魔法図鑑

花壁

プロローグ

『係官は直ちに所定の位置に同行されたし。繰り返す』

「一度で把握しろ」

「どっかの馬鹿が結界をすり抜けやがった」

「レベル4でしょ。なんで逃すのよ」

「うるせえ。捕まえれば文句ないだろう」

「競争だ」

「競争!」

「ふざけるなら他所でやれ」

「うわぁ、酷い」

「酷い酷い」

「僕らの方が強いからって」

「強いからって」

「不知火怒ってる」

「怒ってる怒ってる」

「都上!」

「わかってる」

 都上と呼ばれた男が魔獣の脚を切り付けゴツゴツとした背中から不知火が刀の一撃が魔獣の体を切り裂いたことで咆哮をあげ体が傾き派手に倒れたことで分煙が上がっていた。

「きゃーしーちゃん可愛い!」

「可愛い!」

「都上、あの双子なんとかしろ」

「そう言っても俺たちの中で一番強いよあの人」

『現在、係官が対処しています。指定の場所への避難を──』

 この街には魔素と言われる鉱脈が流れている。

 地中の断層がせめぎ合い鉱脈が地上へと降り注ぐことから魔法が発動し魔獣を創り上げていた。

 その都度彼らを回収をするのが国防魔法管理隊魔法防衛係官の仕事だ。

 だから彼らが集めてきた魔法は管理官が責任を持って管理することになっている。

「私たちの祖先はこうして魔法と共存してきました。魔法が分岐したのは──」

 ホログラムを中心に覗き込む観光客を引き連れる魔法職員の列から一歩引いた男がわきに入る。

「確かこのあたりに。あったあった」

 男の指先が本の背表紙に触れた感触を合図に青白い炎が吹き出して高々と辺り一帯を包み込み不安と驚きの声が上がる。

「ご安心ください。皆様に害はありません。国防魔法図書の本のひとつひとつには防御魔法がかけられています。おそらく魔法が発動したのでしょう」

 人の背丈の数倍はある本棚の上を伸びた蔓に巻き上げられた男がなにか喚いていた。

「我が図書館ではこのように魔法植物のローディアが捕まえてくれます。古代文献には魔素を枯らすと記述がありますが彼女の主食は悪い魔素ですのでご安心ください」

 蔓の間から花びらを重ねた彼女が指示を乞うように顔を見せた。

「ローディア。彼の拘束と魔素の除去をお願いします。では皆様方はこちらへ」

 まったく。面倒なことをしてくれたものだ。

 国防魔法図書には様々な魔法が納められているからかこうした事案も少なくはない。

 現に観光客の中には不審な反応を見せた人物も確認できた。

 要注意人物に設定しておくか。

「このように、泥棒を捕まえるのも私たち職員の仕事です。では続いては──」

 声を掻き消しほどの硝子が派手に音を立てて飛び散り室内に翳りを落とした。

 反応する間も無く背中に衝撃が走った反動で呼吸が詰まり反射的に体が酸素を取り込もうと咳き込み酷く咽せた。

 そのままの体勢で辺りを確認すれば分煙の向こうでは青白い炎が辺り一面を覆い尽くしすべてを覆っただいぶ上にうっすらと赤い鱗のようなものが見えたような気がしてざわりと心臓が跳ねる。

 そうでないことを祈り倒れた本棚な影へと身を潜める。

 来館客はすでに避難防衛魔法が発令されたか。

 服に付いた埃を払い近くの本を拾い上げ騒音の中心地に投げつけた。

「いいかげんにしろよ。こっちはやりたくもない仕事を引き受けているんだ」

 魔獣が顔を出して口から吹き出した炎の中を歩き奴の鼻っ柱に掌を突き出して薙ぎ倒し、本のページを押し付けると全身が粒子となり本へと吸い寄せられ本はぱたりと閉じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る