第34話 縄跳びで健康増進

 お茶の時間が終わったけど、ほぼ初めてのスイーツにヘンリーが興奮してしまった。ペイシェンスやナシウスの幼い頃は、まだ普通の貴族の暮らしをしていたが、ヘンリーが産まれてすぐに免職になり、貧乏生活しか知らないのだ。砂糖も初めて食べたのかもしれない。

「ヘンリー、うるさいよ」

 子供部屋を駆け回るヘンリーに、読書中のナシウスが注意するけど、爆走は止まらない。

「シュガーハイになっているんだわ」

 日本ではあまり聞かないが、米国のファミリードラマとかでは夜にお菓子を食べて騒いで眠らないとかのシーンがあった。血糖値が急激に上がってハイになっているのだ。このままでは夜も眠れないかも。

 そうだ、天気の悪い日も子供部屋で運動できるの良い物がある。それにあれなら屋敷にある物だけで作れる。

 ジョージに取手を6つ作って貰い縄跳を3本作った。走り回っているヘンリーと本ばかり読んでいるナシウスを連れて庭に出る。

「お姉様、これは何ですか?」

「遊び道具なの?」

 異世界で初の縄跳だ。ペイシェンスはもちろんした事はない。私だって中学からしてない。

「こうやって跳ぶのよ」

 でも、一度覚えたことは忘れていなかった。

「先ずは普通の飛び方よ。そしてこれは走り跳び。クロス跳び。二重跳びよ」

 はぁはぁ、ペイシェンスにも運動が必要だ。こんな体力の無さだから肺炎で死んだのかも。寒さもあるけどね。

「ヘンリー上手よ。ナシウス、諦めないで練習すればできるようになるわ」

 多分、ヘンリーは身体強化の魔法だと感じる。ナシウスは父親と同じ風ではないかな? お金を貯めて、早く能力判定を受けさせたい。二人が寒風にも負けず縄跳の練習を続けるのを見ていたいが、私はやる事がある。他のスイーツを作るのだ。

 エバにクッキーとパウンドケーキのレシピを書いて渡す。

「わからない所があったら訊いてね」

 メアリーは私が火に近づくのを許してくれないので、レシピを渡して見ているだけだ。

 夕食のデザートにはパウンドケーキを薄く切ったのが出た。エバは薄く切るのが上手いね。まぁ、ヘンリーが寝る前にシュガーハイになっても困るから、このくらいの方が良いのかも? 


「日曜になったわ。もう寮に帰らなくてはいけないのね」

 朝からどよどよだ。でも、気分を変えて、メアリーに買って来てもらった苺の種を弟達とまく。

「お姉様、苺は春に採れるのでは?」

 うん、ヘンリーは賢いね。

「ええ、その通りですよ。でも、温室ですからきっと育つと思いますよ」

「苺って美味しいの?」

「ヘンリー、食べたことあるでしょ?」

 びっくりした。

「多分、幼かったので忘れたのでしょう。この数年は食べていませんから」

 そうか、果物も後回しだよね。

「苺ができたら、一緒に摘みましょうね」

 弟達と楽しい時間を過ごしているのに、メアリーが呼びに来た。

「お嬢様、王宮から女官が来られています。ああ、泥が付いているじゃないですか」

 慌てているメアリーに「大丈夫よ。綺麗になれ!」と生活魔法を使って見せる。

「良かったですわ。応接室にお待たせしています。お急ぎ下さい」

 火の気の無い応接室で待たせているのかと急いだが、ワイヤットがジョージに火を起こさせていた。まだ寒いけどね。

「お待たせしました。ペイシェンス・グレンジャーです」

 急いでいても令嬢はそれを知られてはいけない。王宮からの女官など何度も迎えている感じで挨拶する。

「私はシャーロット・エバンズ。王宮に勤める女官です。今日は王妃様からの贈り物を届けに参りました」

 贈り物? 籠いっぱいに卵や砂糖なんかを貰ったけど?

「これをお読み下さい」

 渡された手紙には『ハノンを練習して、また新しい曲を聞かせて下さい』と書いてあった。うっ、また王宮へ行かなきゃいけないのだと思うと落ち込むよ。

「どこにハノンを置きましょう?」

 女官の質問に驚く。

「えっ? ハノンの置く場所ですか?」

「ええ、ビクトリア王妃様の手紙に書いてありませんでしたでしょうか。ペイシェンス様のハノンの演奏が気に入られて、練習するようにと仰っておられました」

 私が困惑している間に執事のワイヤットが王宮の召使い達が運んできたハノンを応接室の窓際に設置する様に指示を出している。ペイシェンスの記憶で、前はそこにハノンが置いてあった場所だとわかった。流石、王妃様が下さったハノンは美しい。鍵盤部分は変わらないが、それを支える脚には精密な彫刻が施してある。

「王妃様にお礼の手紙を書きます。少しお待ち下さい」

 自分の部屋で、ペイシェンスのマナー任せでお礼の手紙を書き、女官に持って帰って貰う。

「これでハノンは手に入ったけど……ズッポリと深みに嵌った感じだわ」

 マーガレット王女の側仕えを辞められないのではと不安になった。それに、何故、家にハノンが無いのを王妃が知っていたのか恐ろしくなる。

「なるべく王族には関わりたく無いと思っていたのに……」

 先のことを考えてもなるようにしかならない。だって異世界に来るとは考えてもいなかったのだ。

「さぁ、ナシウス、ヘンリー、ハノンの練習をしましょう」

 二人に音階を教えてたりして気分なおしする。そうでもしないと寮での1週間耐えられない。

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