第71話 パーシバルと婚約?

 早めの昼食にして、昼間なのにサッと風呂に入り、メアリーが髪の毛に緑の細いリボンを編み込んだ凝った髪型にして、緑のドレスに着替える。

「お嬢様、とても綺麗ですわ」

 鏡に映った私、なかなか可愛い。転生した時より、少しだけふっくらして目だけ目立つような事は無くなっているし、髪の毛もヘタっていない。

「パーシバル様が来て下さると良いのだけど……」

 父親が珍しく役に立つアドバイスをしてくれた。パーシバルを信じて待つしかないのだ。


 ナシウスの追加ブロックを作っても良いし、陛下のマントに魔石を入れるロケットを付けても良いのだけど、全くする気にならない。

 12時を回った。

「まだモラン伯爵家では昼食の時間よね」

 ああ、もう時計ばかり見ている。

 他所のお宅を訪問するのは、昼食後13時以降がマナー的に良いとされている。

 それはわかっているけど、反対されて来られないのかもと不安になってくる。

「パーシバル様を信じなきゃ駄目なのよ」

 本を読もうとしても、頭に入ってこない。

 窓から門を見下ろさない様に、椅子に座る為に本を手にしているだけだ。


 あっ、馬車が着いた音がする。窓に駆け寄って、モラン伯爵家の馬車か確認したいけど、それはマナー違反だ。

 今日はマナー違反はできない。

 でも、全神経を玄関ドアに集中している。

「ああ、パーシバル様だわ!」

 あの声はパーシバルだ! 胸がドキドキする。

「お嬢様、パーシバル様がいらっしゃいましたよ」

 メアリーが報告に来てくれた。

「駄目です! 子爵様とパーシバル様のお話が終わらないといけません」

 応接室に行こうとした私をメアリーが止める。


「何を話しているのかしら?」

 もう応接室にパーシバルが入って、何分も経った。父親は賛成していたから、モラン伯爵家が反対して、パーシバルは断りに来たのかもしれない。

「お嬢様、落ち着いて下さい」

 立ったり座ったりしている私をメアリーが諌める。

 そんなの無理だよ! やはり駄目だったんだ。


 永遠に思える程、10分は長く感じた。

「お嬢様、子爵様がお呼びです」

 ワイヤットが部屋まで呼びに来てくれた。

 私が飛び出して行こうとするのを、メアリーが止める。

「お嬢様、落ち着いて、お淑やかに!」

 ああ、そうだよね!

 ゆっくりと階段を降りて、応接室に入る。

 

 パーシバルが椅子から立ち上がり、にっこりと笑う。

「ペイシェンス様、先程、グレンジャー子爵から結婚の許可を頂きました」

 わぁ! やったね!

 さっと私の前に跪き、私の手を取って正式なプロポーズをする。

「ペイシェンス・グレンジャー様、私と結婚して下さい」

 勿論「はい!」だよ!

 パーシバルは、内ポケットから指輪を取り出して、私の薬指に嵌めた。

 ピンク色と青色がキラキラしているオパールの周りにミニダイヤが施されている。

「ペイシェンス様の誕生石ですし、オパールの持つ意味が気に入ったのです」

 父親は「おめでとう!」と一言祝福して、席を立った。

 気を利かせてくれたのかも?

「反対はされませんでしたか?」

 パーシバルは、笑って首を横に振った。

「ペイシェンス様と結婚できるなんて、とても幸せです」

 2人で見つめ合い、キスをする。


 良い雰囲気なのに、メアリーが「こほん」とわざとらしい咳払いをする。

 この世界では、結婚前は侍女が付き添うみたいだね。

 2人でモラン伯爵家に挨拶に行く前に少し話し合う。

「指輪のサイズが大き過ぎた様ですね」

 石の重さでクルクル回っているけど、いずれは丁度良くなるんじゃない?

「私は錬金術が得意なのをお忘れですか?」

 このくらいすぐに直せるよ! でも、今はクルクル回るのも愛おしい!


「私が大学を卒業するまで待って頂かないといけないのですが、良いですか?」

 パーシバルは、来年には中等科3年、大学は何年通うのだろう?

「大学は何年通うのでしょう?」

 前から知りたかったんだ。

「えっ、お父様はロマノ大学の学長をされているのに、ご存じないのですか?」

 だよね! そういう話はしていないな。

「普通の学生は3年から4年通います。単位を取ったら卒業する学生もいますが、研究を続けたい学生は6年通う人も多いそうです」

 えっ、6年? その時、パーシバルは22歳、私は19歳? 前世では早婚だけど……?

