第20話 とんだ間抜けだ

 金曜の放課後、担任のヘイガン先生に職員室に呼び出された。

「月曜に返す歴史のテストも合格だ。なので、ペイシェンス・グレンジャーは2年に飛び級だ。月曜から2年Aクラスで授業を受けなさい。あっ、魔法の実技はジェファーソン先生が終了証書を出してくれたから、もう免除だ」

 あれっ? 私は月曜と金曜を休みたくて飛び級していたんじゃなかったかしら?

「ヘイガン先生、2年Aクラスのスケジュール表を下さい」

 ヘイガン先生にスケジュール表を貰い真剣に眺めていた。

「あれっ、今のと同じ?」

「当たり前だ。初等科Aクラスは全部同じスケジュールだ。そうしなくては、飛び級した学生が困るじゃないか。中等科になれば、単位制度になるからこんな配慮は必要なくなる。スケジュールを組むのがどれ程大変か分かるか?」

 そんな苦労は分かりません。

「つまりBクラスもCクラスと3学年、同じスケジュールなのですね」

 ヘイガン先生は苦い顔をする。

「飛び級するのはAクラスの学生だけだ。2年からは成績順でクラス分けだからな。保護者の突き上げが煩くて困っているのさ」

 実力主義でクラス分けをすると、Bクラスに落ちた上級貴族の親が文句を言うんだね。なんて世間話を聞いていたら、ショッキングな言葉に打ちのめされた。

「あっ、ペイシェンス。飛び級は1年に1度しかできないぞ。魔法の実技のように終了証書が貰えたら別だけどな」

「ええっ……家に帰りたいから頑張ったのに……。先生、学年を飛び級しなくて良いです。私は1年生で良いです。授業の内容は理解できているのだから、学園にいなくて良いですよね」

 ヘイガン先生の雷が落ちた。

「馬鹿なことを言うな! 飛び級の制度は、習得済みの授業を受けるのが時間の無駄だからだけでなく、より学生の能力を伸ばすのが目的だ。早く初等科を終え、中等科を終えたら、大学に進んでも良いのだぞ」

 この世界での女子の結婚は早い。適齢期は16歳から18歳ぐらいだ。なので、親は大学になんか娘を行かせない。でも、飛び級で早く中等科を卒業すれば、適齢期を逃す事なく学べるとヘイガン先生は言いたいのだろう。家に大学に行くお金がないのは知らないのだ。もし、あったとしたら頭の良いナシウスに行かせてあげたいし、ヘンリーもだ。

「そうだ、2年Aクラスの担任を紹介しよう」

 私が黙っているので、ヘイガン先生もグレンジャー家の事情を思い出し、気まずくなったのか話を変える。

「ケプナー先生、こちらが月曜から2年に飛び級するペイシェンス・グレンジャーです」

 ケプナー先生は少し丸っぽい体型のおじ様だった。

「おお、職員室で噂のペイシェンスだね。私はユンガス・ケプナー。2年に飛び級して困ったことが有れば、相談に乗るよ」

 おっとりとした先生みたいで、ホッとする。

「ペイシェンス・グレンジャーです。宜しくお願い致します。あのう、教科書が無いのですが、どうしたら良いのでしょう?」

 2年の教科書を貰って部屋に帰った。

「とんだ間抜けだわ!」

 教科書をドサッ机に置いて、ずどんと落ちこむ。屋敷に金曜と月曜も帰る計画は、最初から無理だったのだ。

「来年は3年、飛び級したら中等科になれるのかしら? しまった、ケプナー先生に質問しておけば良かった」

 中等科になれるのなら、2年早く卒業できる。もしかして中等科2年で飛び級できたら、王立学園を3年で卒業できるかもしれない。3年後にはナシウスが入学しているから、家にはヘンリーだけが残るので心配だったのだ。なんて皮算用する前に中等科の飛び級があるかどうか調べないといけない。初等科とは違うシステムみたいだ。単位制だとかヘイガン先生は言っていたし。

「それと、数学と国語と歴史は終了証書が欲しいわ」

 古典は今のところペイシェンス頼みだけど、数学、国語、歴史は勉強すれば初等科はどうにかなりそうだ。魔法学は丸暗記はできても、終了証書が出るレベルか不安だ。これは2年で授業を受けてみるしかないよ。

「古典と魔法学を頑張って、早期卒業を目指すわ。待っててねナシウス、ヘンリー」

 王立学園もさほど嫌いではない。なんたってキース王子やラルフやヒューゴも見た目はバッチリ可愛い。

 キース王子なんか金髪に緑の目が生意気そうで、見ているだけで幸せになれるレベルだ。

 ラルフ君も大人ぶった態度が萌える。茶髪に青い目、将来凄いハンサムになりそうな整った顔つきをしている。

 ヒューゴ君も、ちょっと考えなしの無鉄砲なところが胸キュンだよ。ラルフ君ほどではないけど、よく見ると整った顔をしているんだよね。赤毛に青い目がキュートだよ。

 なんてショタコン天国に萌えていますが、キース王子と取り巻きなので、近づきませんよ。変態ではありませんから、10歳の男子に手を出す気もありません! それに家にはマジ天使がいますから。

 私は落ち込んでいたのも忘れて「明日には弟達エンジェルに会えるのね」と浮かれていた。

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