五ツ星
「若者達の新たな門出の日にお集まり頂き、感謝いたします。
長々と前口上のようなものが続く。
毎年同じようなことを言っているのだろうが、今か今かと待ち望んでいる俺達からするとソワソワして仕方がない。
目の前でお預けを食らっているような気分だ。
「───それでは一人目、テオ=ロッド。魔法陣の真ん中へ」
「はい!」
口上が終わり、一人目が呼ばれて円の中心で片膝をついて祈るように手を重ね合わせる。
「……天より託される一本の鎖は我が御魂と結ばれ、新たな命を今ここに顕現させるだろう。
テオが言葉を発すると、魔法陣が強烈な光を放ち始め、天井から降り注ぐ光と繋がった。
その瞬間、テオの胸から光の線のようなものが宙に向かって引かれ、徐々に集まっては形となって変化する。
そして一瞬の発光と共に光は火を纏った鳥へと変化した。
「これが…………僕の神獣……!」
──────────────────
【
○攻撃力:800
○防御力:500
○素早さ:800
○特殊能力:100
スキル:無し
──────────────────
と岩盤に表示された。
「ふむ……『
「ふ、二ツ星!?」
岩盤に表示された名前とレアリティを読み上げると、テオは明らかにガッカリとしたような声を上げ、周りの大人達もあからさまなため息をついた。
それもそうだ。とてもじゃないが二ツ星は優秀とは言えない。
一般的な見解では攻撃力が1000を超えると素手で岩石を破壊でき、2000を超えると大地を割り、3000を超えると周辺を吹き飛ばすと言われている。
800程度ではそこら辺にいる魔物と同じぐらいだし、いくらレベルを上げてもステータスの伸びも悪い。
戦いには不向きだろう。
「続いて二人目───」
そこからは次々と神獣との契約が続いた。
しかし、みんなどれも三ツ星以下ばかりで四ツ星以上は誰一人として現れなかった。
周りからもチラホラと今年はハズレだななどと声が聞こえる。
残すは俺とリオナとエルロンドの3名のみとなっていた。
「続いて、エルロンド=ギルバート」
「はい」
エルロンドは自信たっぷりに魔法陣の中心に跪くと、契約文を口にした。
「天より託される一本の鎖は我が御魂と結ばれ、新たな命を今ここに顕現させるだろう。
今までの誰よりも魔法陣が強く発光し、風が吹き荒れた。
その段階で誰もが察した。高レアリティの神獣であると。
「ははははは!!来い!僕の相棒!!」
吹き荒れた風の中から現れたのは、凛々しい立ち振る舞いで二足歩行で立ち、どこまでも沈んでしまいそうな深い海のような青色の毛をした狼だった。
──────────────────
【
○攻撃力:1800
○防御力:1200
○素早さ:1500
○特殊能力:800
スキル:『
──────────────────
「『
「「「おおおおお!!!」」」
周りからも大きく歓声が上がった。
今回初の四ツ星の神獣。
なによりもそれを召喚させたのが、上級貴族の長男であるエルロンドだったのだから、周りの大人達はまるでお祭り騒ぎだ。
「さすがギルバート様のところのご子息だ!なんともご立派な!」
「いやぁこれでギルバート様は次世代も安泰ですなぁー」
エルロンドはそりゃもう得意げな表情で神獣をカードに変化させ、俺に一瞥をくれると鼻で笑った。
『これが貴族と平民の違いだ』
そう言っているのが表情だけで見てとれた。
羨ましくない、と言えば嘘になる。
だけど俺はまだ終わっていない。
それ以上の五ツ星を出せればアイツにデカい顔ができるんだ。
「さすがエルロンド、って感じだね」
「あんな嫌な性格してるくせによく四ツ星なんか出せたもんだよ」
「次、リオナ=ベルガード」
「あ、はい!」
続いてリオナの名が呼ばれた。
どうやら俺は最後のようだ。
「頑張れリオナ」
「うん!」
リオナが魔法陣の中心に跪く。
周りからはやはり期待の声が多く聞こえてきた。
この国最強の神獣を持つ男の娘。
その兄弟も高レアリティの神獣を手にしており、誰よりも重い期待をのせられているプレッシャーの中での生活はさぞかし辛かっただろう。
だけどそんな辛そうな面を全く見せない強い心を持ったリオナが低レアリティのわけがない。
あいつなら大丈夫だ。
「天より託される一本の鎖は我が御魂と結ばれ、新たな命を今ここに顕現させるだろう。
空気が震えた。
まるで嵐の直前のように、地鳴りが響くように、圧倒的な異変が神堂内を支配する。
まるで神そのものがこの場に現れるのかと思わせるほどの圧力が俺達を襲った。
魔法陣が荒れ狂うように光り、リオナの胸から現れた光の線がとてつもない勢いで魔法陣の光と結合していく。
「わ、あああ!な、なにこれえええ!!」
「リオナ!!」
「これは…………!選ばれたのかリオナ!!」
ロートルおじさんが興奮したように声をあげた。
光が収束し、落ち着きをみせたかと思った瞬間、弾けるようにして辺りを真っ白に包み込んだ。
あまりの眩しさに目を瞑っていたが、しばらくしてからゆっくりと目を開けると、リオナの目の前に1体の神獣が四足で立っていた。
リオナの髪と同じく銀色に輝く立髪、また神々しい立ち振る舞いでそこに立つ姿は全ての人を萎縮させんとするほどの貫禄。
──────────────────
【
○攻撃力:2000
○防御力:1800
○素早さ:1500
○特殊能力:1000
スキル:『
──────────────────
「こ、これは……『
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
先程のエルロンドよりも遥かに大きな歓声が上がった。
かくいう俺自信も大声をあげていた。
羨ましいという感情と同時にそれ以上の祝福の感情が溢れ出た。
リオナがやりやがった!!
「え……?わ、私が……?」
どうやらリオナが一番驚いているようだ。
未だに実感がないといった表情をしている。
「これでこの国4人目の五ツ星所持者ではないか!ロートル、お前の家系は本当に一体どうなっているのだ!」
「光栄なことこの上ないですな」
宰相のヴェンゲル様でさえあの興奮のしよう、以下に五ツ星の神獣がとんでもないことかを物語っている。
これでリオナは間違いなく騎士団所属、もしくは国家に準ずるそれなりの役職に就くことになるだろう。
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