第142話 補給部隊
金曜の昼から、キース王子とオーディン王子は、デーン王国のモーガン大使と共に王都に帰る。
何人かの騎士が護衛につくけど、スレイプニル達を運ばなくてはいけないから、王都から応援部隊が来るみたい。
「何か欲しい物があれば、箱一つぐらいなら補給部隊が運んでくれる。手紙を書いて、第一騎士団に持って来て貰いたい者は、今すぐ渡してくれ!」
昼休憩に、ガブリエル第一騎士団長が、大声で発表した。
全員があれこれ欲しい物があるので、走り書きの手紙を家族に書く。
「去年は、金曜には学生はロマノに帰ったのだ」
カエサル部長も、長くなると覚悟して来たが、ここまで討伐が続くとは考えていなかったみたい。
「上級回復薬とペイシェンスの真似をしてチョコレートを持って来て貰おう!」
全員が「私のも!」と頼んでいる。
「ペイシェンス様は、何を書かれたのですか?」
パーシバルに訊ねられる。
「私は、お父様と弟達に元気だと書いて、エバには果物とチョコレートとピクルスを頼みました。それと、これは駄目かもしれないけど、キャベツの酢漬も頼みましたの。キャベツの樽は、一箱程度と言われているから、無理かもしれませんわ」
「キャベツの酢漬! げー!」
ベンジャミンは、嫌な顔をしているけど、お肉ばかりだから、野菜不足なんだ。
オーディン王子は、最後まで「
金曜の夜、やっと夜は女子テントで寝るのを
今年の討伐は厳しくなると言われていた通りだ。
「こんなにデーン王国から魔物が流れて来たら、彼方には何もいなくなるのでは?」
つい愚痴ってしまったけど、デーン王国には、北極からの魔物がやって来ているそうだ。
北の海岸線での討伐は、冷たくて厳しいみたい。
でも、私は少し不安なんだ。ゲイツ様も首を捻っていたからね。
「もうフェンリルもデーン王国に帰ったし、そろそろビッグバードの群れも減っても良い筈なのですが……」
私は、今年が初めてだし、パーシバルも去年はビッグバード狩りはしていなかったから、どう違うのかわからない。
「少し、注意しておきましょう」
2人で、
メアリーは、スレイプニルが怖いので、馬房の外で待っているから、チャンスだったのに! ぷんぷん!
土曜の朝は、ビッグバード狩り、昼からはビッグボアを狩った。
「このビッグバードが減らないのが気になりますが、ビッグボアは、少し減ってきたのに……」
ゲイツ様もサリンジャーさんも、何か変だと感じているみたい。
土曜の午後、皆が待っていた補給部隊が到着した。
「まぁ、エバが頑張って、チョコと果物とピクルスとアップルパイを箱に一杯入れてくれたわ!」
それと愛しい弟達からの手紙も!
私は、キャベツの酢漬は駄目だったのかと諦めていたけど、それも後から女子テントに届いた。
「ふふふ……これで、スープを作るわよ!」
ルーシーやアイラもキャベツのスープは嫌いみたい。鼻に皺をよせているよ!
「キャベツスープは嫌いだ!」
ふふふ……、それは食べてから言ったほうが良い。
身体は正直だ。野菜を求めている!
重い荷物も、風の魔法で浮かせれば、楽に食事場に運べる。
「あのう、大きな鍋を貸して頂けますか?」
今日もビッグボアの焼き肉だよ。塩味だけどね。
「ああ、煮物は作らないから、鍋は空いていますよ」
ふふふ、チャンス! ベンジャミンにキャベツスープの美味しさをわかってもらおう。
「お嬢様が自ら作らなくても!」
文句を言っているメアリーを説得して、手伝って貰いながら、キャベツの酢漬スープを作る。
エバが気を利かして調味料も入れてくれたから、うん、美味しい!
