第36話 春は忙しい!

 週末に弟達と温室で苺狩りをした。芽が出た時から、藁で保護したり、手をかけていたので、真っ赤な宝石みたいな苺がなって満足だ。それに、ナシウスとヘンリーの「美味しい」って叫んでる姿を見れて嬉しいよ。マジ可愛い!

 前のパンケーキでシュガーハイにさせてしまった反省から、苺もいっぺんに多くは食べさせないよ。お腹が痛くなったら困るからね。

「5粒までですよ。いっぺんに食べてはいけません。ほら、ヘンリー籠に入れてね。後で美味しい物を作ってあげますからね」

 まだ欲しいって顔に書いてあるけど、駄目だよ。それに苺は夕食のデザートにするだけじゃなく、ジャムにしようと思っているんだ。保存食品は必要だもの。

 冬に異世界に来たから、本当に辛かった。今年の冬までには、いっぱい保存食を確保しておきたい。

 あれから何度か金曜にマーガレット王女が王宮に帰る馬車に乗せられて、ビクトリア王妃様の前でハノンを弾いていたんだ。神経が擦り減るから勘弁して欲しいけど、帰りには籠にいっぱい卵やバターや砂糖などが入ったのが貰えるから、まぁ、良いかって感じだよ。それに馬のレンタル代が1回浮くしね。これ大事!

 貰った卵やバターでスイーツを作る時もあるけど、そのまま料理して貰ったりもするよ。で、貯めた砂糖でジャムを作ろうと計画していたんだ。保存食を食料保存庫パントリーいっぱいに並べたいな。

 春になったから、裏庭に畑も作るよ。ペイシェンスが表の庭の薔薇の手入れがどうのこうのと騒いでいるけど、後回しだね。二度と飢えたくないんだ。あっ、昔見た南北戦争の映画を思い出すよ。主人公が土を握り締めて『二度と家族を飢えさせたりしない』と誓うんだ。私も同意見だ。

『二度とグレンジャー家の皆んなを飢えさせたりしない!』家族だけじゃなく、貧乏なグレンジャーに仕えてくれている人達もだよ。

 裏庭は放置されて、草ぼうぼうだ。表の庭はジョージが一応は手入れして、恥ずかしくない様にしていたけど、1人では無理だよね。

「草よ、抜けろ!」

 こんな呪文で良いか不安になるけど、草が抜けて茶色い地面になるイメージで唱える。あらまぁ、綺麗な地面になった。草は一箇所に纏っている。コンポストとか作れば肥料もできそうだけど、そこはジョージに任せよう。

 落ちていた木の枝を拾い、長方形を地面に書く。裏庭の3分の2ぐらいを畑にする予定だ。後の塀際には元々の木も生えているし、その手前は果樹を植えたい。林檎や梨とかサクランボとか、オレンジ系は寒いから無理かもね。苗や種を買うお金は内職で貯めたよ。でも、来年は内職する暇あるか不安だ。中等科で2コース取るのは忙しそうだもん。

「もっとお金を稼ぐ方法は無いかしら?」

 異世界に来てからお金のことばかり考えている気がする。そっか前世では、親が働いて育ててくれていたんだ。お金の苦労なんかした事なかった。それなのに先に死んじゃったんだね。ごめんね。

 でも、家には兄と姉がいるし、2人とも結婚して孫もいる。私は末っ子で弟が欲しくてショタコンだったんだ。

 あれっ? 私が選ばれたのって居なくなっても実害がないから? それとショタコンだから弟達を可愛がるの分かっていたから? この異世界には魔物はいるみたいだけど、それを討伐する為に異世界に来たとは思えない。だって生活魔法だけだもん。

 この貧乏なグレンジャー家を助ける為にだけ異世界に来たのかな? やっぱり父親が無職なのが悪い。私の家族は悲しんだと思うもの。ぷんぷん

 腹を立てても、どうしようもない。私で出来ることをしなきゃ。

「畝になれ!」

 ここには豆と芋と玉ねぎと人参などの基礎野菜を植えよう。温室は苺が終わったら、夏野菜だ。トマトとかソースにして瓶詰めにしたい。キャベツの酢漬けも保存食になる。これから忙しくなるね。

 でも、保存瓶や酢などの調味料を買うにもお金がいるんだよ。やはり靴下のかけつぎだけでは、低賃金過ぎる。ワイヤットに直談判しよう!

「美術も終了証書を貰ったの。でも、もっと絵を描きたいわ。ティーセットとかに細密画を描くのとか楽しそうじゃ無いかしら?」

 ワイヤットは、少し考えている様だったが、承知してくれた。でも、これは学園では無理だ。靴下は鞄に入れて持って行けたけど、陶器は重たいもの。

 やはり、もっと金になる物を見つけなきゃ。屋根裏で古びた物を手に取って、何かできないか考える。

「カーテンはいっぱいあるから、ベッドカバーにして売ろうかしら? それより古いドレス、新品にしたら売れるかも?」

 古いドレスは、私がもう少し大きくなった時に、修復し、縫い直して着るかもしれない。今は、学園の制服でほとんど大丈夫だけど、卒業したら必要になるだろう。親戚のお古は子ども服だけだ。そりゃ、そうだよね。子ども服は成長したら着れなくなるからくれたんだ。

「このドレスとかはお母様のでは無いわね。もっと昔の物だわ」

 王宮で見かけるドレスとは違うデザインで、もっとふっくらと膨らんでいる。一昔前のドレスだけど、生地は沢山使ってある。

 その中のレースがいっぱいのドレスを手に持ち考える。

「レースって高いわよね。これでハンカチとか作れば、高く売れるのでは?」

 マーガレット王女とか学友とかのハンカチにはレースが縁取りに付いている。私のには付いてない。でも、この古いドレスのレースを利用すれば、何とかなりそうだ。

 とは言え、ドレスのレースはハンカチの縁取り用には出来ていない。大柄だし、細長く無い。でも、糸は同じだよね。

「糸になれ!」一旦、糸にしてみる。

「細いレース編みになれ!」マーガレット王女のハンカチのレース編の縁飾りを思い浮かべながら唱える。

「あっ、結構疲れた」

 クルクルと何十メートルものレース編みの縁飾りができた。畑の畝を作るより何倍も疲れた。きっと細かい作業だからだ。空箱を綺麗にして、それにレースを丁寧に巻き付けて部屋に戻る。後は共犯者のメアリーを巻き込んで、レースの縁飾りの付いたハンカチを作るだけだ。

 レースの縁飾り付きハンカチは、靴下のかけつぎより儲けになった。それに、これなら寮でも内職できる。やったね!

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