第75話 ワイバーンが来る前に

 飛行部隊の討伐練習を終えて、お偉い様のテントで反省会だとゲイツ様に言われた。

 うん、反省会の筈だけど、騎士達とパーシバルとアルーシュ王子達も引き続き魔物討伐している。その上、王宮魔法使い達もいないんだよ!

 これって、食事場よりも暖かなテントでお茶とケーキを食べたいだけじゃないの? あっ、ケーキを他の人に食べさせたくないだけなんだ! これ、私のケーキだよね! 自分の物と勘違いしていない?


 パーシバルが居ないので、ベリンダが護衛として、メアリーはお茶をいれたりしながら付き添っている。

 メアリーがお茶をいれてくれたので、今日はドライフルーツとナッツが入った堅焼きケーキを食べる。ローレンス王国の伝統的な砂糖ザリザリのケーキに似ているけど、あんなに砂糖は入れていないし、ナッツとドライフルーツが良い感じなんだ。


「ううむ、昔ながらのケーキに見た目は似ているのに、ペイシェンス様のは、やはり美味しいです」

 これって、褒めてくれているんだよね。実は、ウェディングケーキの練習も兼ねているんだ。

 式場では、柔らかなふわふわのケーキを出す予定だけど、お持ち帰りは固い日持ちのするケーキが人気なんだよね。

 そのケーキを食べると結婚できると言われているから、お持ち帰りを待っている人がいるからね。

 でも、砂糖ザリザリのケーキは駄目だよ! だから、ブランデーケーキか、今日食べているドライフルーツやナッツの入った伝統的に見えるケーキか悩み中。

 まぁ、結婚するのは、早くても四年後だから、ゆっくりと考えよう。


「ペイシェンス様は呑気な事を考えておられるみたいですが、ワイバーンが空を飛んでいたら、魔物が暴走しますよ」

 ふぅ、そうだね! 先ずは、魔物、そしてワイバーン、その後で銀ちゃん対策だ。きっちり、魔物で遊ばないように言い聞かせないと!


「ペイシェンス様、銀ちゃんの名前、何とかなりませんか? 会議で話していても『銀ちゃん』と呼ぶと気が抜けるのです」

 それは、私もネーミングセンスを疑われそうで嫌なんだ。

「変えられるものなのでしょうか? 変えられるなら、変えたいですわ」


 そんな呑気な会話をしている場合ではなかった。

 次々と魔物がワイバーンに背中を押されるように雪崩れ込んでいたのだ。

 リチャード王子も疲れた様子で、テントに来て、お茶会を見ると顔を顰めた。


「リチャード王子もケーキとお茶を飲んだら良いですよ」

 メアリーがすかさずお茶とケーキを出す。

「私は、ケーキは……」

 甘い物はあまり食べないリチャード王子が拒否しようとしたけど、ゲイツ様に睨まれて食べる。

「ああ、疲れているから美味しい!」

 あっ、そんなことを言うと、ゲイツ様が黙っていない。

「ペイシェンス様の堅焼きケーキは、見た目は伝統的な砂糖が多いケーキと似ていますが、全くの別物ですから!」

 リチャード王子は、素直に発言を撤回して謝ってくれたが、心、ここにあらずだ。


「飛行隊の実践訓練はどうでしたか?」

 リチャード王子は、やはりワイバーンの飛来に気が向いているみたい。

 ケーキをもう一つ食べ、お茶を飲んでからゲイツ様が答える。


「王宮魔法使いの三人は、まだまだ飛ぶ方に注意が向いていますね」

 それに、私達の後方だから、討伐し難いんじゃないの? リチャード王子が眉を少し上げた。

「今日は後方にいましたし、地上の魔物ですから」

 サリンジャーさんがさりげなくフォローしている。


「騎士達は、飛ぶのは上手くなっているが、ワイバーン戦だと苦戦するかもしれない。王宮魔法使いとコンビを組ませて、防衛に専念して貰っても良いかもしれない」

 それは、サリンジャーさんも賛成している。

「ワイバーンは空を飛びますから、防衛をしながら攻撃するのは大変そうです。騎士が防御をしながら、近接したワイバーンを攻撃すれば、王宮魔法使い達も安心して攻撃に専念できるでしょう」

 ガブリエル騎士団長、サリエス卿、ユージーヌ卿は、三人の王宮魔法使いとコンビを組んで、討伐することに決めた。


「パーシバルは、あの非常識な盾でペイシェンス様を護りながら、近接したワイバーンを攻撃する。アルーシュ王子とザッシュは、遊撃隊で良いでしょう」

 あっ、非常識な盾と聞いて、リチャード王子が興味を持ったみたい。


「その非常識な盾とは?」

「ああ、リチャード王子! 貴方も知っていた方が良いですよ。ペイシェンス様は、本当に非常識な誕生日プレゼントをパーシバルにあげたのです。敵の攻撃を反射する盾なのです。あの盾の魔法陣を応用できれば、竜が飛んで来ようと騎士団で討伐も可能ですが……隠蔽が効かないのです! あれを他国に流すのは絶対に駄目なので、祖父が作ったと話を合わせて下さい」

 リチャード王子は、目を見張って聞いていたが、機密を流したりしないと真剣に頷いた。そして、私を残念な子みたいな目で見ている。

「素晴らしい才能と優れた頭脳、それにマーガレットにも忠実に優しくしてくれている。こんな優れた令嬢は、他にいないのだが……婚約者のパーシバルは苦労しそうだ」

 あっ、酷い! ゲイツ様だけでなく、サリンジャーさんも爆笑している。

「パーシバルの手に余るようなら、私が引き受けますが……彼は、絶対に手放さないでしょうね」

 それ、困るよ! これからは、本当に何かやらかす前にパーシバルに相談しよう。

 パーシバルは、私の失敗も笑って受け止めてくれるけど、それに甘えつづけるのは良くない。


「ペイシェンス、そなたの才能を伸ばして欲しい。ただ、婚約者のパーシバルに相談するのは、忘れないように」

 ゲイツ様も頷いている。

「まぁ、暴走するペイシェンス様をどうパーシバルがサポートするのか、それが重要ですね」

「えええっ、私はパーシバル様のサポートをしたいのです」

 何故か、全員に笑われた。

「それをパーシバルが望んでいるのか、よく話し合った方が良いと思う。まぁ、普通の令嬢なら、それが正しいのだが……」

 リチャード王子に言われるまでもなく、話し合いたいよ!

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