第3話 黄昏に響く懐かしの声
ご近所さんからの頼まれた作業を終え、自宅兼店舗に戻ってきた時だった。
「蒼士くんよ、このお嬢さん一人で来たそうだ。もう船もないから泊めてやってもらえないか?」
「はい? 分かりました……」
「じゃぁ頼むわ」
小さな島では宿泊できるところも多くない。うちは小さくても客室を設けたペンション扱いだから、素泊まりで構わなければ用意はできる。
「今明かりをつけます。暗くて申し訳ありませんでした」
「突然ごめんなさい……」
「えっ……」
夕焼けも落ち、顔もよく見られなかったけれど、声を聞いただけで分かった。
「おまえ……、陽菜……だよな……?」
「お兄ちゃん!!」
乗ってきたのであろうスクーターのスタンドを立て、駆け寄ってくる。
間違いない。あの陽菜だった。
「とりあえず、中に入ろう。話はそれからだ」
「うん」
スクーターを納屋の中に入れるように教えて、家の中の明かりをつける。
陽菜の荷物は小さなキャリアを一つ持ってきているだけだ。
「お客さんの用意してなかったから、食事はあるもので作るぞ?」
「うん。もちろんいいよ」
冷蔵庫に入っていたあり合わせの材料で、簡単な食事を作る。
「運んでおくね。こっちのテーブルでいいの?」
「あぁ、頼む」
まさか、こんなに
「おまえ、今はなにしてるんだ……?」
一番最初に聞きたかったのはそこだ。
「高校卒業してからお勤めしてる。今は遅い夏休みかな。でも本当はね、そのお仕事も辞めるつもりでいるの。お父さんもお母さんも、もう二人で介護施設に入ってて。私は一人暮らしだったから。もう私がいなくなってもあの二人は気にしないと思う。ううん、お兄ちゃんがいたこと、私の事もだんだん忘れているみたいだし」
「そうだったのか……」
だから、自分が連絡を取らなくなっても何事も起きなかったのかと納得する。その分陽菜には迷惑をかけてしまったのに。
「そしたらね、ネットでここの話を見つけて。なかなか同じ漢字の名前の人っていないし、ハズレを覚悟で来てみた。でも、大当たりだったね」
「そうだな」
「ねぇ、お兄ちゃん。……私……ここに来てもいい?」
「陽菜……。それでいいのか?」
「まだいろんなこと分からないし、ダイビングインストラクターの資格とかも持っていないけど、お料理を作ったり、お留守番ぐらいはできるから……」
「そうだよな。正直には人は足りないと思ってた。ただ陽菜、これから先のこともよく考えて決めてくれ。俺は陽菜の気持ちを一番に考えたい」
「分かった。ありがと……。やっぱり、私のお兄ちゃんは変わってなかった」
そう言った陽菜の頬に一筋光るものが零れ落ちた。
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