第50話 王都ロマノの南門

「ナシウス、ヘンリー、元気でね」

 王宮からの迎えの馬車から見送りの弟達に手を振る。メアリーに叱られるので、窓から身は乗り出せないので、すぐに見えなくなる。

「皆様の馬車とは南門で合流する予定です」

 この馬車にはシャーロット女官も乗っていた。でも、ビクトリア王妃様やマーガレット王女が一緒じゃないから気楽だ。

「私は王都から出たことがないのです」

 ペイシェンスの記憶にも王都以外は無い。というか、母親の葬式で教会に行った以外、屋敷の外に出たことがない。本当の箱入り娘だ。

「では、海も見た事が無いのですね。楽しみですね」

 そう、楽しみだ! 海に近いなら魚も美味しいだろう。弟達と別れるぐらいなのだから、少しぐらい楽しみがなくてはやってられないよ。弟達に綺麗な貝殻を拾ってお土産にしようなどと考えているうちに、貴族街を抜けたようだ。

「メアリー、店があるわ」

 何軒も店があるが、朝早いので開店はしてない。でも、服や小物の店らしい看板を見つけた。

「お嬢様、ロマノにはあらゆる店がございますよ。さぁ、キチンとお座り下さい」

 窓に顔を近づけただけで、メアリーに注意された。ビクトリア王妃様と一緒に夏の離宮に行くので、メアリーのマナーチェックが厳しくなっている。共犯者の時は緩くなっていたのにさぁ。

 段々と家が小さくなり、少しゴミゴミした雰囲気になる。

「あっ、屋台があるわ」

 朝早くから働く人の為に屋台が開いていた。

「あれは冒険者達ですわ。ギルドで仕事を受けて、腹ごしらえしてから門を出るのでしょう」

 冒険者ギルド! 異世界らしいワードだよ。何か掃除とかのバイトないかな。でも、店すら行けないのに、遠いよ。

「シャーロット様は色々とご存知なのですね」

 本当にペイシェンスは世間知らずだし、私も異世界については学園で習った事しか知らない。

「一応は女官試験に合格しましたから」

 女官試験ってあるんだね。チェックしとこう。異世界での女性の働き場所は少ない感じだ。特に、貴族の令嬢は結婚するのが普通みたい。グレンジャー家には持参金は無い。まぁ、持参金が無くても嫁にはいけるよ。例えば、貴族の名前が欲しい成金とか、前妻に死なれて子供を育てる女手が欲しいヤモメとかね。私もペイシェンスも嫌だ!

「あのう、文官コースを選択したいのですが、何か有利になりますか?」

 折角、現役の女官と同じ馬車なのだ。質問しておこう!

「まぁ、文官コースを選択されるのですか? 私は家政コースを選択して、法律と行政などの単位を取りました。文官コースを卒業した学生は下級官僚試験を受けて、官僚になりますが、女性はどうなのでしょう。女官試験には合格できるでしょうが」

 女性の官僚はいないようだ。私ががっかりしていると、シャーロットさんが励ましてくれた。

「でも、女性の騎士もいらっしゃいます。特に、女性王族の警護などで活躍されています。だから、今は女性の官僚はいなくても諦めないで下さい」

 そんな話をしているうちに南門に着いたようだ。まだ王宮の馬車は着いてないようだけど、何人もの騎士達が既に整列していた。

「あら、ユージーヌ卿ですわ。先程、話していた女性騎士ですの」

 いつもは冷静なシャーロットさんが浮ついた感じになるのも無理はない。ユージーヌ卿は、とっても素敵だった。前世の少女歌劇団のトップスターのように輝いている。

「とても素敵な方ですね」

「そうでしょ、それにとてもお強いのです。騎士クラブの試合で優勝されたのですよ」

 騎士コースを選ばれたのだと、騎士だから当たり前だけど驚いた。側に大人しく立っている馬も捕まえられない私には無理だね。

「ユージーヌ卿がいらしているなら、王妃様方もすぐにお着きになりますわ」

 シャーロットに言われ、馬車から降りて到着を待つ。

「南門って大きいのね」

 高さもだが、幅が凄い。

『きょろきょろしないで下さい』

 メアリーが無言で袖を引っ張る。昨日やっと出来上がった薄いグリーンの夏らしいワンピースだ。

 襟や袖口や裾には、生活魔法で作った白いレースの縁飾りを付けてある。ハンカチと違って縫い付けるのが長くて大変だった。特にスカートの裾は終わりが来るのか不安になったよ。だって少しペチコートで膨らませているから、裾が凄く長かったんだ。

 髪にもメアリーが共布で作ったリボンを編み込んでいる。メアリーが朝から気合を入れて身支度してくれたんだよ。つまり、凄く朝早くから起こされたの。真面目に突っ立っているの、退屈で少し眠い。かなり待っているんだけど、まだかな?

「少し遅れたようですが、お見えになったようですわ」

 騎士に先導された馬車が何台も連なっている。私、来なくて良いんじゃない? って思うほどの馬車行列だ。

 先頭の馬車が止まったので、お辞儀をしたまま、頭を上げずに待つ。

「ペイシェンス、よく来たわね。さぁ、出発しなさい」

 これで出発かと思ったが、マーガレット王女が王妃様にねだっている。

「私はペイシェンスと一緒に乗りたいわ」

 えっ、私はシャーロット女官とメアリーとが気楽で良いのに。

「仕方ないわね。側仕えと一緒に乗りたいのなら良いでしょう」

 マーガレット王女がお淑やかに降りて来た。

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