「ペイシェンス様、私は4年で卒業しますよ!」

 なら、20歳と17歳? 

「あっ、でも私もロマノ大学に進学するのです」

「では、卒業してからにしますか?」

「いえ、頑張って3年で卒業します」

 2人で結婚する時期をいちゃいちゃ考えるのも楽しい。

「早くても5年後なんですね」

 パーシバルが笑う。

「色々と準備が大変みたいですよ。姉のナタリアが結婚する前は、母は神経を尖らせていました」

 ああ、それは大変そうだよ。私は内職でナプキンに頭文字の刺繍をしていたからわかるよ。異世界の花嫁道具の準備は、細かい物まで買い揃えるみたいだもの。

「私には母親はいませんから、教えて頂かないといけませんわね」

 なんて事を話していたら、弟達が応接室の扉の前をうろうろしている。

 メアリーがいるのに扉は開けてあるから、見えたんだよ! 侍女が居ても、扉は開けておくのがマナーなのかな?

「パーシバル様、弟達を入れても良いでしょうか?」

 パーシバルは、私のブラコンは知っているから、笑って許可する。この点もポイントが高いんだよね!

「お姉様、パーシバル様、婚約なさったのですか?」

 ナシウス、先ずは確認してからだね。慎重なナシウスらしいよ。

「ええ」と指輪を見せてあげる。

「「おめでとうございます!!」」

 2人からの祝福を受けて、私達はモラン伯爵家へと挨拶しに行く。


 馬車の中でパーシバルがオパールを選んだ訳を聞いた。

「オパールの石の持つ意味は「純真無垢」「幸運」「忍耐」「歓喜」「希望」だそうです。ポジティブで自由なエネルギーをもつ象徴の石とされているそうですから、ペイシェンス様にぴったりだと思って選んだのです」

忍耐ペイシェンス」名前のままだね!

 パーシバルも、くすくす笑っている。

「あっ、話すのを忘れていた事があるのです!」

 言っておかなきゃね!

「何でしょう?」

 少し言いづらい。自分の持参金についてなんて、普通は父親が決めるんじゃないの?

「この前、陛下に外国には行かせられないと言われたとお話ししたでしょう?」

 ズバッと言い出せなくて、遠回しに話す。

「ええ、それは聞きましたけど?」

 怪訝そうな顔のパーシバルが「キース王子の件ですか?」と質問するから、慌てて否定する。

「いえ、それはお断りしましたから大丈夫ですわ。そうではなくて、サーモグラフィースクリーンを作った功績で、女男爵バロネスに陞爵したのです。まだ公表は控えていますけど、こんな物も貰いましたの」

 うちの父親は、全く相談し甲斐がなくて、モラン伯爵と相談するようにと丸投げだったから、小さなハンドバッグから陛下に貰った空いている領地の紙を取り出して渡す。

 ちらりと紙を見たパーシバルは、少し困った顔をしている。

「父から、陛下はキース王子の妃にと望んでおられるのではないかと訊かれたのです。でも、それはペイシェンス様が断られたと伝えて、了解を得たのですが……女準男爵バロネテスでも私より国に貢献しているのが明らかなのに女男爵バロネスに内々とはいえ叙されたと知ったら、叱咤激励が激しくなりそうだと思っただけですよ」

 ホッとした。女の方が爵位を持っているのが嫌だと思ったのかと、少し心配だったんだ。

「でも、領地を決めるのなら、グレンジャー子爵に相談した方が良いのでは無いでしょうか?」

 ああ、普通はそうだよね!

「父は、グレンジャー家は何代も前から法衣貴族だから、領地管理は全く知らないので、モラン伯爵と相談するようにと言ったのです」

 パーシバルが少し驚いた顔をしたけど、すぐに無表情に戻す。

「パーシバル様は、無表情にされるのが上手いわ。私は、微笑み仮面を付けても態とらしいとか言われてしまうの」

 ふふふとパーシバルは笑う。

「それは、練習が必要ですね」

 なんて、いちゃいちゃ話していたら、モラン伯爵家に着いた。

 さぁ、きちんと挨拶して、婚約を認めてもらわないとね!

 気を引き締めて、馬車から降りる。

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