今日から、魔王を育てます。
悠
ある男の英雄譚
第1話 これは、『英雄譚』
夢を見た。
なんてことはない夢。
おれの視界には笑顔で走り回る子供たち。
そんな我が子をいさめる親。
周りはそんないつもの日常を楽しげに眺めている。
そんな、どこの街にでも、あるような日常の夢。
じゃあなんでそんなことを語るのかって?
それは、これがいつかおれが見る『未来』の話だからさ。
いわゆる、予知夢。正確にはおれの持つ数々のスキル一つである『神託』というもなんだろう。
人生で一度しか発動しないがその未来は必ず当たる、超絶レアスキル。
それも、眠っている間なら、時間軸を好きなだけ飛ばして見れるんだと。
魔王討伐の旅に出て、魔王を倒しおれは『英雄』になった。
そう。おれの勇者としての旅は1年前にとっくに終わっていた。
・・・そう終わっていたからこそ、「今」なんだろう。
「・・・ああ。そうか。そうなんだな。おれは・・・」
数えきれないほどの後悔と、憐れなほどの思い違い。それと、たった一つだけの正解。
――こうして、魔王を倒し、英雄になった男の物語は幕を下ろした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「人間風情がよくぞここまでたどり着いた!だが、貴様の快進撃もここまでだ!なぜならば貴様の目の前にいるのは我。魔王様直属の魔将軍であり「
「・・・その長ったらしい前説はどうにかならないのか?どいつもこいつも、バカみたいに。どうせ死んでいくゴミの名前を聞かされる俺の身にもなってくれ・・・」
目の前に立つ魔族を見ながら、自分でも驚くほど大きなため息をつく。
「
魔王直属の兵士であり、その力は並の人間が千人がかりでも敵わないほどなのだそうだ。
魔王軍の中でも、コイツら以上の強さと階級を持つのは「魔大臣」と呼ばれる二人の魔族と魔王のみ。・・・まあすでに目の前のこいつを含めても、7人しかいないのだから「九刃」と言うのは間違いだがな。
「よくぞ吠えた、人間風情が!!その度胸への称賛だ!!我が絶技にてチリになるがいい!!”デモンズ・フレイム”!!」
嫌にデカい声と共に吐き出された火球。その熱は、触れていないはずの地面を溶かし、その軌道上の全てを燃やしつくのだろう。・・・相手が、俺じゃなければな。
「・・・大道芸か?くだらない。」
腰に携えた剣を一振り。目の前の火球は霧散し、ナンタラ=カンタラとかいう魔族をも横薙ぎに両断する。
「ガっ???!ハグッ、、!!ば、、、ばか、、な、、??き、さま、、、、いったい、なに、、を??」
「真っ二つになっても息があるとはな。さすがは虫けらだ。いつもその生命力だけには目を見張るよ。」
地に伏した上半身。その頭部に一突き。
幾度かの痙攣の後、魔族は息絶えた。
「はぁ、、、。これで魔王軍最強クラスとはな。こんなことならもっと早く旅に出るんだった。」
リンゴを齧りながら横たわる虫けらの山に腰かける。
遠くを眺めながらぼんやりしていると、数十人規模の足跡と困惑の声が瓦礫の陰から現れ始めた。
「こ、これは、、??いったい何が起きたの??」
地下牢に幽閉されていた他種族の捕虜たち、数十人。
人質に取られると面倒なので、牢と枷を切ったんだった。
「ああ。無事だったか、捕虜の皆さん。人間に、人魚に、巨人。果てはエルフまでいたのか。それも老若男女より取り見取りだな。・・・安心しろ。この城にいた魔族は間違いなく全員倒した。逃げるなりなんなり好きにするといい。」
「・・・全員?この城には1000を超える魔王軍がいたはずじゃ、、、?」
あたりを見渡すエルフの女性。ぐるりと一周したその表情は困惑と喜び。そして、なぜか恐怖も織り交ぜながらこちらへ帰ってきた。
「・・・あ、ありがとうございます。わ、私たちは自力で国に返れますので・・・」
「?当たり前だろう。なぜおれがお前たちを送ってやるみたいな空気が出ているんだ?俺はこの先も忙しいんだ。できれば、帰り道にまた捕まった、なんて無駄なことにはならないでくれることを願ってるよ。」
ぎこちないおじぎの後、捕虜だった者たちは方々へと逃げ帰っていく。
面倒は見ないが、そこまで焦る必要も、もう無いだろうに。
「よくわからん連中だ。まあ、中には長らく捕まっていた者もいるんだろう。早く帰りたいのかもしれないな。」
リンゴを飲み込み、積みあがった魔族の山から腰を上げる。
「・・・さて。食料も底をついたな。まずはいったん街にでも寄るか。この辺りはちょうど人間族の領域。そういう意味でもちょうどいい。」
これは、俺、ユウ=シャルナークが・・・魔王を倒し、英雄を目指す物語。
そう、『英雄譚』、というやつだ。
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