第2話 ラファの家 路上
「さぁさぁ!! 今夜のチケットがまだ残っているよ!! 立見はもちろん、座って観られる指定席もあるよー!! 開場は夕暮れの鐘と同時!! 早めに入ればお酒もサービスするよ!!」
若い女性達の明るく威勢のいい掛け声が街角に響き渡る。
ロアンヌ第四層の西側。
宿屋や酒場が密集する中、ミリエル神殿を挟むようにして白亜の大きな建物が軒を連ねている。
それぞれの白亜の建物の前では薄着の美女達が、その形の良い胸を文字通り弾ませながら街ゆく男性に声を掛けていた。
その中のカタリーナの家と看板を掲げた建物では一人の美女が客引きをしている。踊り子風の衣装を身にまとったその美女は、肩ほどまで有る金髪のくせっ毛を揺らし額に汗を滲ませる。前髪が汗で額に貼り付き、それが女性の妖艶さを引き立てていた。
女性の顔はまだ少女の面影を残している。もしかすると行き交う男たちが見ている印象よりも若いのかも知れない。
「オネエちゃんも舞台に出んのか?」
数人組の酔客が冷やかしで客引きに声を掛けた。男たちは美女の肢体や胸元を舐め回すように見ている。
「ジュリアはねぇ、見習いだからまだ出ないよ。ジュリアが出るようになったら遊びに来てね!!」
女性は唇に指先を当て酔客に色目を送ると、彼らは色めきだった。
「さぁさぁ、いらっしゃい! 酒を飲みながら踊りを見て楽しむも良し、ラファの娘達と夢の様な時間を過ごしたい奴らは寄ってきな!!」
客引きの美女は常連と思しき男を見つけて声をかけると、身体を密着させながら入り口へと引きずり込んだ。
少し離れた場所からその様子をレビンが見つめていた。
彼は耳まで真っ赤に紅潮し全身から妙な汗が吹き出している。その後ろにキャロルが立ち、レビンがスリに狙われないよう周囲に目配せしていた。
「あそこに見えるカタリーナの家がわたしの家だ」
レビンは先程から微動だにしない。
「キャ……、キャロルさん? ここってもしかして?」
(良家の坊っちゃんには刺激が強すぎたか?)
「まぁ、詳しくは後で説明するさ。いつまでもこんな所で突っ立ってないで行くよ!」
キャロルは少年の背中を突き飛ばすように押すと、強引に建物へ向かって歩き始める。
客引きの美女がキャロルに気が付くと、子猫のように駆け寄り勢いそのまま抱きついた。
「キャロル姉さん!! いつ帰ってきたのぉ!!」
「ただいま、ジュリア。ついさっき到着したばかりだよ」
キャロルはジュリアを抱きしめると優しく髪を撫でた。
ジュリアは嬉しさのあまり、キャロルの胸に顔を埋めて鼻先を擦りつける。
「そんな格好で客引きするのはまだ早いだろ。母さんに言われたのか?」
美少女はキャロルから離れると薄手の衣装をつまみ上げくるりと回転する。
「ジュリアはねぇ、早くお店に出たいの。踊りも仕事も両方好きだからね」
ジュリアと名乗る美少女は上目遣いと舌っ足らずな声で甘えると、豊かに育ったその胸をキャロルに惜しげもなく見せつける。キャロルよりも年下ではあるが、男性経験の方はかなり豊富なようだった。
キャロルから離れたジュリアは後ろに立つレビンの姿に気が付くとニヤリと顔を崩した。
「あらぁ〜? いつまでもお堅いキャロル姉さんが珍しく男を連れていると思ったら、こんなに若くて可愛い男の子が趣味だったの?」
ジュリアはニヤニヤしながらキャロルとレビンの顔を見比べる。
「バカ言ってんじゃ無いの! 新しく拾った弟だよ。仲良くしてやってくれ」
キャロルは照れを隠すように語気を荒げた。
「えーマジで? こんな可愛い弟欲しかったんだよね! ホセの馬鹿はフェリペ達に連れ回されて家に帰ってこないし、最近エリックも生意気になってきてねえ……歳はいくつ?」
ジュリアはレビンの正面に立つと顔を覗き込む。
「えっと、十四です……」
レビンは目のやり場に困り、うつ向いたまま答える。
「可愛い~!!」
ジュリアはレビンを抱き締めると自分の胸に顔を押し付けて髪の毛をくしゃくしゃにした。
「メッチャ綺麗な金髪! わたしみたいに少しクセっ毛だけど顔立ちも良いし、お店に出たら別な意味で人気が出そうだね。キャロル姉さんのお手つきでないなら、今晩わたしの部屋においでよ。いろいろ教えてあ・げ・る」
ジュリアが耳元に息を吹きかけながらささやく。
「い、いや、僕は……」
レビンは顔を真っ赤にしながらジュリアの胸の中から逃げ出すと、大きく手を振りながら声を絞り出した。
「レビンにはわたしの手伝いをして貰う予定だよ」
言葉の続かないレビンに代わりキャロルがため息まじりに答えた。
「え~、わたしだって姉さんと一緒に旅したいよ。ずる~い!」
ジュリアは不服そうに頬を膨らませた。
(すごい感情表現が豊かな人だな……)
全身で感情を表現するジュリアを見てレビンはそう呟く。
「そんなにわがまま言わないの……。今日は久しぶりに泊まっていく予定だから踊りも見てあげるよ」
「マジで? 超嬉しい!! じゃあ、客引きの仕事をとっとと終わらせて来るから、家の中で待っていてね!」
ジュリアは嬉しさで小躍りしながら二人の前から離れた。
「あっ、それと。ジニー姉さんが子供の名前を考えて欲しいって言っていたからよろしくね!」
そう言うと、ジュリアは仕事の続きをするため駆け出していった。
と思ったら、すぐに戻ってきた。
「二人は一緒の部屋でいいよね。ベッドの大きい、取って置きの部屋を用意しておくから!」
ジュリアは二人をからかうように告げた。
「いい加減にしないと本気で怒るわよ……」
キャロルが拳を握ってみせると、美少女は投げキスを残して去っていった。
その隣で真っ赤の顔でシャイな少年は立ち尽くしていた。
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