第29話 クラブ活動とは

 押しが弱いとは前世で感じた事は無かったのに、異世界では押しに弱いみたいだ。ペイシェンスの犠牲精神に感化されたのだろうか? いや、ペイシェンスは結構頑固な所もある。異世界の人が押しが強すぎるのか? なんて考えながら、音楽クラブにマーガレット王女と向かう。

「もうペイシェンスが抜けるから、今日は不味い昼食だったわ」

 今日の料理はじゃがいもの茹でたのだと言われた。何を失敗して不味かったのか、聞きたくないので、相槌だけ打っておく。

「大変でしたね」

「そう、大変だったの。それに習字も疲れたし、魔法実技も散々だったわ」

 お腹が空いているから愚痴っぽいのかも。今は錬金術クラブに入った事は言わない方が良さそうだ。

 音楽クラブで、機嫌がなおったら良いなと考えていた。私はすっかりアルバート部長とカエサルが同級生だという事を忘れていた。うん、2人とも5年Aクラスなんだよね。

「ペイシェンス、何故、あんな変人の巣の錬金術クラブに入ったのだ」

 ああ、最悪な展開だよ。

「ペイシェンス、本当なの?」

 元々、機嫌が良く無かったマーガレット王女の機嫌が急降下する。

「ええ、後でお話ししようと思っていました」

 カエサル部長め、喋ったんだね。それもアルバート部長に! お陰で冷や汗をかく羽目になったよ。ぷんぷん。もっと大人かと思っていたのに、最低!

「そんな暇があったら新曲を作るべきなのに!」

 それはアルバート部長の勝手な言い分だ。

「もう私は数曲作っていますわ。もう十分だと思います」

 つい反撃したら、マーガレット王女も参戦して言いたい放題に非難された。亀になった気分で堪える。何か反論したら、倍返し、いや10倍返しされそうだ。

「アルバート部長、それより部長会議はどうなったのだ?」

 おお、ルパート先輩、良い人だぁ! 音楽クラブの良心だよ。

「あっ、それもあったんだ。騎士クラブには、魔法クラブと乗馬クラブから二度と命令は受けないと発言があった。ハモンド部長は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、他の部長が全員、それを支持したから受け入れたさ。それはどうでも良いのだ」

 良くないと思うが、騎士クラブの事は騎士クラブで解決するしかない。キース王子が巻き込まれ無ければ、私は騎士クラブに関心は無いよ。

「青葉祭も議題に上がったのだが、グリークラブが増えたからと、音楽クラブの発表時間を減らすなんて、阿呆のルーファス学生会長が言い出したのだ」

「まぁ、酷いわ。グリークラブはコーラスクラブが内部分裂したクラブではありませんか。コーラスクラブの時間を半分にすれば良いのですわ」

 マーガレット王女は激怒だ。クラブメンバーも怒っている。毎度の事で私は慣れているけど、サミュエルは驚いているんじゃないかな?

「でも、コーラスクラブよりグリークラブの方がまだマシですよ。私のクラスにもグリークラブに入った学生がいるけど、コーラスクラブとクラブハウスを共有している状態だし、それもコーラスクラブの使っていない時間しか使えないそうですよ。気の毒です」

 サミュエルもズッポリと音楽クラブに染まってきたね。お姉ちゃん、少し心配だよ。

「そうだ、ペイシェンス。前に良い事を言っていたな。グリークラブに新曲を提供すれば良いって」

 あっ、忘れてなかったんだ。

「グリークラブの部長とは知り合いなのだ。マークス・ランバートはペイシェンスが新曲を提供すると言ったら喜ぶぞ。音楽クラブの新曲を褒めていたからな」

 勝手に話を進めないで欲しいよ。

「いえ、それは一般的な感想として言ったまでです」

 コーラスクラブと揉めているグリークラブに新曲を提供したりしたら、揉め事に頭を突っ込む事になるよ。

「そうか、グリークラブでも新曲を発表できる事になるな。それなら時間も少なくならないか。それと演劇クラブの時間も減らしたい。ペイシェンス、グリークラブにはオペラを作ってやれ。それなら演劇と被るから、彼方からも時間を取れば良いのだ」

 えっ、オペラ? 前世でオペラなんか観たこと無いよ。ミュージカルでは駄目なのかな? あっ、私って押しに弱い!

「そんなの無理ですわ。だってハノンの曲しか作った事ありませんもの。グリークラブは歌が必要でしょう」

 アルバート部長は、ほんの少し黙って考える。

「歌詞はまかせろ。ペイシェンスの曲に歌詞はつけてやる。それとリュートへの編曲は従兄弟のサミュエルに任せる。それとダニエルもリュートが上手いからサブにつけてやる。うん、クラウスもバルディシュもつけてやるぞ。これなら大丈夫だろう」

 うっ、ショタコン天国パラダイスだ! まさかアルバート部長は私の趣味を見抜いているの?

「面白そうね。私も自分の新曲はできていますから、手伝いますわ」

 マーガレット王女が手伝うと言うのに新入部員が断れる訳がない。

「マーガレット王女、私で良かったら手伝います」

 サミュエル、私の手伝いだよ。分かっている? ああ、顔が真っ赤だ。マーガレット王女に憧れているんだね。綺麗だもん。

「私も微力ながらお手伝い致します」

 ダニエルが手伝うならと、バルバッシュもクラウスも手伝うと言い出す。リーダーなんだから冷静さを保って欲しいけど、ダニエルもマーガレット王女に礼を言われて頬を染めている。ショタにめっぽう強いマーガレット王女だ。

「ペイシェンス、覚悟を決めなさい。皆がグリークラブに協力しようと言っているのよ。貴女はコーラスクラブの圧政に耐えきれず立ったグリークラブに心は動かされないの? それで音楽を愛していると言えるの?」

 音楽は好きだけど、愛していると言った事は一度もありません。なんて言っても無駄なんだね。

「分かりました。できるかどうか分かりませんが、やってみます。作詞はアルバート部長にお願いしますね。それは無理ですから」

 これで錬金術クラブに入ったのを許して貰えるなら、なんとかしよう。前世のミュージカル、覚えている曲を繋げてみるしかない。ラブソングも良いかもしれない。

「では、早速作るのだ。私はマークスに話をつけておくからな」

 そこからは各自の新曲を発表して解散した。疲れたよ。

「ねぇ、ペイシェンス。引き受けたのは何か思いついたからでしょ。さぁ、弾いてみて」

「いえ、まだフレーズが浮かんだだけですから」と逃げようとしたが許して貰えなかった。

 夕食までに『ロミオとジュリエット』の映画の主題歌や『イーストサイドストーリー』のロマンチックな歌などを思い出しながら弾く。

「やはりペイシェンスは素晴らしいわ」

 褒めて貰えるのは嬉しいが、まだまだ曲は必要だ。うん、アルバート部長に歌詞は丸投げできて良かったよ。

 やっぱり私は押しに弱い女なのかもしれない。作詞は免れたって喜んでいるなんて、馬鹿だよ。今度からはNOと言える女になろう。

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