05 学園対抗戦。
パーティ名は保留のまま、仮冒険者活動を続けていた。
時には授業をサボったりもしたが、成績の方に支障が出ない程度だ。
だいたい、授業で学ぶことは、もうあまりなかったりする。
六年生になった年になると、エルフ族であり担任教師のアスカちゃんに呼び出された。
何故か、ちゃん付け呼びを強要する美人なエルフなのだ。
「王都のダンジョンに行けるのですか!?」
内容は、王都のダンジョンに入らないかというものだったのだ。
「実は……王都の貴族の学園が、あなた達【名無しのパーティー】の噂を聞いてね」
名無しのパーティー!? なんかパーティー名っぽいのつけられてない!?
ギョッとした皆で名無しについてツッコミたかったが、グッと堪えてアスカちゃんの話を聞くことにした。
「ニーヴェア学園始まって以来の最速最強パーティーなら、こちらのダンジョンで競わせないかーって、あちらから提案があってね」
困ったわ、と頬に右手を当てながら、ため息をつくアスカちゃん。
「ほら、ニーヴェア学園は実力至上主義だし、学園長もその主義にプライドを持っているから……勝手に引き受けちゃったのよ。あっ、もちろん、あなた達が嫌だって言えば、ちゃんと断るけれど、どうかしら?」
学園長は、威厳ある長老魔法使いのような姿をした老人だ。
学園に誇りを持っているし、そして私達が勝つことを期待しているのだろう。
そこで声を伸ばしたのは、ディヴェだ。
「えー? こっち不利じゃんー。あっちは王都のダンジョンなんて慣れてるんでしょう?」
「いいえ。あちらの学園は、ダンジョンに入ることはないのよ。ほら、えっと、貴族だから……」
貴族だから……で納得してしまう。
実力至上主義の学園は生徒をダンジョンに放り込むけれど、貴族の生徒が通う学園はそんなことをしないのだろう。
「じゃあ、ダンジョンに入ったことのあるオレ達の方が有利じゃん」
ストがそう言うと、ヴィクトが机の上にダンッと手を置いた。
「不利とか有利とか関係ねぇな! 王都のダンジョンに入る機会だ、行くに決まってんだろ!?」
ヴィクトの言う通りだ。
王都のダンジョンに入れるなら、行く!!
「あら。意外ね。ヴィクト君なら、絶対に勝つ!! とか言うと思ったのに」
アスカちゃん、今ヴィクトの低い声を真似ようとしたのかしら……。
「はぁ? 貴族のおぼっちゃまどもに燃やす対抗心なんてこれっぽっちもねーわ!!」
どーんっと言い放つヴィクトだった。
「バカヴィクトに賛成するのは癪だけれど、確かにぬるま湯育ちの貴族の生徒に負ける気がしないわ」
ミミカも、ヴィクトに同意見らしい。
それには、アスカちゃんは慌てて両手を振った。
「勝負を仕掛けてきたあちらだって、一番優秀な生徒を出すはずよ?」
「おい、せんせぇ、コラ。オレ達をなめてんのか? ああん!?」
ヴィクトの後ろの席にいた私は身を乗り出して、アスカちゃんを睨みつけるヴィクトの脳天にチョップを落とす。
軽いチョップなので、双方痛みなし。
「油断しないでってことだよ、ヴィクト。学園長の期待にも応えたいし、まぁ勝つつもりで挑もう? 皆も王都のダンジョン、行きたいよね?」
「いっくー!! そして勝つー!!」
真っ先に声を上げたのは、両腕を上へ伸ばすディヴェだった。
「そうね、学園の名誉のためにも勝ちたいし……王都のダンジョンも楽しみだわ」
ミミカは、にっこりと私に笑いかける。
「最速最強のパーティーの実力を、王都で知らしめるいい機会だしな!」
ストも、乗り気だ。ヴィクトも聞かなくても、もうわかる。
そうか。王都でも将来有望な冒険者としても、認めてもらう好機か。
何が何でも、競争には勝ちたいものだ。皆のために。
「承諾ってことでいいのね! ありがとう! 【名無しのパーティー】の力を見せつけよう!!」
名無し言うな!! と皆で揃ってアスカちゃんにツッコミを入れたけれど、やっぱり名前を決めるべきだろうか。
すぐに、パーティー名を決める会議を行った。
「【最強パーティー】でいいじゃねーか。シンプルで」
ヴィクトが適当なことを言う。
ヴィクトが目指すのは、最強だ。最強の冒険者。
