かれた。


忘れ去られた大切なモノたち。そこから先の映像がどうあがいても浮かばない。


不意に思い出されるその断片の記憶。大学時代、友人たちと大善教授のもとで全国各地を飛び回り


旅していた日々。なにも不安なことも、迷いもなかった。


自分が平々凡々の人間で、きっとその先もそういう日々が続いて人生を終えていくのであろうと当然のごとく思っていた。


あのときが自分にとって最も幸福の日々だったのではないか。テルヒコはそんな過ぎし日の記憶と共に


もう自分がそんな思い出の中には帰れない、戦いの中にいることを強く実感するのだった。


「俺の中には、何もない・・・。」


本当ならば、とっくの昔に気なんて狂っている。


逃げる場所などはない。ましてやそれを理解する者も。


ただ、自分の意志、力だけが信じられる今。


すっかり現状に対し平常でいられてしまう自分の心理状態に恐怖を覚える。


闇を見続けることに慣れきってしまったからなのだろうか。


いや、ほんとうは気づいている。


その感情さえ斬りつける意思で進まなければ、到底これから先すすめる気がしない。


暗闇に浮かぶ鬼を斬り続ける中で、醜悪な人間たちが犯してきた罪が、マガそのものが瘴気となり自分に向かってくる。


それはそれは目を背けたくなるような光景が見えた。


人間の奥底に宿る闇の本質。それに抗おうとする光の意志。


その闘いが反映された、これは生、そのものではないか。


そしてうすら理解していてもたった一人の普通の人間たちの中にこれほどの闇が詰まっているものなのか。


受け入れがたい現実があった。


朝も昼も夜も存在し続けるマガツカミの気配。


いまでも奴らは自分を狙っている・・・・・。


鬼の気配。


それを叩き潰していくうちに自分が、いつしか本当の鬼になってしまうのではないかという予感。


それを滅ぼせと叫ぶ光からの声。


幻の中で今も生き続ける、優しかった思い出たち。


心の奥底に見える、自分を立たせる光の意志。


落ちる一筋の雫と共にその内側に信じられる確かな希望の火が


まだかき消えず残っていることを青年は実感した。


「この火を、消しちゃいけない。」


「奴らはすべて俺が祓う・・・・・・・・。それが、俺にしかできないことだ・・・。」


邪悪に対する強い怒りだけが男を正気でいさせていた。

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