第30話 結婚するという事
その後も宝石商やら何やらがやってきて、婚約披露のパーティーだけでなく、普段使いのドレスや宝石などまで増えて行って私は面食らった。まぁ、王子の婚約者としてそれなりの物は持っていたけれど、それも婚約破棄されたらメイベルに持って行かれてしまって、私には殆ど何もないので有難かったのだけれど。
でも、辺境伯領は赤字続きだからあまり贅沢はしない方がいいと思い、ラリー様にもそうお伝えしたところ、王家から私の支度金が送られてきたから心配ないと言われてしまった。
支度金なんて聞いていなかったから驚いたけど、ラリー様が言うには、セネット家に渡すと私に使わない可能性があるから、王妃様は直接ラリー様にお渡しするように手配されたのだと仰った。なるほど、確かにそういう事なら納得だ。両親の事だから王家からの下賜金もメイベルに使ってしまいそうだもの。それでなくてもメイベルがエリオット様の婚約者になって浮かれているだろうから。
更に私の部屋も改装が終わり、ラリー様の隣の正室の部屋に移動になった。まだ婚約前だからと一部で反対する者もいたそうだけど、結婚は王命で覆される事はないし、互いを知るためにも部屋は近い方がいいだろうと、ラリー様もギルおじ様も仰ったためそうなったのだ。まぁ、反対したのが誰かは凡そ見当は付くけど。
「まぁ、素敵なお部屋ですわ」
「そう?気に入ってくれたならよかった」
「勿論です!私こそ、色々我儘を聞き入れて下さってありがとうございます」
正式に私の部屋になった部屋は、明るくて日当たりも風通しもいい部屋だった。内装は私の好みを取り入れて下さって、壁紙は若草色を基調とした明るいながらも落ち着いた雰囲気にして頂いた。調度などは拘りもなかったので、歴代の正室様がお使いになった物を直して使う事にした。調度類は古さはあるけどかなり立派な物だし、壁紙の色にも合って品位が損なわれる事もなかった。
「ああ、暫くは私の部屋との間にあるドアの鍵はかけておくから」
「?」
ラリー様にそう言われたが、私は何の事?と直ぐにはわからなかった。ユーニスが小声で、夫婦の寝室の事ですと言われて、ああ、と合点がいった。そうだったわ、夫婦になれば寝室は一緒なんだ…と、ここでようやく私は結婚を意識する事になった。とは言え、ラリー様には特に何も思わないから困る…いや、大変麗しくて素敵な方だとは思うのだけれど…
ラリー様達が去った後、私はユーニスだけ側に置いてお茶を飲んだ。引っ越ししたばかりだからまだ部屋に馴染まないけれど、前の部屋よりも明るくて開放感があって気持ちいい。でも、私の心は沈んでいた。
「ふぅ…やっぱりラリー様と結婚しなきゃいけないのよね…」
そう、婚約破棄からここまで、予想外の事の連続ですっかり結婚するんだって事を忘れていたけれど…ううん、違うわね、その事はあまり深く考えないようにしていた。
最初は謀殺されるかも…って不安があったから、とにかく生き延びる事ばかり考えていたし、こちらに着いた後はギルおじ様に再会してしまって、おじ様の事ばかり考えていた。正直言って、私の中ではラリー様の存在はかなり薄いのだ。
「お嬢様ったら…」
「だって…おじ様がいらっしゃったんですもの」
「ギルバート様ですか…お嬢様、年上趣味と言うには渋過ぎですよ…」
「だって…初恋ですし、私の中のおじ様は十年前のままで止まっているんだもの…」
そう、私の中のおじ様は、未だに幼かった頃のイメージが強いのだ。あの頃から髪は短くされていたし、パッと見あまり変わりがないように見えるのだ。まぁ、髪も髭も白くなり、皺も増えたけれど、それでもエリオット様なんかよりも姿勢はいいし力強さは比較にならない。
「そうは言っても、結婚されるのはローレンス様ですわ。ギルバート様と必要以上に仲良くされては、余計な疑念を生むかもしれません。言動にはご注意ください」
「…わかっているわ」
確かにユーニスの言う通りなのだけれど、心とは自分の思い通りにはならないものだと私は頭を抱えた。まぁ、ラリー様と話す機会があまりないのもあるけれど、このままじゃ変な噂を立てられる可能性があるのは否定しようもない。
「でしたら、もっとローレンス様との交流を持たれてはいかがですか?」
「…そうよね、ご相談してみるわ」
おじ様に変な噂を立てるのも本意ではないし、ラリー様と不仲だとみられれば王家や領民からも余計な詮索を受ける事になる。そうなれば私の立場も微妙になるだけに、ユーニスの提案を私は退ける理由を持たなかった。
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