「シンプルすぎるでしょーが、これだから単細胞は」
「あんだと!? じゃあてめぇがいい案を出せよ!!」
「はんっ! 【紅蓮の天才魔法少女のパーティー】!」
「それ前に却下されただろうが! どや顔するな!!」
「あんたのだって却下されたでしょうが!!」
ヴィクトとミミカが、相も変わらず、じゃれた。
「魔法少女はやめよう?」
本気でやめてほしい。
このパーティーの方針としては、最強になること。
かと言って、ヴィクトのはシンプルすぎだ。
せっかくなら、かっこつけたい。
「堂々巡りだなー。オレもさっぱりだ」
ストが匙を投げる。
「卒業後に正式な冒険者になるんだから、その際に決めればいいと思ってたけれどー……【名無しパーティー】はかっこ悪いよねー」
にへらと、ディヴェが言う。
卒業後か。もうすぐだ。
私が抜けても、パーティにぴったりの名前をつけないといけない。
本当は私が考えるべきではないと思うけれど……。
「あいてっ」
考え込んでいたら、ぺしっとデコピンをされてしまう。
してきたのは、ヴィクトだ。
「お前も、案を出せよ」
考えていたんだけれども……。
「なんかねーのかよ? 異世界の転生者なら、そっから、なんかいいパーティー名が出せるだろ?」
ついこの間、異世界転生者だということを打ち明けたのだ。打ち明けたい気持ちになったから。
その時の皆は、あまりピーンときていない反応をしていたけれど、異世界転生だということは受け止めてくれた。
この世界でも輪廻転生という言葉はあるけれど、前世の記憶があるのは珍しいとのこと。
魔法はない異世界だと知ると、やっぱり魔法の超天才だと褒められたっけ。
「んー……そう言われも……。皆に合うようなパーティー名、思いつかないよ」
「……”皆に合うようなパーティー名”って、自分を除外して考えるんじゃねーよ。お前がリーダーのパーティーだろうが」
ギロッと、ヴィクトが睨んできた。
「うっ……」
「今必要なパーティー名だよー! エリューちゃんがリーダーのパーティー名!」
「そうそう! もう【エリューナの最強パーティー】でもいいのよ!?」
左右からむぎゅっとディヴェとミミカがくっつく。
「……じゃあさ、学生の間だけでも【名も無き最強】を名乗っておく? 本当はかっこ仮ってつけたいけれど、そのままの方がいいよね」
「採用!」
きっぱりとヴィクトが即答し、振り下ろした親指を立てた手を突き付けてきた。
「なんで学生の間だけなの?」
「いや、絶対冒険者として名を馳せると、同時に二つ名がつくでしょう? 皆のことだから、かっこいい二つ名がすぐにつくはず! その時は、やっぱり他のパーティー名がいいと思うんだ。だから、学生の間だけ、二つ名がない今だけのパーティー名」
二つ名がつくほどの冒険者になる。そう断言したら、ヴィクト以外が照れた。
「じゃあ卒業後も使えるパーティー名、考えておけよ? リーダー」
ヴィクトは、ニヒルに笑い、意地悪を言う。
ちょっとわかった気がする。ヴィクトが、あっさりと私にリーダーを押し付けた理由が……。
「うん」
私は、そう笑って頷いておいた。
そして、私達【名も無き最強】パーティーは、遠征という形で王都へと向かったのだ。
王都にサクッと行ける転移装置があったので、苦労はない。
だから着いたその日に、ダンジョンへと入ることとなった。
王都ヴェルインのダンジョン。【王都の門の強欲ダンジョン】という名で通っている。
私達が日頃行っている【深淵の巨大ダンジョン】と同じく、厚く頑丈な壁で囲い、大袈裟なくらい巨大な門を建てていた。
貴族の見栄を、ここで感じてしまった。いやこれは、王都としての見栄かしら。
他にも、古のダンジョンである【深緑の森のダンジョン】という場所にも行ったけれど、こんな頑丈な門ではなかった。
相手パーティーとも顔合わせ。相手も五人、優秀な生徒を選抜したらしい。杖を持っている、同じ年とは思えないボンキュッボンな女子生徒は、すでに勝ち誇ったように笑みを浮かべて見下していた。他の生徒も、そんな感じだ。私達を見下している目付きをしていた。
