第17話 お届け物
その日、クローディアが食事に来ていた。
まだ調理道具が揃わなかったので、一旦マンションに戻りカレーを作ってきておいた。
クローディアが食べたがっていたのもあるけど、カレーなら鍋一つで持ってこれるからだ。
カレーが入った鍋がカネルによってとろ火で温め直され、部屋中にいい香りが漂っていた。
ちなみに今回はチキンカレー。市販のカレー粉を使うときもあるけど、最近はインド風カレーに凝っていて自分でスパイスを入れて作っている。クミンにターメリック、ガラムマサラにコリアンダーなどのスパイスを安く手に入れるため、休みの日にインドやネパールの食材が売っている店に買いに行ったりもする。
王都に向う商人達が通るこの街道は、比較的色々な物が手に入りやすいそうだ。どんなスパイスが手に入るのかバルトさんに今度聞いておこう。
付け合わせはライスやナンではなくチャパティ。ナンより作るのも簡単で、小麦粉をこねて少し寝かせた後、丸く伸ばして焼くだけ。火にかけて少し経つとぷくっと膨れてくる。カレーをつけて食べると素朴で美味しい。
クローディアはすでにカウンター席に腰かけて、今か今かと待ち構えている。可愛い。
「あ!」僕はチャパティを焼くためのフライパンが無いことに気が付いた。もう一度マンションに取りに戻ろうと思っていたところに来客があった。
「こんちは~。頼まれていた品物です。」
そう言って通りに面している大きな窓を叩くのは鍛冶屋の息子さんの方のジェイ・ハリマンさんだった。
「ありがとうございます、ハリマンさん。」
慌てて扉を開けに入口まで行く。というのも、窓越しに見えた荷車に乗った品物がかなりの量だったからだ。
「よお、ありがとう。俺の事はジェイでいいよ。結構量があるけどどこに運ぶ?」
「えっと、じゃあとりあえず棚に並べてしまうのでこちらから渡してもらえますか?」
置く場所と言ってもカウンターぐらいしかない。壁にある作り付けの棚はガラガラなので一度そちらに並べてしまおう。
「わかった。じゃあ、カウンター越しに渡していくからいいか?」
「はい、お願いします!」
申し訳ないと思ったが、運ぶのはジェイさんに任せて僕はカウンターの向こうに戻った。
彼は、クローディアが座っているのを見ると一瞬ビクッとしたが、何も言わずに黙々と鍋、やかん、お玉などの調理器具を運んでは僕に渡してくれる。
「これで最後だ。焼き入れもしておいたからすぐ使えるぜ。」
そういって最後にフライパンを渡してくれた。
「ありがとうございます。」
やったぁ、さっそく新しいフライパンを使うことができる。
「なあ、その鍋北方の鍋か?変わった色しているな。なんかすげーいい匂いするけど料理中だったんか?」
「あ、ああそうです。北方の...。」
まずい、家から持ってきたカレーが入っていた深鍋はテフロン加工のブルーの鍋だった。
「カレー作っているんです。良かったら味見していきますか?」
テフロン加工の鍋はこの世界にはないだろう!誤魔化すために慌てて、料理の話に持っていく。それにしてもこの北方の~というフレーズを使うと皆が納得してくれるので大助かりだ。
「カレー?」
「そ、そうです。ジェイさんは辛いのは大丈夫ですか?」
この世界に辛い料理はあるのか分からなかったので、実際は今回のカレーはそれほど辛くはしていなかったけど。
「ジェイでいいよ。辛い料理はたぶん大丈夫だと思うけど...。」
ちらりとクローディアを見て気にしているようなので、一応、クローディアにも確認してみるが
「別にかまわない」というそっけない返事が返ってきた。
クローディアは食べ物に対する執着は凄いけど、別に独り占めしたいとは言わないらしい。
初めて会った時、獲った魚を二人で食べた時もしっかり僕に分けてくれたし。
その時、開けっ放しの扉からのそっと熊が、いや食器類をお願いしていたシュミットさんが入ってきた。
「頼まれていたもの、届けに来た。」
初めてシュミットさんの声を聴いた。見た目に合った、低めの優しい声だった。
もう一度、運んでもらっては棚に並べるを繰り返すこととなった。
今度はジェイも手伝ってくれる。終わったところでシュミットさんも鼻をくんくんさせて不思議そうな顔をする。それはそうだろうスパイスの香りが家中に充満しているのだから。
「あの、良かったら、お二人ともちょっと味見していきませんか?」
もう一度誘ってみた。
「いいのか?」ジェイがシュミットさんと顔を見合わせて聞いてきた。
「はい、ぜひ良かったら。直ぐにできるので。」
新しいフライパンもすぐ使えるようだし、あとはチャパティを焼くだけだ。
「ああっ、でも座るところがない。」
カウンターには椅子が二つあるだけなのだ。しかも、ひとつはクローディアが使っている。
「ああ、じゃあ、バルトのところに行って椅子を借りて来るよ。ヒルダもあっちに居るんだろう?彼女に支払金額も伝えたいし。」
ジェイがそうに言ってくれる。
「はい、居ると思いますけど。」
ジェイとシュミットさんの二人はすぐに戻るからと言って向かい側の宿に入って行った。
テーブルと椅子くらいは無いと困るかな。後で、シュミットさんに追加でお願いしよう。
「腹減った...。」クローディアの不満そうな声がカウンター越しにする。
「ああ、ごめん、待たせて。直ぐ出すから。」
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