第10話
(※アーノルド視点)
レイチェルが万能薬の開発に携わっていたなんて知らなかった。
だが、新聞の記事に書かれていたことが本当なら、非常に喜ばしいことだ。
万能薬が完成すれば、ナターシャも自由な生活にもどれる。
それは、私が長年待ち望んでいたことでもあった。
彼女が事故に遭ったことを、私は長年自分の責任のように感じていた。
もちろん、そうでないと頭ではわかっている。
しかし、私が早くナターシャとの関係を進めていれば、あんなことにはならなかったかもしれないと思ってしまうのだ。
彼女の体が万能薬で治れば、少しはその気持ちも晴れるかもしれない。
私は、レイチェルが万能薬を完成させることに期待していた。
しかし、当のナターシャはというと、なぜだかあまり嬉しそうではない。
いったい、どうしてだろう?
やはり、不安なのだろうか?
それも、当然だ。
万能薬といっても、それは世界で初めてのものだ。
効果は保証されていない。
実際に誰かが使ってみて、それで初めて効果がわかるのだ。
「ナターシャ、万能薬といっても、世界で初めてできた薬だから、不安なんだね。もし不安なら、ほかの誰かが万能薬を使って、その効果が確かめられてから、君も万能薬を使えばいいんじゃないかな?」
「え……、あ、ああ、そうね。それがいいわ……。確かに、少し不安だから……」
ナターシャが不安になるのも当然だ。
万能薬を飲むときも、私が側にいてあげよう。
「大丈夫だよ。万能薬を飲むのが不安なのはわかる。君が万能薬を飲むときは、必ず側にいるよ」
「え、ええ……、ありがとう。それは、心強いわ……」
*
(※ナターシャ視点)
あぁ、もう、どうしたらいいのよ……。
なんだか本当に、万能薬が完成しそうな勢いだわ。
初めて聞いた時は、どうせ出鱈目だろうと思っていたけれど、大々的に記事で取り上げられ、世間が注目している。
そして、それを飲んで回復した人たちの様子を、涙を誘う感動物語として記事にするつもりなのだ。
最悪、万能薬が完成しても、飲まなければいいと思っていた。
しかし、それはもう、世間が許さないような状況だ。
最後の手段として、万能薬を飲むときに、「あ、うっかりこぼしちゃった」という演出をしようとしていたけど、アーノルドが側にいるのなら、それもできない。
絶対に怪しまれてしまうからだ。
もちろん、側にいることを断れば、さらに怪しまれてしまう。
完全に、私が万能薬を飲まなければならない流れになっている。
これがすべて、レイチェルの計算通りだとしたら、私はあの女を侮っていたことになるわ。
まさか、こんなことになるなんて……。
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