貴族は傲慢だなぁ。まぁ私も、一応貴族なわけだけれども。
ニーヴェア学園の学園長と、貴族の学生が通うアスタリール王都学園の学園長は、にこやかに笑いつつも殺気立っていた。犬猿の仲とは、このことか。
こちらの生徒が勝つと、軽く言い合うと、各々で自分の生徒に激励をかける。
「競争ばかりに気を取られないようにくれぐれも気をつけなさい。あなた方なら勝ちます」
長老魔法使いみたいな風貌の学園長は、有無も言わせない威圧感を放っていた。
絶対勝ちたいんだなぁ……。
不正と事故を防ぐために、見張りの冒険者が三人、同行することになった。
そして【王都の門の強欲ダンジョン】の扉は、開かれる。
「いよいよだな」
ヴィクトの横顔を見れば、好戦的な笑みを浮かべていた。
楽しみでしょうがないのだろう。私もワクワクだ。
新たな冒険に踏み出すのだから、満場一致で興奮しているに違いない。
10階層のフロアボスに勝ったら、そこで競争は終了。もちろん、勝利したパーティーが競争の勝者だ。
前もって調べたところ、10階層のフロアボスは氷属性のエレメント系魔物らしい。よって火の魔法攻撃が有効。
あのボンキュッボンな生徒の杖は、火の魔法強化に特化したものだと一目瞭然だった。
ちょっと、嫌な予感……。
「お先に」
1階層に足を踏み入れるなり、王都学園のパーティが走り出した。
まるで勝手知ったる庭のように、洞窟の中を突き進む。左右に分かれた道も、迷うことなく右へと曲がって行ってしまった。
「は!? 何アレ!? 絶対に初めてじゃないじゃん!! 不正よ、不正!」
ミミカが残った一人の冒険者に訴えたのだけれど。
「不正とは限らない。経験済みの冒険者に情報をもらっていたかもしれない。情報収集は冒険の要だ」
そう呆気なく、返された。そして、ツーンとそっぽを向かれる。
ミミカがキレた。
「絶対にあっちの味方でしょう、アンタ!!」
「まぁまぁ、ミミカ、落ち着いて。情報ならこちらもあるから、大丈夫だよ」
「そうだよー! ウチのリーダーにまっかせなさい!」
私が肩を撫でて宥めると、ミミカは落ち着きを取り戻す。
「最速最強の【名も無き最強】パーティーだぜ? 追い抜いて、10階層のフロアボスを倒す!」
ヴィクトも、冷静だった。
「おいオッサン。置いていくからな」とだけ、ヴィクトは冒険者に一言伝える。
「いい? 正しい道は、右、左、真ん中、右、真ん中、左だよ」
「オッケー、覚えたリーダー」
「よし、行こうぜ、リーダー」
「覚えたー。任せるね、リーダー」
「さっさと行くぞ、リーダー」
全員成績トップの順に食い込むだけあって、あっさりと覚えた。
「”――加速――アッチェブースト――”!」
私は皆に、素早さを上げる補助魔法をかける。
慌てて冒険者も、自分に同じ魔法をかけた。
「”――加速――アッチェブースト――”!」
「は!? 二重魔法!?」
「”――加速――アッチェブースト――”!」
「さ、三重だと!!?」
素早さを上げる補助魔法。身体が耐えられるのは、三重が限界だ。
前に四重を試して走ってみたら、全身筋肉痛のような痛みに襲われたっけ。
ダッとヴィクトを先頭に、全員フォーメーションを崩さず、駆け出した。
風の中を突き進む猛スピードで、教えた通りの道を通りつつも、湧いてくる魔物を蹴散らす。1階層だけあって最弱魔物。ヴィクトの蹴りや拳、そしてストの大盾に当たるだけで、魔石を落とす。今は拾わない。
2階層に入る前に、王都学園のパーティを追い抜いた。
何度か魔物の群れに阻まれたけれど、前衛のヴィクトと援護射撃のミミカが仕留める。
そして、6階層で補助魔法の効力は切れた。魔物もいないことを確認して、ちょっとの休憩に入る。それでも王都学園のパーティーは追いついて来なかった。気にすることなく、次の階へ。
7階層、8階層、9階層。歯応えはないけれど、順調に進み、そしてフロアボスのいる10階層に到達した。
入る前から異変に気付いたので、注意をするように皆に言う。
10階層は――――炎の海だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます