第24話 ジンジャーミルクティ

昼間に声を掛けておいたジェイとシュミットさんが夕方になって顔を出す。

入ってくるなりかなり目立つ3人が居るのを見てギョッとするとカウンターから離れたところに置いてあるテーブル席にそっと腰かける。シュミットさんがカレー5回分と引き換えに作ってくれたものだ。


「え~、あの白いローブ姿って王都の魔法使いじゃないのか?」

マーリーンさんの白いローブ姿はどうやら魔法使い特有の衣装らしく、ジェイがこそこそと聞いて来る。

「はい、そうらしいです。銀のマーリーンさんと青のルーさんだそうです。」


「ほえ~、噂には聞いたことあるけど、俺初めて見たかも。魔法使いがみんな美形だって本当なんだな。あの黒髪の美人も魔法使い?めっちゃ色っぽいけど。」

「...あれ、クローディアです。」


「ええっ!まじ?」

あ、なんかシュミットさんがむせている。


「はい、なんかさっきからあの姿なんです。」


「へ~、まあ美少女だとは思っていたけど大きくなるとあんな感じなんだ...。」

ジェイの鼻の下が伸びたのは気のせいじゃないと思う。心なしかシュミットさんの顔も赤い。

そうか美少女だとは思っていたのか。まあ、当たり前か。当たり前だと思うのだけど、胸がむかむかして、思わず皿を置いた時に大きな音を立ててしまう。

「お?なんだよ。怒ってる?」

「いいえ、まさか。」なんで僕が怒らなくてはいけないのだ。


「だいたいお前たちどういった知り合い?なんで、クローディアっていつもここで飯食っているの?」

「えっと、叔母さんとクローディアが知り合いらしくて。僕がクローディアのご飯を作るかわりにクローディアが持っているこの家を好きに使っていい約束になっていて...。」

まあ、嘘はついていない。


「へ~、そうなんだ。確かにお前の料理上手いもんなぁ。にしても、いくら恐れられている魔女だってあんなに美人で色気あったら怖いもの知らずの男たちが放っておかないだろうなぁ。このマヨネーズって上手いな。俺、何にでもつけて食べれそう。」

うんうんとジェイが訳知り顔で頷いている。


「だいたい、なんでいっつもあの美女の格好じゃないのか、うぐっ!」

まだ、しゃべり続けるジェイの口にシュミットさんが唐揚げを捻じ込んだ。


「けほけほ...お前何するんだ!いくらうまい唐揚げだって無理やり捻じ込まれたらむせるだろ...。けほけほ。」

シュミットさんに文句を言っているジェイは放っておいて厨房に戻った。

次にジェイにカレーを作る時は激辛にしてあげよう。


唐揚げはみんなに大好評でぜんぶ綺麗に平らげてくれた。キャベツの千切りと一緒に出したマヨネーズも舐めるように食べてくれて綺麗になくなった。

マヨネーズは意外と手軽にできるから、これからもちょくちょく作ろう。


マーリーンさんは調味料に興味があるらしく、淡々とお酒を飲みながら僕に色々と聞いてきた。

「この唐揚げは、何で味付けているのかい?」

「今回は酒と醤油とにんにくですね。」

酒とにんにくはこの世界のものを使っていたけど醤油はマンションから持ってきていた。

「醤油?」

「はい、こういった調味料です。」

小皿に少しだけ入れて差し出すとマーリーンさんはぺろりと舐めてみる。

「ふ~ん。これはこの世界では手に入らないだろうね。」

「そうですね。自分で作れると良いんですけど。原料の豆は手に入りますが、発酵させるための麹は手に入れるのが難しそうですね。1年くらい掛かるそうですし。味噌は比較的簡単そうなので、作ってみようかと思っているんですけど。」

「味噌?」

「はい。そのスープに使っている調味料です。」

マーリーンさんはハイペースにお酒を飲みながら何事か考えていた。

「うん、うん、発酵させて作るのか。なるほど、これは面白そうだ。」

「面白いか?」

クローディアとルーがマーリーンさんを呆れた目で見ている。それをまったく気にしないでマーリーンさんは何か考え込んでいるようだった。


「そうだね。ちょっと試してみるかな。」


結局、ジェイとシュミットさんが帰った後も魔法使い達は飲み続け、ルーが潰れたところでお開きになった。

「ご馳走様。色々と興味深い話をありがとう。また近いうちに寄らせてもらうよ。」

そう言うと、マーリーンさんはぐっすり眠るルーを軽々と脇に抱えて王都の方へと帰って行った。


「まさか、マーリーンさん歩いて帰るのかな、王都まで。」

そのうしろ姿を見送りながらクローディアに尋ねる。

「さあ?酔いがさめたら途中から魔法で飛ぶんじゃないのか?それとも、街道沿いに誰か迎えの兵士をずっと待たせているのかもな。あいつ変態だから。」

「変態...?」

「他人を虐めるのが大好きなんだ。特に権力者とか、屈強な兵士とか。」

「...。ああ、なるほど。」





クローディアが帰る前にミルクティを入れて出す。バルトさんのところから買った茶葉を使ったジンジャーミルクティだ。

「ねえ、ディア。いつもの姿の方が良くない?」

クローディアはまだ大人の恰好をしていた。

「そうか?あんまりか?」

「う~ん、それはそれですごくきれいだと思うけど...。あんまり、色っぽいと心配だし。」

なにが心配なんだと心の中で自分に突っ込みを入れる。

「そうか?心配か?」

「うん。心配。」

「そうか...。」

自分でも良く分からない僕の言い分をクローディアが理解したとは思えないけど、彼女はシュルっと音をたてていつもの姿にも戻った。

「その、もちろん僕がもっと大人になったら今くらいのディアも素敵だと思うんだけど。いきなりだと、ちょっとびっくりするし...。」

「そうか、いきなりだとビックリするか。」

「うん。もう少しゆっくりでもいいかな。」

「そうか、ゆっくりだな。」


僕は大きくなった自分とその横に並んでいる大人のクローディアを想像した。

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