第2話 旧校舎理科準備室の悪い噂
11月7日 月曜日 17時20分
私立祐久高等学校 旧校舎 理科準備室
#Voice :
1週間前、わたしたちは旧校舎の理科準備室で、キュービットさんをした。
発案は、木瀬さんと籠川さん。
わたしは、巻き込まれたの。
「ねえ、萩谷ぁ、あんた、タブレット持ってるんでしょ? ちょっと良いことするから、付き合いなよ」
唐突に、木瀬さんが、わたしの机を蹴って言ったの。
「えっ?」
思わず反射的に身構えた。身が竦んだ、という方が正確だけど。
わたしは日常的に虐められていたから、木瀬さんからこんなことされるの、悪い意味で慣れっこになっていた。だけど……
「ね、ちょこっとだけ、いいでしょ。私たち、お友達でしょ」
今度は籠川さん。木瀬さんほどじゃないけど、わたし、籠川さんも苦手。何というか、他人を利用するのに長けてるタイプだから。
わたし、本当に気が弱いと思う。
結局、下校時間を過ぎて
普段なら、いくら何でも下校時間後の旧校舎なんていう気味の悪い場所には、行かない。木瀬さんも、イジメるとはいっても、手加減はわきまえていると思っていた。
だけど、だけど、その日の木瀬さんは、様子が何か違ったの。
そう、何か、悪いものに憑りつかれて、悪い衝動に突き動かされているみたいな、そんな気味の悪さがしたの。
◇ ◇
誰から聞き出したのか、木瀬さんは、旧校舎に掛けられたダイヤル錠の暗証番号を知っていた。
「こんな時代に木造校舎なんて、良く残っているよね」
「昭和時代の校舎だって聞いたよ。何度も撤去工事が計画されたらしいんだけど……」
籠川さんが、悪戯っぽくわたしを見た。
「工事を始めると、必ず、事故が起きて、中止になった。だから、いまでもこんな建物が残っているんだってさ」
「いいねぇ、心霊スポットっていうやつ」
籠川さんと木瀬さんが笑う。
冗談じゃないってば。わたしは恐怖で震えあがった。
昼間なら気にならないけど、下校時間を過ぎた夕闇の中では身が竦むほどに怖い。
祐久高校旧校舎は、知る人ぞ知る心霊スポットなの。インターネットのブログで紹介されていたり、ツイッターに写真がアップされていたりするの。
廃墟マニアの中でも、高難易度のスポットと言われているらしい。
5年前には、休日に不法侵入した廃墟マニアの人が、事故死する事件も起きていた。だから、学校は警備保障会社と契約して、この旧校舎にも監視カメラやセンサーを付けているの。
難易度が高いとされる理由は、廃墟でありながら、機械警備が敷かれていること。
私立高校の敷地内にあるのだから、現在も一部の授業では使用されている現役の校舎だから、そして、死亡事故まで起きているのだから……
え? 現在も授業で使用されているのなら、廃墟校舎じゃないでしょって? ううん。理屈はそうなんだけど―― この校舎の有様を見たら、廃墟以外の言葉はあり得ないと思う。
昭和12年竣工。
昭和19年、太平洋戦争末期には学校が軍隊に接収されて、高射砲陣地になったとか。爆撃を受けたとか。
でも、市街地が空襲で火の海になったときも、この校舎だけは無事だった。
野戦病院になって、数えきれないほどの死体が校舎を埋め尽くしていたとか。
どこまで本当で、どれが盛り過ぎの噂話なのか、いまとなっては判別も難しいけど、心霊スポットであることは、間違いない。
木瀬さんと籠川さんに引っ張り込まれたのは、ネットの噂話では死体置き場だったことにされている理科準備室。噂によると、ここには、本物の死体から作られた人体模型が安置されているというのだけど? さすがにそれはないよね?
「萩谷、あんたのタブレット出して、このアプリをインストールして」
木瀬さんが、スマホを突き出した。
見ると、知らない誰かのブログ。
『キュービットさんは、あなたの願いを叶えます。
このリンクをクリックして、アプリをインストールしましょう』
嫌だよぉ。
これ、絶対、セキュリティに問題があるアプリだよ。
「これ、私たちのスマホじゃインストールできなかったの。それに、儀式では画面が広くないと困るし」
籠川さんが笑う。
仕方なくURLを入力して、問題のホームページを表示した。
リンクをクリックして、アプリのインストールファイルをダウンロードした。
キュービットさんと逢えるアプリは、対応OSが、古いバージョンのwindowsだった。iOSやandroidのスマホにはインストールできない訳だ。というか、アプリストア経由じゃないと、普通の手順では、スマホには インストールできないものね。
「あの、OSのバージョンが古いアプリだから、これ動かないかも……」
小さな声で、もう止めようと、遠回しに抗議した。
木瀬さんが無言で机を蹴った。
仕方なくインストールした。
ダブルクリックで実行。
メモリー不足というエラーで弾かれた。
「ね、エラーが出ちゃうでしょ。諦めた方が……」
ガタン
木瀬さんが椅子を蹴っ飛ばした。
わたしの隣の誰も座っていなかった椅子が、派手に飛んで床を転がる。
「萩谷さんは、パソコン詳しいんでしょ。何とかできるんでしょ」
籠川さんが笑う。
意地悪な笑い声だと思う。
仕方ないから、プロパティ画面から、互換モードで実行を設定した。
それでも動かなかった。
本当はやりたくなかったんだけど、管理者として実行にチェックを入れた。ここまでやれば、今度は実行できるはず。
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