第8話 黒月曜
「驚きましたか?」
スマホを見つめながら固まっていた俺に、少女がいたずらっぽく笑いかける。
「うん。ちょっと信じられない。まだ審査が終わっていないのに、こんなに株価が上がるなんて……」
「お気持ちはわかりますが、これが現実です。買いたい人が多ければ株価は上がるんですよ」
「でも審査をパスできなかったら、相当下がるよね」
思惑だけで3倍になった株だ。失敗したらとんでもないことになるのは素人の俺でもわかる。
「そうですね。失敗すれば大きく下落するでしょう。けれど、すべての審査をクリアして販売できれば利益は莫大です。株価はさらに10倍になる可能性もあります」
「それにしたって、ハイリスクハイリターンだよ」
俺がかぶりを振ると、彼女はこちらをのぞき込んで笑みをうかべた。
「ドカーンと上がる株を占ってほしいと言ったのは、牛上さんですよね?」
一本取られた。きっかけは俺だ。
「ごめん。そのとおりだ。結局、ドカーンと上がる可能性があるってことは、ドカーンと下がる可能性もあるってことか」
「そのとおりです。リスクとリターンは常に表裏一体ですから」
なるほど。勉強になるな。
「ところで牛上さん、お時間は大丈夫ですか?」
腕時計に目をやると、思った以上に終電が近づいていた。
「そろそろ駅に向かわないとマズいかな。ええっと、占いの料金は……」
嫌な予感がした。歌舞斗町といえば、ぼったくり。とんでもない料金を請求されたらどうしよう。断れば怖いお兄さんたちが登場して……。
「1200円になります。もしかして、ぼったくられると思いました?」
また心を見透かされた。
「可能性がなくはないかなと……。でも本当に1200円でいいの?」
占い料金の相場はわからないけど、この値段はかなり安い気がした。
「はい。1200円でけっこうです」
「いろいろありがとう。勉強になったし楽しかったよ」
代金を支払った俺は、少女に頭を下げる。
「こちらこそありがとうございました。それと、よろしかったらこれを……」
差しだされたのは一枚の名刺だった。真っ黒な名刺には、漢字三文字とメールアドレスが白字で記されている。
「ええっと、
「はい。
黒月曜。それが少女の名前だった。
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