第57話 わちゃわちゃしちゃう
何だか月曜から忙しい。日曜、ギリギリに寮に着いたから、温室へ行けなかったんだ。だから、早起きして温室で上級薬草と毒消し草の手入れをする。薬草学の温室の上級薬草2株はもう種が取れそうだ。後は毒消し草2株に浄水をやっておく。
「なかなか真面目にやっているね。明日には上級薬草の種を取って良いよ」
相変わらずマキアス先生は気配がしないから、驚いちゃうよ。それに素早い。私もマーガレット王女を起こしに行かなきゃいけないから早足のつもりなんだけど、全然追いつけないよ。
月曜の1時間目は外交学で私は結局2つレポートを書いたんだよね。音楽家のと魔石のとね。いつものようにフィリップスと教室移動だ。
「ペイシェンス、あの本は役に立ったか?」
教室に着くと学生達はお互いのレポートについて話し合っていた。うん、足が遅いから同じタイミングで4年Aクラスを出たけど着いたのは最後なんだよ。早足の練習しなくては!
「ラッセル様、とても役に立ちましたわ」
他の学生もレポートを見せ合っているので、私もレポートをラッセルに見せる。
「えっ、これは凄いな!」
何処か変だったのかな? 異世界のレポートって違う書き方なの? 不安になるよ。
「どれどれ?」なんてフィリップスも覗き込んでいる。
「あの本でこんなに細かい情報を整理してレポートを書くなんて、ペイシェンスは賢いな」
ラッセルに家計簿に纏めたのを褒めて貰ったよ。これはマーガレット王女の家政数学の宿題を手伝ったお陰かもね。
フィリップスは2つ目の短い魔石のレポートを読んで驚いている。
「あっ、私のレポートと同じ結論だね」
フィリップスの魔石の値段のレポートの方が詳しいよ。
「いえ、フィリップス様の方が詳しく書かれていますわ」
ラッセルのはもっと全体的に考えたレポートだった。やはり文化興隆支援の部署の必要性とソニア王国の文化省について調べて書いてあった。
今回の授業は各自のレポートについての議論だった。他の学生も調べてレポートを書いていたけど、ラッセルとフィリップスほどは詳しく無かった。
「ペイシェンス、ラッセル、フィリップスは合格だな。他の学生はもう少し頑張りたまえ」
フォッチナー先生に褒められたよ。嬉しいな。
世界史はハドリヌス帝が東方遠征を始めたよ。フィリップスはとっても嬉しそうに授業を受けている。私は領土を拡大し過ぎたのがカザリア帝国の滅亡の理由の1つだと思っているから、こんな遠征で財力を傾けるのは間違っている気がするよ。広けりゃ良いってもんじゃないと思うけどね。
「これからハドリヌス帝の遠征の授業が続くな!」と喜んでいるフィリップスには言わないけどね。
「私は退屈だな。それに彼方此方に行くから年号を覚えるのが大変じゃないか」
私はラッセルの意見に1票だよ。春学期の期末テストはハドリヌス帝の遠征の年号で苦労しそうだもの。
お昼はキース王子とラルフとヒューゴから勉強会のお礼を言われたけど、ラルフには教えて無いんだけど、まぁ良いか。
「この前ペイシェンスが言った通りにお茶会の事を思い出して書いたら、マナー1は合格できたの。でも、マナー2を取る時間が空いて無いから、そのままマナー2になったのよ」
マーガレット王女も順調にマナーの授業を受けているようだ。
「マナー2は昼食会、マナー3は晩餐会ですから、マーガレット様なら大丈夫ですわ」
終了証書が取れそうなので、ご機嫌なマーガレット王女だ。
「でも、家政数学には苦労しそうだわ。それと裁縫と料理もね。今週は何かしらと皆も不安なのよ」
ハムステーキも焦がしたみたいだけど、魚みたいに炭にはならなかった。きっとスペンサー先生もメニューを考え直しているだろう。
「マーガレット様ならきっと大丈夫ですよ」と励ますしか無い。この話題にはキース王子達は参加しないから、昼食時は家政コースの話をすれば良いかもね。何を言っても危険すぎるから口出しできないもん。
彼方は騎士コースの話をしているし、平和だよ。
昼からは今のうちはフリーだ。朝、薬草学の温室もチェック済みだからね。5月の座学までは錬金術クラブだ。
「おっ、ペイシェンス、待っていたぞ」
相変わらず2人って昼食を食べているのかなって早さだよ。
「スライムの粉を加工するのは前から考えられているのだが、タイヤに出来るほどの強度は無いのだ」
私はスライムを見た事が無いし、スライム粉も初めてだよ。
「カエサル部長、スライム粉で何を作られているのですか?」
2人は「トイレには必要だと聞いたぞ」と何故かはにかみながら教えてくれた。私が女の子だからトイレとか言わないのがマナーみたいだね。
スライム粉に水を加えたら、もちっとした感じになる。
「触っても大丈夫ですか?」
何を聞いているのか分からないって顔で頷かれたよ。だって異世界ものではスライムの酸で溶けたりしてるじゃん。
大丈夫そうなので触ってみる。ああ、これはスライムだわ。当たり前か!
