第53話 これって非破壊検査? ちょっと違うかも?
週末まで、私とアンジェラは調査隊の為に扉の開閉係だ。格納庫は一度開けたから、もう良いんじゃない? と思うのだけど、やはり開けて欲しいみたい。でも、一日中は疲れるから、午前中だけだよ。昼からは、弟達と一緒に遊びたいからね!
「早く、調査隊の生活魔法の使い手が到着すると良いのですが……」
フィリップスは、私の歩く速度に合わせながら気の毒がってくれる。
「ええ、本当に!」
心からそう思うよ。格納庫まで歩くのも大変だけど、時にはカザリア帝国の遺跡までだからね。ゼイゼイ!
体力強化のウォーキングだと思うしかない。
「週末は、夏の離宮に招待されているのですよね。その間は、また写しの取り合いになるのか……」
フィリップスは、ヴォルフガングの助手代わりに使われているからね。自分達の為に写しを読み漁っているカエサル達とは少し距離ができてしまった。元々、錬金術クラブと歴史研究クラブだから、顔は知っていても友達では無いからね。
「キャビネット二台目をグース教授に、一台目をヴォルフガング教授にしては如何ですか? 終わったら交換すれば良いのでは?」
フィリップスと灯を持ってくれていたブライス、二人が大きな溜息をつく。
「それが出来れば簡単なのですが……お二人共、譲ると言う言葉はご存知ない様です」
それは現場でも感じるよ。開閉システムを調べたいのは二人とも一緒だけど、アプローチの仕方が真反対なのだ。格納庫に着いたら喧嘩の真っ最中だった。
「開閉システムの動力源を探さないといけない。遺跡の方は壊れていると推察されるから、ガイウスの丘の方を調査しよう!」
まぁ、グースの意見も理解できるよ。私も、遺跡の方は戦闘で破壊されたのではないかと推測しているからね。
でも、歴史学者のヴォルフガングは別の考え方だ。
「カザリア帝国の生きているシステムを破壊するなんて許されない暴挙だ!」
細い身体を震わせて激怒している。立場が違い過ぎるのだ。調査したいグースと保護したいヴォルフガング。助手達もそれぞれの陣営に分かれて睨み合っている。
「壊さないで調査はできないのかしら?」
前世には非破壊検査もあったよ。異世界には無いのかな? と思って小さな声で呟いただけなのに、全員が此方を振り向いたよ。
「それが出来れば問題は無いはずだな!」
グースが吠えている。ライオン丸2世だよ。
「まぁ、それが本当に出来れば、私も有難いです」
えっ、もしかして私に期待しちゃっているの?
「ペイシェンス、またやらかしたな!」
ベンジャミンが肩をポンと叩くけど、えええ……私ですか?
「ペイシェンス様、あの天井の線がどこに繋がっているのか、そこから調べてはどうでしょう!」
ミハイルだけだよ。具体的な提案をしてくれたのは!
「ええ、ミハイル様! 辿ってみますわ」
私は地下通路の天井に設置してある魔導灯と魔導灯の間にあるコードに集中する。
外野が、ミハイルに「どの線だ!」なんて質問しているよ。うるさい!
「静かにして頂けませんか!」
ペイシェンス口調だとお淑やかだね。
全員がピタリと口を閉じた。これで集中できるよ。この調査の肝は、非破壊検査をどれだけイメージできるかだ。線を辿るのは放射線かな? あっでも放射線は危険だから、エコーの方が良いよね。私の非破壊検査の知識はコマーシャル頼りだよ。仏像とか橋とかを壊さずに検査して傷とかを調べるんだよね。今回はガイウスの丘にある動力源までコードを辿るよ。
「わっ、コードが此方に集中していますわ!」
魔法って不思議だね。薄い蛍光緑にコードが光って見える。
「格納庫の上か!」
ベンジャミンが私が指さした方を見て吠える。
「ええ、彼方に集中しています。格納庫の斜め上に動力源がありそうですわ。凄く光る塊がありますもの……皆様は見えませんの?」
全員から睨まれたよ。
「ペイシェンス、どうやったら光って見えるのだ? 教えて欲しい」
ああ、カエサルの目が真剣だ。
「ええっと、音が伝わる振動って分かりますか? 物質には独特の音の伝わり方があります。岩には岩の、そしてあの線は異物ですから別の伝わり方をするのです。それを辿っていくだけですわ」
エコーってこんな感じだよね?