出汁は、ビッグバードの骨から生活魔法で時短して取ったし、ベーコン代わりにビッグボアを細かく切って、炒める。
「後は煮こむだけだけど、時短で済ませましょう。美味しいスープになれ!」
キャベツはとろとろ、ビッグボアの細切れも溶けそうだ。
器に入れて、メアリーと味見する。
「ああ、美味しいですわ。貧しい時は、キャベツスープなんか飲みたいと思わなかったのに、でも、考えてみたら贅沢なスープですね!」
ビッグバードの骨の出汁とビッグボアの細切れだからね。
「えっ、本当にキャベツのスープを作ったのか?」
ベンジャミンも驚いているよ。パーシバルは、サッサと器にスープを注いで貰い、ビッグボアの焼き肉も貰って席に着く。
「まぁ、お嫌いなら仕方ないですわ。ビッグバードの骨で出汁をとり、ビッグボアの肉も入っていますよ」
私とメアリーは、キャベツスープと焼き肉を貰って席に着く。ベンジャミンも少し悩んで「スープも貰う」と言った。
席について、スープを一口!
「美味しい! 何故だ? 私は子供の頃からキャベツスープが大嫌いなのだ!」
ふふふ……、美味しいよね!
「それは、ベンジャミン様の身体が野菜を必要としているからです。だから美味しく感じるのですわ」
パーシバルが横で笑っている。
「ペイシェンス様の料理はいつも美味しいですよ」
ベンジャミンは、スープを飲み干すと、おかわりに行く。
「やはり、ペイシェンス様は料理が上手いですね」
えっ、パリス王子に様付けで呼ばれたけど?
「ははは、私もペイシェンス様と呼ぼう。あの討伐数と
えっ、アルーシュ王子まで? オーディン王子が様付けするからうつったの?
「いえ、普通に呼び捨てにして貰った方が気が楽ですわ」
嫌だよ! 王子が様付けしていたら、パーシバルも様付けに戻っちゃう!
「ペイシェンス様、このキャベツスープ、絶品です! こんな不味そうな素材で、どうしてこんなに美味しいスープが!」
ゲイツ様、アルーシュ王子ががっかりしますよ! と少し心配したけど、慣れたみたい。
それに、あの討伐数を見れば、誰も文句を言えないよね。ダントツだよ!
「ビッグバードの骨で出汁を取ったのと、ビッグボアの細切れのお陰ですわ。それと、ゲイツ様も野菜不足なのです。身体は正直ですわ」
クンクンと匂いを嗅いで、ゲイツ様が騒ぎ出す。
「ペイシェンス様、この香りはスイーツとチョコレートですね! 私の執事は1枚しかチョコレートを買えなかったのです!」
バーンズ商会には『お1様1枚限り』と張り紙があるからね。
「彼奴は、要領が悪いのです。屋敷の召使いを全員動員すれば30枚は買えるのに!」
それは、ちょっと駄目だと思う。ゲイツ家の執事さんは、アイスクリームの食べ過ぎも諌めていたし、チョコレートも大量に食べるのを心配しているんじゃないかな?
「今日のデザートはアップルパイですわ。メアリーが切って持って来てくれます」
全員分はないけど、知り合いには分けるよ!
「アップルパイ? それはパイのスイーツなのですか?」
ローレンス王国では、スイーツといえば砂糖ザリザリのケーキが主流だったからね。
パイはあるけど、おかず系だけだった。私は、家のリンゴでアップルパイをエバに焼いて貰っていたのだ。
「ううう……美味しい!」
確かにエバのアップルパイは美味しいね。
「ああ、温かい暖炉の前で、熱々のアップルパイにアイスクリームを添えて食べたいわ」
こちらの人は、アップルパイにアイスクリームは添えないのかも? でも、全員が味を想像したみたい。
「ペイシェンス! それは今言わないで欲しい!」
パーシバルにさえ叱られたし、ゲイツ様は悶絶している。
「明日も、朝一はビッグバード狩りですよ! パーシバルもなかなか腕が上がって来ていますから、明日はすこし深い場所まで入って調査します!」
えええ、遠出すると、トイレが間に合わなくなるかも?
「少し、気になるのです。ビッグバードが減らないのは変ですからね」
それは、調査しなくてはいけないかもね?
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