第3話 1984

入学式の日 午後3時 村上中学校 校門にて

ふうさきはようやく先生達の

質問攻めから解放された。

キツネ目の男 げん先輩も濡れ衣がはれたが、まだ残されていた どうやら普段からの態度も

加えられての説教だ。

風は、「咲 〝ひまわり〟でコーラでも飲むか?喉かわいちゃったしな」と咲に話しかけた。

咲は、「いいよ、でも もう中学生なんだし喫茶店でコーヒー奢っておごくれてもいいのにな!」と先を歩きながら振り向きざまに大人びた

セリフを吐いた。

風は、ドキッとした。

桜の満開や午後の木漏れ日も手伝って不覚にも

咲のことを〝可愛い〟と思ってしまった。

咲は「風が招いた〝種〟なんだから、      コーラ奢りねっ!」とすたすたと、踊るように

〝ひまわり〟へと先に向かってしまった。

風は、あえて小学生のノリで「待てよ〜」と

追いかけた。

風は、あの小学生のノリがなくなってしまうのが

寂しかった。

中学生 決して大人ではないが、大人への階段の

一歩目ではあった。

大人になる覚悟など微塵みじんもなく、

只、身体の変化 特に〝性〟に関して敏感な年頃でもあった。


〝ひまわり〟の入り口付近に着くと中からけたたましい〝ギター?〟の音が聴こえてきた。

風は中に入り 入口付近の冷蔵庫からコーラの瓶を

2本とり、レジの台に向かった。

レジの奥のスペースでしゅんが一心不乱に

咥えタバコで同じフレーズをギターで弾いていて

風に気づかない。

「あの〜‥ あっのっー!」と結果的に大声をだした。

俊はようやくきずき、

「グレイト!グレイト!いらっしゃい!おっこの前の少年だね?! コーラかい?2本で160円    まいど!」

と、風の用意した、160円を手早くレジに入れ

また奥へ入りすぐにギターを弾こうとした。

風は、「何、弾いてるんですか?エレキギターですよね!」そう話かけると、俊は

「興味あるかい?ヴァンヘイレンだよ!最近いいのがでてね!コピー 真似して弾いているんだよ!」

と言うと奥から、赤ちゃんの天使がジャケットになっている1984というアルバムを風に見せた。

風は、ガンダムや999といったアニメのアルバムは

持っていたが洋楽など聴いたことがなかった。 

咲は隅っこにおいやられた〝少年座〟のブロマイドにかじりついている。

俊は、店の天井の角についた〝BOSE〟のスピーカーを指し「掛けてやろうか?」と悪魔的な笑顔を

見せた。

風の返答も待たずに俊は、2曲目〝jump〟を掛けた。

店内に、シンセサイザーのイントロが流れる。

すぐさま、ボーカルのシャウトとドラムが入り

店内は、大音量で別世界になった。

咲も、ハッとし風と顔を見合わせた。

風は、今まで感じたことのない胸の鼓動と熱くなる感覚を、覚えた。

ギターソロになる。風は思わず「なんじこりゃ!」

と松田優作ばりに、声を発してしまった。

俊は腕組みをし、そうだろと言わんばかりに

頷いてうなずいる。

3曲目〝Panama〟が始まった

風は、「どんなもんじゃい!」と訳の分からないセリフを吐いた。

俊は大笑いしている。

〝Panama〟が終わった時点でレコード針を上げた。

風は「凄い!ヴァンヘイレンっていうんですか?」

と俊にかじりついた。

俊は一通りヴァンヘイレンの説明をした。

とりわけ、ギターのエディヴァンヘイレンがギターの革命児であることを。

俊は、「今度ダビングしてやるから、カセットテープ持ってきな」と伝えた。

風は衝動にかられ、是非お願いしますと    〝気おつけ〟して頭をさげた。

咲は、乗り遅れまいと「あたしも〜」とねだった。

俊は、「コーラ温くぬるなってないか?交換していいぞ」と2人が飲み忘れていたことを指摘し

優しさを見せた。

2人は並んで瓶を交換し、栓を開けた

プハーっと2人は揃って息を吐いた。

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