「ペイシェンス様、そんな事をどこでお知りになったのですか?」
えっ、異世界では音が伝わる振動とか知られてないの? グースに問い詰めたれたよ。
「私は音楽クラブに属しています。そして、音が響く方法について常に考えていましたの。それに何かの本で読んだ様な?」
ここにいるメンバーは全員が貴族で、王立学園を卒業している。つまり、ある程度の音楽的教養はあるのだ。
「確かに音が響くのは、弦を弾いて空気を震わすからだ!」
アーサーは理解が早いね! まぁ、そんな感じだよ。厳密に言うと違うかもしれないけど、ここにはスマホが無いんだもん。調べられないからさ。これで精一杯だよ。
全員が黙り込んだ。考えているみたい。
「それで、その違う振動を追うのだな!」
ベンジャミン、ちょっと何をするの! 凄い魔力を感じるよ。
「待て! お前の魔力だと天井ごと破壊してしまう!」
カエサルが慌てて、ベンジャミンを止める。
「そうだぞ。弦を弾く様な、微量な魔力で……あっ、あれだな!」
アーサーは土の魔法が得意だと言っていたからかな? コツを掴んだみたい。
「アーサー、教えてくれ!」
カエサルが頼み込んでいる。他の人達も、それぞれ集中している様だ。
「カエサル、先ずはイメージが大切だ。リュートの弦を弾く様に微量な魔力を飛ばすのだ。そして、その魔力に引っかかる物を追えば良い!」
うん、私の説明よりアーサーの説明の方が皆に分かりやすかったみたい。
「私にも見えました!」
ミハイルは、初めから線に注目していたからね。
「ペイシェンス様、私も見えました!」
サイモンも見えたらしく、喜んでいるよ。まぁ、メアリーにとっては可愛いサイモン坊っちゃまだから、良かったよ。
「私には未だ見えないが、彼処に動力源があるのだな! 地上から掘り返してみよう!」
グースは非破壊検査の意味が理解できていないね。
「それでは破壊してしまうかもしれない!」
ヴォルフガングは反対している。
「グース教授、地上から調査して、この線やシステムを描いたらどうでしょう?」
サイモンの提案が受け入れられた。ヴォルフガングも調べたいのはやまやまなのだ。
「これで扉の開閉係から解放されますわ」
なんて呟いたら、カエサルに笑われた。
「まだ見えないメンバーの方が多いのだ。それにペイシェンス程ははっきり見えていない。協力を頼まれるさ」
カエサルは、ぼんやりとしか見えないみたいだ。イメージが未だちゃんとできてないのかも?
「これからも調査は続くのです。ちゃんと見えるようになって貰わないと困りますわ」
二人の教授が首を竦めた。
「今度の学長のお嬢様は怖いな」
「ああ、気をつけなくてはいけないぞ」
酷い! グースとヴォルフガングとは口をきかないよ! なのに全員が爆笑している。プンプン!
その日は館に帰ってから、ハノンの調律に使う音叉でイメージを強化させる。
「この音叉が出す音に魔力を乗せて下さい」
サイモンやカエサルもぼんやりとしか見えてなかったから、真剣だよ。勿論、二人の教授と助手達もね。
「ペイシェンス、賢いな! 音叉を使ってよく理解できたよ」
ベンジャミンに褒められたよ。やっと出来て嬉しかったんだね!
「ふむ、何とは無く理解できたが……やはり掘り返したい!」
グースは懲りないね。まぁ、最終的には掘り返さないと動力源は分からないかもしれないけどね。
「これが習得できれば、遺跡の調査には画期的だ。ユーリ、ちゃんと出来るようになりたまえ!」
ヴォルフガングは、未だできないみたい。助手のユーリ任せは良くないね。
「ヴォルフガング教授、音叉の波動に魔力を乗せるのですよ」
フィリップスが側に付きっきりで助言している。やはり優しいね。
真っ赤な顔で集中していたヴォルフガングが「見えたぞ!」と飛び上がった。やれやれだよ。何とか全員が、未だぼんやりとしか見えないメンバーもいるけど、遣り方は理解したようだ。
「これで明日からは弟達と遊べますわ!」
今日みたいな良い天気なのに、地下通路に篭っているなんて嫌だよ。明日も晴れたら海水浴だね!
「ペイシェンス、呑気過ぎるぞ! 動力源を調べないといけないのだ!」
ベンジャミンが吠えているけど、それは調査隊に任せるよ。それが仕事なんだからね!
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