レンタル24・ダンジョンが生まれた日

 その日。

 ワーズから報告を受けたルーラーは、すぐにオールレントを閉店する。

 そして喫茶コーナーから裏庭に移動し、世界樹の元に移動すると、そこで魔法陣を作り出した。


──ブゥン

 大地に干渉し、その世界のマナラインとアクセスする魔法陣。

 これにより、地脈、霊脈、龍脈と呼ばれる星のエネルギーにアクセスして、ワーズのいうダンジョンコアをサーチする。


「……なるほど。確かに良い生まれたばかりじゃが……」

「どうしますか? 魔族の侵攻が始まる可能性もありますが」

「ダンジョンコアが成長する前に、その核を破壊する。そもそも、核を破壊するほどの力を持つもののところには、魔族の侵攻はないはずじゃからな」


 彼のいた世界は、ダンジョンコアの討伐に時間がかかり過ぎていた。

 結果としてダンジョンコアは覚醒して上位魔族を生み出してしまい、魔族の橋頭堡が次々と作り出されていったのである。

 そして魔王との邂逅時。

 ルーラーは確かに聞いた。


 魔族の侵攻は、天敵のいる世界には行わない。

 それを判断する基準が、ダンジョンコアの成長度合いで判断しているらしい。

 あれをどれだけ早く破壊できるか、どれだけ有効打を与えられるか。

 魔族にも基準は存在し、自分達が滅ぼせる世界を次々と蹂躙し喰らい続けていたという。


 それならば、ダンジョンコアが生まれた時点で対処して仕舞えば、侵攻は行われない可能性がある。

 魔族も、そして魔王も馬鹿ではない。

 ただ闇雲に世界侵攻をおこなっているのではなく、確実に勝てる、滅ぼせる世界しか相手にはしない。

 無闇矢鱈に喧嘩を売る脳筋魔族では、いつかは敗北し討伐される日が来る。

 それを回避するために、『必ず勝てる世界』を狙い続けていたという。


「貴方たちが、最後に聞き出した真実の一部ですね。それで、どうするのです? ダンジョンコアを破壊するには、並大抵の魔法では効果はありません。彼らは魔法に対するレジスト能力が高いのです」

「だからこそ、この世界では魔族は勝てない。どれ、細かく調べてから、ひばりに対応を任せるとしようか」


 魔法陣の中央で膝をついて、右手を地面に当てる。


「グランドサーチ……と、ふむふむ。これはまた厄介な場所に迷宮を作り上げたものじゃなぁ」

「もう見つけ出したのですか。それで、どこにダンジョンが生まれたのですか?」


 そうワーズに問いかけられて、ルーラーは店から地図を持ってくると、それを開いて指さす。


「生贄となる人が多い場所。東京都は新宿区に、ダンジョンゲートが発生したようじゃが」


──ドタドタドタドタ

 ワーズに説明をしている時。

 店からひびりが走ってきた。


「師匠、新宿のど真ん中に、いきなり大穴が開きました!!」

「ビンゴじゃな。ひばり」、それはダンジョンの入り口じゃよ」

「えええ? ダンジョンの入り口ということは、魔族は地球へ侵攻を開始したのですか?」

「うむ。奴らは狡猾じゃからなぁ。しかし、早めの対処で侵攻を阻止することはできる。明日、防衛省とやらに向かうから、手続きを頼むぞ」


 いつになく真剣な表情のルーラーに、ひばりも改めて引き締まった顔で頷いている。

「わかりました。では、詳しい報告は明日ということで、今は現時点での状況を説明してきます」


 その言葉にコクリと頷くルーラー。

 そしてひばりも店に戻ると、直属の上司のもとに連絡を開始した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──翌日、東京都市ヶ谷

 早朝一番で、ルーラーはひばりを伴って防衛省にやって来た。

 そしてすぐに手続きを行うと、用意された会議室に向かう。

 すでに報告を受けた幹部たちはルーラーの到着を待っていたらしく、ルーラーが部屋に入ってくるのを見て安堵の表情を浮かべている。


「ルーラーさん、報告は聞きました」

「うむ。わしがこの世界に来た時に話した懸念事項。それが現実となってしまったようじゃな」


 席についてから、ルーラーは魔族侵攻及びダンジョンのことについて説明を始める。

 中には魔物が生み出されており、ダンジョンコアに近寄らせないように警戒している。

 特に魔法に対しては高レベルの耐性を持っているため、魔物の討伐については物理攻撃が有効であることを説明。


「……ということなので、内部調査などは自衛隊に任せようと思う。わしの魔法が通用しないわけではないが、そこを相手に気取られてしまっては調子つかせるだけじゃからな」

「物理攻撃しか効果がないという実証は可能ですか?」

「調査にはわしも同行する。そこでデータを得てから本格的に調査を開始すれば良かろう……じゃが、ダンジョンの成長は早い。何もせず手をこまねいていたら、一ヶ月ほどで迷宮は完成するからな」


 そうなると、マナラインから吸収した魔力によって、ダンジョンの中で魔物が生成される。

 本来は、内部に生み出される財宝や魔物素材を求めてやってくる冒険者たちを糧にするのであるが、それがない場合。

 魔物が溢れかえり、外に一斉に飛び出していく。

 本能の赴くままに周辺の人間たちを襲い、食らい、犯し、嬲る。

 その説明を聞いて、幹部たちも身震いする。 

 財宝の説明を聞いて、目の色を変えるものもいたのだが、それよりも周辺の被害を考えると急ぎ討伐しなくてはならないだろう。


「ルーラーさん、その、適度に間引きつつ、内部に生み出される財宝や資源を回収するというのではダメなのか?」

「それで滅んだのが、ワシのいた世界じゃが。突然のスタンビートで新宿一帯が魔物の棲家となり、周辺県へと被害は増える。それどころか、活性化したダンジョンコアから魔族が生まれた時点で、世界中にダンジョンコアがばら撒かれるしやろうなぁ……」


 今はまだ一つ。

 これを破壊する力のある世界には、魔族は侵攻しない。

 

「もしもそうなったら。ほら、被害を食い止めるために、近隣諸国は遠慮なく日本にアレを打ち込んでくるじゃろ? 正義の名の下に」


 アレ。

 それが何を意味しているのか、自衛隊幹部なら誰もが理解できる。

 核兵器。

 それが日本の首都である東京に撃ち込まれる可能性も.視野に入れなくてはならない。


「急ぎ自衛隊の出撃要請を行います。首相官邸に連絡、防衛省長官にも緊急連絡を!!」


 事の重大さが理解できた自衛隊幹部たちは、すぐさま行動を開始する。

 そしてルーラーは、内閣府総理大臣に状況を説明するために首相官邸に同行することになった。

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