第37話 パンケーキ

「まあまあ、とりあえずせっかく来たんだから座って。お茶と、パンケーキを焼くって言うから食べてきなよ。」

叔母さんのその一言でパンケーキを焼こうとしていたことを思い出した。

慌てて、カウンターの向こうに戻る。せっかく泡立てた卵白が萎んでしまうところだった。


叔母さんが「甘いの大好きだろ?」と言いながら二人をテーブル席に案内していた。

昔の知り合いなんだろうけど、一体どういう関係なんだろう。


とりあえず、ずっと待たせていたクローディアに最初に焼けたパンケーキの皿を出す。

ふわふわのパンケーキに蜂蜜とクローディアが差し入れてくれた野イチゴを使ったジャムをたっぷり、更に他のフルーツも散らして見た目もカラフルにしてみた。


「はい、ディア。お待たせ。」

それを見たクローディアの大きな金色の目がキラキラ光る。パンケーキにかぶりつくと無言で食べだした。どうやら、気に入ったみたいだ。


「お前、本当に凄いな!私は今最高に幸せだ。」

クローディアの大袈裟な表現に笑う。

「確かにパンケーキってテンション上がるよね。」

僕もそう言ってもらえると幸せだけど。


どんどん焼いては皿に盛りつけて運んでいく。


パンケーキの皿を見たミリセントは大きなグリーンの目を見開いて喜び、一口食べては驚いた顔をした。

「凄い!こんなに美味しい物食べたのは初めて!」

「気に入ってもらえて良かったです。」

「さすが、イルゼの息子!なんでも、勇者の剣も持っているそうじゃないか!」


それについては、さすがと言われても何と言っていいのか分からないので言葉を濁す。


「リコも凄い気に入っている。こいつがこんなにがっつくのは珍しい!」

そうなのか。僕にはその違いが分からない。確かにもくもくと食べてくれてはいるけど。いったい普段はどんな感じなのだろうか。


「ミリーは甘いものが大好きだからな。甘いものばかり食べて、姉さんにもよく心配されていたよな...。」


珍しく叔母さんが昔の話をしている。よほど昔馴染みに合って懐かしくなったのかもしれない。


母さんの若い頃の話を聞きたくもあったけど、魔法使いが3人もいると食べる量が半端ではない。その後僕は黙々とパンケーキを焼き続けた。きっと僕が「もう夕食の支度をしなくてはいけないから終了です。」と言わなかったらまだ食べ続けていたに違いない。


その間、叔母さんと魔法使いの二人はテーブル席で長いこと真剣な顔をして何かを話していた。

全くパンケーキには似合わない表情で。


「こいつら、しばらく宿に泊まるっていうから案内してくるわ。」

叔母さんはそう言うと立ち上がった。


「じゃあ、また来るから!」

そう僕に笑顔で言うとミリセントはリコと一緒に叔母さんの後に着いて出ていった。



「同じ魔法使いでもルーやマーリーンさんとは違ってあんまり親しくないの?あの二人は。」

クローディアと二人きりになったので聞いてみる。クローディアとミリセント達は全く口を聞かなかったからだ。

「いや?」

あれ?そうなのか。

「別に長い付き合いだから今更なだけだ。まあ、ミリセントの得意な魔法は炎系の魔法なんだ。私がそれを不得手なことを馬鹿にしてくるからあまり話さないだけだ。リコはミリセント以外とは誰でもあんな感じで話さないしな。別に親しくないわけではない。」

クローディアの説明からは結局二人と仲が良いのか悪いか良く分からなかった。



その日からミリセントとリコは夕飯を食べに来るようになった。


「しばらく、この集落に滞在するから頼む。」そう言って二人は宿から夕食を食べにやってきた。

「それは良いけど。カウンター席でもいいですか?」


テーブル席はだいたい常連さんで埋まってしまうし、カウンター席はクローディアがいるからみんな遠慮して座らない。椅子の数を増やしたので、一応5人までなら座れるようになっているのだけれど。


「もちろん。カウンター席が良いに決まっている。お前がベテルギウスの剣を使っているところをまじかで見ることができるじゃないか!」

そう言ってミリセントは喜んでカウンター席に腰かけると、僕が料理をしているところをニコニコしながら身を乗り出して観察しだした。ただし、クローディアと反対側の端の席を選んだのは気のせいだろうか。リコさんがミリセントの隣、クローディアとの間に座った。


うん、この席の配置ならぎりクローディアも許してくれるだろう。

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