「でも、引っ張ったら千切れますね」
もちもちしている弾力はゴムみたいなんだけど、強度が足りない。
「スライム粉に炭の粉を混ぜたらどうでしょう?」
ゴムが黒かったから思いついただけだよ。
「やってみよう!」
炭は窯の下にあるから取り出して、生活魔法で粉にする。
「ペイシェンスの生活魔法は便利だな。それに薬学と薬草学もほぼ終了証書を貰ったも同然だし……」
そう言えばカエサル部長は薬草学のテストを受けた筈だ。
「カエサル部長、薬草学の座学はどんな感じなのですか? マキアス先生は教科書を読んでおけば良いなんて言われたのですが、不安だから座学も受けるつもりです」
ベンジャミンが爆笑した。
「カエサル様は座学までたどりついてないのだ!」
「お前もきっとたどり着かないぞ!」
うん、2人とも薬草を放ったらかして錬金術にのめり込んでいるから枯らすんだよ。
「ペイシェンス、聞いておいてやるよ。もし、教科書を読むだけで大丈夫なら時間が空くからな」
有り難い錬金術ラブなカエサル部長の言葉だよ。
「お願いします」と頼んでおこう。
スライム粉と炭の粉の混ぜる割合を色々と作る。こんな所はカエサル部長もベンジャミンも手を抜かない。
「うん、なかなか良いんじゃ無いかな?」
強度は出たけど、タイヤにするには固すぎる。
「ブレーキパッドには良いかもしれませんわ」
なかなかタイヤに向いたスライム粉と炭の粉の分量が決まらない。これは2人に任せよう。失敗作の炭の粉の少ないふわふわのスライムを手に持つ。ぷにぷにの感触が気持ち良い。
「このぷにぷにのスライムをクッションにしたら良いのでは?」
私はサドルの皮のカバーの下にスライムを挟むと良いかもと、そちらをあれこれ試す。
「カエサル部長、これって良くないですか? あっ、馬車のクッションにも良いかも!」
ロマノの中ぐらいなら大丈夫だけど、夏の離宮に行った時はお尻が痛くなったんだよ。皮にスライムを入れたクッションが有れば良いんじゃ無いかな?
皮は十分に有るから、クッションを縫ってスライムをぎゅうぎゅうに詰め込む。
椅子の上にクッションを置いて座ってみる。うん、良さそう。後は耐久性のテストだね!
「サドルはこれで良いだろうが、ペイシェンス、お前は商品開発が上手いな。そのクッション、遠くの領地と行き来する貴族に売れそうだ」
「でも、スライムの耐久性が問題ですわ」
カエサル部長は少し考えて笑う。
「スライム粉はそんなに高価では無い。なんせ庶民のトイレに使うぐらいだからな。だから嵩が低くなったら入れ替えたら良いのではないか?」
「あっ、このぷにぷにスライムを薄い布で包んだのを入れ替え用に販売しても良いですね」
「お前って変だな。普通知っている事を知らなかったりするのに、アイデアは凄い」
ベンジャミンに褒められたけど、私は異世界の庶民の生活を知らな過ぎるね。オマルを一々回収して下水口まで持って行くの大変そうだ。だから、スライム粉で固めて処理しているんだ。まぁ、それでも最終的には下水口まで持って行かなきゃいけないんだね。
魔道具のトイレは下水口まで排水するみたいだけど、設置する時は下水から管を通したり工事が必要だよね。でも、トイレは絶対に普及させたい。
なんて考えてもタイヤは出来ない。
「ベンジャミン様、薬草学の時間ですよ」
錬金術クラブに未練タラタラのベンジャミンを追い出す。
「ペイシェンスは良いのか?」
カエサル部長は不思議そうな顔で残った私を見ている。
「ええ、薬草学の実習は合格しましたから」
凄く羨ましそうだ。
「カエサル部長は他の選択科目で良いのでは無いですか?」
うん、適性が無いんじゃ無いかな? 魔力的な適性ではなく、薬草への興味や愛情が無いってところでさ。
「いや、魔法使いコースを取る時に全科目を制覇すると決めたのだ!」
なら頑張ってとしか言えないね。
この週はタイヤ作りに明け暮れた。何だかわちゃわちゃした週になったよ。
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