第65話 二回目の魔物討伐

 金曜のH&G商会のオープンは、とても繁盛したよ。メーガンの頑張りで、大きな混乱もなく、商品を売りまくったみたい。


「日曜に学生さん達は魔物討伐に出発されるのですよね。そうしたら、少しは余裕が出るかもしれませんわ」

 メーガンに売り上げ帳を見せてもらって、普通なら忙しくなくなるのを願うなんて商売としては可笑しなコメントも理解できる。


「そうかなぁ。冒険者とかは、これからじゃないのか?」

 アダムに指摘されて、メーガンは顔を顰めている。


「開店から一週間は、ローラン卿が警護の指揮を取ってくれるわ。問題が起きた場合は、バーンズ商会のパウエル支配人さんも相談にのって下さるそうよ」


 私は五日か一週間は王都にいないからね。貴族が横車を押したら、バーンズ商会が間に入ってくれる。これって、とても安心。


「リチャード王太子の御用達ロイヤルワラントの店に、馬鹿な真似はしないとは思うが、パウエル様に相談できるのは心強いな!」

 アダムの言葉に、メーガンも頷いている。二人は、元はバーンズ商会に勤めていたから、相談しやすいのだろう。


 ここは、お父様が当主だから、書斎は使えないので、応接室で話をしていたのだけど……そこに相応しくない箱が山積みになっている。

 お友だちに配るチョコレートバーの箱だよ。

 大きな箱は、パーシバル、ゲイツ様、サリンジャーさん、リチャード王子、ラッセル、そして後から気づいたけど騎士団系にサリエス卿。


 各王子には多めに渡して、友だちに配って貰う。ザッシュとかラルフやヒューゴだね。


「あれは?」とアダムが目敏いので、チョコレートバーを見せる。


「これで包装しておけば、持ち歩きも楽だし、湿気ないのよ。それに、色を分けているから、何が食べたいか分かると思うの」

 

 パーシバルが帰った後で、布の袋では持ち歩き難いと思ったんだよね。

 スライム粉と珪砂少しで、個別包装する事にしたんだ。ナシウスも手伝ってくれたよ。

 前からのは、茶色。イチゴは赤、ナッツは黄色、オレンジはオレンジ色、干し葡萄は紫。

 絵の具をケチったから、薄らとした色だけどね。


 前の世界だったら、ゴミ問題が起こるけど、この世界ではスライムが食べるから、シュヴァルツヴァルトに捨てても大丈夫!


 これを思いついたから、ケーキ類も切ってもらって個別包装にしたんだ。真空パックにしたから、より日持ちがよくなりそう。良いアイデアだよね!


「一つ頂いても良いですか?」

 ジッと手に持って眺めていたアダムに「ええ、私のはいっぱいあるから」と許可したら、メーガンと二人で分けて食べている。


「これ、商品にしませんか?」

 美味しかったみたいで、メーガンが騒ぐ。

「ええっ、でもチョコレートは輸入品だし、高級になるわ」

 つまり、上級貴族が煩いから嫌だと断る。


 少し考えていたアダムが提案する。

「このチョコレートコーティング、とても美味しいですが、無くても良いのでは?」

 ハッとしたよ! 前世の携帯食料バー、チョコレートコーティングしていない健康食品系もあったんだ。


「それは良いですわね! チョコレートバーは、高価ですが……かた焼きビスケットだけなら……」


 早速、エバにかた焼きビスケットバーを焼いて貰う。プレーン、チーズ味、ナッツ入り、コーンフレーク入り、干し葡萄入りを焼いて貰う。


 フルーツは、ちょっと高価だからね。干し葡萄は、割と流通している。うちの領地でも作れそうなんだ。


「ふふふ、これも皆様に配りましょう! 良い宣伝になるわ」


 それに、ザッシュとか甘い物が苦手な人にも塩味チーズとか良さそう。栄養面を考えるなら、人参とかも良いかもね!


