第119話 お食事

「ささ、みなさま! 温泉のあとはお食事をご堪能ください!」


 シンヤたちは温泉に入ったあと、大勢で宴会を開けそうな広々としたお座敷の方に案内された。

 そこでは豪華な料理が用意されており、みなで席に着く。料理は高級旅館で出されるようなものばかり。新鮮なお刺身や一人用の小さい鍋、高そうなお肉や手の込んだ品々の数々。見栄えはもはや完璧でとてもおいしそうだ。

 アマネとレインの分も用意してあり、ティアが配膳はいぜんなどをしてくれていた。


「露天風呂に感動してたら次はこれか。ははは、まじでいたれり尽くせりだな」

「すごくおいしそうだし、きれいー」

「高級旅館の夕食といったらってやつを、しっかり押さえてるね。しかも完成度高い。いい素材を使ってるのがすぐわかるよ」


 用意してくれた豪華な料理の数々に、はしゃぐシンヤたち。


「さあ、どうぞ、どうぞ!」

「わぁー、もうほっぺがおちちゃうほどおいしいよー」

「ははは、文句のつけようがないな。この世界に来て一番うまいまであるぞ」

「絶品だね。素材の味をここまで活かしているなんて。よほどウデの立つ料理人に作らせてるとみた」


 箸が止まらないとはこのことをいうのだろう。あまりのおいしさに、舌つづみするシンヤたち。


「ふふふふ、いかがでしょう! 一級の食材の数々、腕利きの料理人を集め夕食を用意させました!」


 アマネは胸を張り得意げに笑った。


「私もまだまだ及ばずながら、料理の方に参加させてもらいました」


 ティアがスカートのすそを持ち上げながら、ぺこりと頭を下げる。


「ティア、謙遜けんそんしすぎですよ。アナタの料理のウデは、彼らに引きをとらないでしょう」

「え? ティアさん、そんなに料理がうまいんですか?」

「ティアの料理のウデは母親譲りですからね。ワタシの自慢の専属シェフです!」

「恐縮です。料理は荒事同様お母さまにメイドのたしなみとして、小さいころから叩き込まれてきましたので」

「戦闘やエージェントの技術とか物騒なのは、メイドの範疇はんちゅうを超えすぎでは?」

「なにをおっしゃいますか。ナイフや銃を駆使くしして戦うメイドなんて、ロマンの塊じゃないですか!」


 アマネは目を輝かせ、メイドのロマンを力説する。

 確かに言われてみれば、それはまさにロマンの塊。すんなり納得してしまう。


「――た、確かに。ぐうの音もでない」

「フッ、ちなみにティアの母君はそれはまたすごいお方だったな。家事が神がかっているのはもちろん、そこにずば抜けた戦闘やエージェント技能の数々。今の自分でも戦えば、よくて相打ちが関の山だろう」


 レインが畏怖いふの念を込めながら、しみじみとティアの母親についてかたる。


「ワタシのとっておきの懐刀ふところがたなでした。彼女と二人で、このアマネ商会をここまで大きくしていったんですよ」

「そんなすごい人だったんですか。今はどうしてるんですか?」

「アマネ商会も大きくなりましたからね。世話役の役目は娘のティアに任し、今は商会のナンバー2として運営の方を手伝ってもらっています」

「自慢の母親です。私もいつかお母さまのようになれるよう、日々精進していきたい所存です」


 ティアは瞳を閉じ、立派な志を胸に思いをはせる。


「ふふふふ、期待してますよ。あとティア、お酒を持ってきてください」

「いいんですか? アマネさまはよっぱらうとめんどくさくなるので、みなさんに迷惑かけるかもしれませんよ」

「もちろんほどほどにしとくので大丈夫ですよ! ハクアさんとワタシの親睦、これからのよりよい関係を祝って今日はパーっとやらないと!」


 ことがすべてうまく運び、ご機嫌なアマネである。

 しかしそこへさぞ当然のように、ハクアが事実を口に。


「うん? 盛り上がってるところわるいけど、アマネさんが誘いを断ったこと許してないから。まだ全然根にもってるよ」

「え? さっきの戦いで全部、水に流してくれたんじゃ?」

「確かにその力と気概きがいは認めてあげたよ。だからアマネさんに敬意を払い、態度も改めた。そう、あの戦いに関してはそれだけで、ワタシの誘いの件とは別物だよ」

「――そ、そんなー」


 アマネはショックのあまり、その場に崩れ落ちる。


「とはいえ力を示して見せたのと、これまでの接待のすばらしさを踏まえるとそうだね。――よし、ワタシも鬼じゃないし、こうしよう。ちょっとした意思返しだけで済ませてあげようかな」

「――い、意思返しですか?」

「そんな身構えなくてもいいよ。明日の夜、アマネさんのところからあるものを奪いに行く。アナタたちはどれだけ抵抗してくれてもいいし、守りきれたらこちらも素直にあきらめてあげる。ちょっとしたゲームだね。一方的だとかわいそうだから、ちゃんと勝ち筋を用意してあげたよ」

「またアマネさんと戦うことになると?」

「アハハ、それだと余裕で勝っちゃうと思うから、ワタシが出向くのは自重してあげよう。代わりに使いの者にいかせるよ」

「ふむ、それなら勝ち目があるかもですね。ちなみにその使いの者とは、あのクラウディアさんですか?」

「彼女は裏でいろいろ動いてもらうのがメインだから、今回みたいな荒事は別の人に任せようと思うよ」

「なるほど。で、なにをワタシから奪おうと?」

「それは……、秘密かな。ただキレ者のアマネさんなら、察しがつくかもね。ワタシがほしくてたまらない、特別なもの」


 ハクアは意地の悪い笑みを浮かべながら、意味ありげにかたる。


「――まさかハクアさん、アレを……」


 どうやら心当たりがある様子。アマネの反応を見るに、よほどやばく重要な物のようだ。


「ゲームの舞台はアマネ商会になるのかな? ちなみにワタシのお目当てのものを、別の見つからないところに隠したり。あまりに目につく小細工をしてきたら、ワタシが参戦することになるかもだから気をつけてね。あくまで公平にだよ」

「――あはは……、それは勘弁なので、きもに命じておきますよ」


 釘を刺してくるハクアに、アマネは引きつった笑みを浮かべながら深くうなずく。

 ハクアが出てきたら間違いなく負ける未来しかないため、素直に彼女のいう通りにするしかないみたいだ。


「決まりだね! はたしてどうなるか楽しみだよ。ワタシは高みの見物をしてるから、みんながんばってね!」


 こうしてハクアとアマネのゲームが決まるのであった。

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