第3話 将来への不安
居酒屋で2時間ほど飲んた俺は、会計を済ませて歌舞斗町の駅に向かっていた。
足元が少しおぼつかない。忘年会のストレス解消とはいえ少し飲みすぎた。終電までは余裕があるから、落ち着いてゆっくり歩こう。
大通りにさしかかると信号は赤だった。立ち止まった瞬間、栗栖さんと金髪男の言葉が頭の中で自動再生される。
「これからは投資でリスクを取らなきゃいけない時代なんだ!」
「これからは株とかFXとかで稼ぐからよ!」
「投資か……」
なんとなく呟くと、冷たい北風が頬を撫でていった。
もともと上昇志向や金銭的欲求はそれほど持たない俺だったが、今の生活と自分の将来には大きな不安を抱いていた。
なんとか生活はできてるが、仕事は激務で給料は安い。会社自体も規模が大きいとは言えず、有名企業ですら倒産するこの不安定な時代に、これからも会社が存続するという保証はない。
自分自身もそうだ。今の仕事はなんとかこなせているが、倒産やリストラで会社の外に放り出されたとき、すぐに転職先を見つけられる自信はない。俺はそんな優秀な人材じゃないし大したスキルもない。
だから、なにかしなければと思っていた。投資もその候補のひとつだ。ただ、俺には何のノウハウもない。素人がなんとなく手を出して勝てるほど、投資の世界は甘くないはずだ。
将来のためにお金を増やそうとリスクを取って、失敗してお金を減らしたら本末転倒じゃないか。そう考えると、足がすくんでしまう。
けれど、今日は少し違った。酔って気が大きくなっているせいか、ふと小さな疑問が浮かび上がる。
投資って、そんなに難しいもんなのか?
職場での栗栖さんは、お世辞にも優秀とは言えない。仕事は雑でミスが多く、客先からの評判も悪い。酒によるトラブルを起こしたのも一度や二度じゃなかった。そんな人が、投資で稼いで高級腕時計をゲットしている。
さっき交差点で目にした白スーツの金髪男も同じだ。ノリと勢いはすごかったが知的な感じはしない。けれど、派手な格好で飲み歩いてるってことは投資でかなり稼いでいるんだろう。
もしかしたら投資って、俺にもできるんじゃないか?
小さな希望がよぎったけれど、現実的な問題がある。いったいなにから始めればいいのか、わからないんだよなあ……。
信号が青に変わったので、投資についてあれこれ考えながら駅へと歩き出す。
その先で俺の視線を釘付けにしたのは、まるでおとぎ話に登場する魔女のように、黒いフードつきのマントを身にまとった一人の少女だった。
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