 土曜日、堅焼きケーキ、シュトーレン、ブランデーケーキなども入れて、各家に配ってもらう。夜は、パーシバルを招待して、激励会だ。


 あんなにあった魔物の肉も、夏休みで使い果たした。今は、領地から運んで貰っている状態なんだ。でも、領地も冬越しの準備がいるから、肉は少しだけ。魚介類が中心だね。


「頑張って、魔物の肉を貰ってきますわ」

 パーシバルが横で笑っている。あっ、しまった! ペイシェンスがお母様の元に旅立ってから、時々、令嬢らしくない言動になってしまうんだ。


 猫の皮を被りなおさなきゃ! と思っていたら、やはり来たね! これ、ベネッセ侯爵夫人に言いつけて良いんじゃないかな? 招待していないのに、晩餐に来るのってマナー違反だよ。


「明日から、貧しい食事になるのですから、今夜はペイシェンス様の料理を食べさせて頂きたいです」

 ゲイツ様もソースは買ったよね? それで去年は喜んでいたじゃん!


 こんな時、お父様ってマナーを重んじるんだ。突然来たのはマナー違反だから、こっちだけマナーを守らなくても良いじゃん!


「ゲイツ様もご一緒に……ペイシェンスがお世話になるのですから」

 あっ、そっち! 私のせいなの? まぁ、確かにお世話になるけど……。


「ええ、私がペイシェンス様に傷一つ負わせません!」


 パーシバルは、少し微妙な顔だけど、ゲイツ様の側から離れないようにと言い聞かされた。本当は一緒にいたいよね。


 まぁ、仕方ない! 食堂に移動しよう。パーシバルがエスコートしてくれるから、少し気分が浮上したよ。


 エバも、当分は焼肉ばかりだとメアリーに聞いたから、野菜と魚介類中心のメニューにしてくれた。


「ああ、これ! やはりペイシェンス様の料理は格別です」

 テンションの高いゲイツ様にも皆慣れてスルーする。慣れたくないけどさ。


 雲丹とマッドクラブのテリーヌ、南瓜のポタージュ、魚のアクアパッツァ、いちごシャーベット、メインは野菜の千切りとビッグボアの薄切りのしゃぶしゃぶ。

 

 私は、野菜多めで肉は一皿で十分だけど、お父様ですら二皿、パーシバルは三皿、ナシウスは四皿、ゲイツ様は五皿!


 この締めは、平打ち麺! 出汁を吸って美味しい。柚子を絞ったら、スッキリ。スープも飲み干したよ。


 デザートは勝栗のイメージでモンブラン! 上の飾りの栗、瓶詰めで持って行くんだよね。甘味は、疲れに効くから。


「明日は、馬の王メアラスに乗って行くのですか?」

 これ、ちょっと問題なんだ。去年は、別行動が多かったんだよね。

「ええ、パーシー様と一緒に……えっ、駄目なのですか?」

 婚約者なんだから、一緒にいたいよ!


「はぁぁ、仕方ないですね! パーシバルも私と一緒に行動しましょう。ペイシェンス様、指導料はチョコレートバーでお願いします!」


 まぁ、それは良いんだよ! パーシバルと一緒に行動できるのは嬉しいし、チョコレートバーは余分に持って行く予定だから。


「それより、魔法使いコースの学生と文官コースの学生の指導者は、ちゃんと決めてあるのでしょうか?」

 これ、重要! 騎士コースは、上下関係がピシッと決まっているから、そちらは大丈夫なんだけどさ。


「ああ、サリンジャーが何かやっていましたね。ああ、文官コースの学生は、騎士団が指導するようですよ」


 うっ、サリンジャーさんに差し入れを倍増しなきゃいけないかも。


 次の日は、朝早くからシュヴァルツヴァルトに出発するから、晩餐の後はすぐに解散だ。

 パーシバルは、見送って、ちょこっとキスしたけどね。


 ヘンリーは、もうぐっすり眠っていたから、額にキスしておく。


 早朝、パーシバルが迎えに来てくれた。ゲイツ様もだけどね!

 

「お姉様、気をつけて!」

 ヘンリーとナシウス、そして珍しく早起きのお父様に見送られて、二回目の魔物討伐へ!


 馬の王メアラスだけが、早朝でも元気だよ! 私とパーシバルを乗せて、早朝のロマノの街を走る。ゲイツ様、寒いのが苦手なら、馬車で良いんじゃない? 横を戦馬で走っている。


 私とパーシバルの荷物は、パーシバルの馬車に乗せてもらった。メアリーもね! 

 ただ、北門でサリンジャーさんと合流してからは、私とメアリーとゲイツ様は、ゲイツ様の馬車。

 サリンジャーさんとパーシバルとベリンダと従者達は、馬だ。

 ふう、やはり馬車の方が暖かいよね。


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